ECBがデジタルユーロ実証実験、ドイツ銀行やRevolutなど36社選定

ECBがデジタルユーロ実証実験の参加企業を公表

ECBがデジタルユーロ実証実験の参加企業を公表

欧州中央銀行(ECB)が14日、デジタルユーロの実証実験に参加する36の銀行・決済事業者を発表した。ドイツ銀行やRevolut、Adyenといった欧州を代表する金融機関が名を連ねている。2029年の発行を視野に入れた本格的な準備段階に入った格好だ。

実証実験は2027年後半に開始され、12か月間の予定で行われる。個人間のオンライン・オフライン送金に加え、店頭決済や電子商取引での利用を対象とし、ECBおよびユーロ圏19か国の中央銀行職員がテスターとして参加する仕組みだ。

今回の発表は、民間発行のドル建てステーブルコインが欧州の金融主権を脅かすとの危機感を背景としている。各国で中央銀行デジタル通貨(CBDC)を巡る賛否が分かれるなか、EUは立法化と並行して実装フェーズへと踏み出したことになる。

パイロットの規模と参加企業の顔ぶれ

パイロットの規模と参加企業の顔ぶれ

ECBの公式発表によると、今回の選定は50の応募企業から36社を絞り込む形で行われた。選ばれた企業には、ドイツ銀行やイタリアのウニクレディトといった伝統的な大手銀行に加え、フィンテック企業のRevolut、決済端末大手のSumUp、オランダ発の決済プラットフォームAdyen、フランスの決済サービスWorldlineなどが含まれる。

CBDCとは、簡単に言えば「デジタル化された法定通貨」のことだ。紙幣や硬貨と同じく中央銀行が直接発行し、価値を保証する。暗号資産のように価格が乱高下することはなく、常に1デジタルユーロ=1ユーロで取引される設計になる見通しだ。

パイロットではベータ版のシステムを用いて、オンラインおよびオフラインでの個人間送金、実店舗での支払い、ネット通販での決済を検証する。ECB職員が実際の消費者役となり、一部の社員食堂やカフェテリア、協力するオンライン加盟店で支払いを行う計画だ。

法的にはまだ正式な通貨としての地位を持たないものの、EUの法案で示されている設計思想に限りなく近い形で実装される。要は、法律が成立すれば即座に本番環境へ移行できるよう、技術面の準備を済ませておく狙いがある。

ステーブルコインへの危機感が駆動する欧州

ステーブルコインへの危機感が駆動する欧州

ECBがここまで急ぐ背景には、テザー(USDT)やサークル(USDC)といったドル建てステーブルコインの急速な普及がある。これらの民間発行ステーブルコインが決済手段として広がれば、ユーロ圏の金融政策の効果が薄れたり、通貨主権そのものが損なわれたりするリスクが現実味を帯びているのだ。

ステーブルコインとは、法定通貨と1対1で連動するよう設計された暗号資産である。多くは米ドルを裏付け資産とし、価格が常に1ドル付近で安定する仕組みを持つ。使い勝手の良さから国際送金や暗号資産取引の決済手段として利用が急拡大している。

ユーロ建ての決済がドル建てステーブルコインに置き換わっていくと、欧州企業や個人の経済活動が域外の民間企業の動向に左右される構図になりかねない。ECBとしては、ユーロのデジタル版を自ら発行することで、この流れに対抗しようとしているわけだ。

監視社会への懸念と米国との対照的な動き

監視社会への懸念と米国との対照的な動き

CBDCを巡っては、プライバシー保護の観点から根強い反対意見がある。中央銀行がすべての取引を追跡できるようになれば、政府による監視の道具になりかねないという懸念だ。ECBはオフライン決済機能の実装などでプライバシーに配慮する姿勢を示しているが、不安を完全に払拭するには至っていない。

この問題は欧州に限った話ではない。米国では先月、連邦準備制度理事会(FRB)によるデジタルドルの発行・創設を2030年末まで禁止する法律が施行されたばかりだ。市民の追跡や口座凍結への警戒感が強く、政治的な合意形成が進まなかった結果である。

CBDCのプライバシー問題は、いわば「透明な金庫」を政府が持つかどうかの議論に近い。取引の正当性を検証できることは脱税やマネーロンダリング対策に有効だが、同時に個人の購買履歴が当局に筒抜けになるリスクも伴う。欧州は立法プロセスの中で、このジレンマにどう折り合いをつけるかが焦点となっている。

2029年の発行を左右する立法と理事会判断

2029年の発行を左右する立法と理事会判断

デジタルユーロが正式に発行されるかどうかは、立法とECB理事会の2段階の承認が必要となる。法案は先月、欧州議会の委員会を通過し、次の段階へと進んだ。しかし最終的な成立にはまだ時間がかかる見通しで、政治的な駆け引きが続く可能性は高い。

ECBはこれまで、早ければ2029年に発行が可能との見通しを示してきた。今回のパイロットはそのロードマップの節目であり、技術的な実現性を検証する最終工程に位置づけられる。36社という広範な参加企業の顔ぶれは、実用化を見据えた意欲の表れと受け取れる。

一方で、欧州各国の足並みが完全に揃っているわけではない。CBDCに対して慎重な姿勢を崩さない加盟国もあり、発行に必要な法整備がどこまで円滑に進むかは不透明だ。ECBのファビオ・パネッタ専務理事は従来から「デジタルユーロは補完的役割」と語っており、現金廃止ではないとのメッセージを繰り返し発信している。

暗号資産市場への波及効果

暗号資産市場への波及効果

デジタルユーロの進展は、欧州における暗号資産市場にも少なからぬ影響を与えるとみられる。CBDCの普及が進めば、既存のステーブルコインの一部需要が置き換わる可能性がある一方、法定通貨と暗号資産をつなぐインフラとして機能する見方もある。

参考までに足元の中央集権型取引所(CEX)の動向に目を向けると、6月の現物取引高は5か月ぶりに増加に転じ、前月比15.3%増の1兆1,100億ドル規模となった。RWA(現実資産)関連の永久先物取引高も3,110億ドルと過去最高を更新している。

市場全体では、CBDCの法制化が欧州の暗号資産規制の枠組みであるMiCA(暗号資産市場規制)とどう整理されるかが注目点だ。規制の網が細かくなるほど、事業者のコンプライアンス負担は増すが、同時に機関投資家の参入障壁は下がるという二面性を持つ。

この記事のポイント

  • ECBがデジタルユーロの実証実験にドイツ銀行やRevolutなど36社を選定した
  • 実験は2027年後半から12か月間、オンライン・オフライン決済と加盟店支払いを検証する
  • ドル建てステーブルコインの普及が欧州の金融主権を脅かすとの危機感が背景にある
  • 米国では先月、2030年末までのデジタルドル発行を禁止する法律が施行され、対応が分かれた
  • 正式発行にはEU立法の成立とECB理事会の承認が必要で、早ければ2029年を想定する
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