イーサリアムを資産の柱に据える財務戦略を展開していたEther Machine(イーサ・マシン)が、計画していた株式公開を断念した。ナスダック上場の特別買収目的会社(SPAC)であるDynamix Corporation(ダイナミックス・コーポレーション)との合併を解消することで合意したためだ。
今回の決定は市場環境の悪化を理由としており、両社の合意によって即座に発効した。かつて15億ドルを超えるイーサリアムを運用し、機関投資家向けの巨大な利回りファンドを目指していたプロジェクトは、大きな転換点を迎えている。
暗号資産業界では、企業が自社のバランスシートに特定の銘柄を組み込む財務戦略が一時的なブームとなったが、その持続可能性が改めて問われる事態となっている。特にイーサリアムを軸にした戦略をとる企業において、撤退や方針転換の動きが加速している状況だ。
Ether MachineとDynamixの合併解消。5000万ドルの支払い義務も

Ether Machineは2026年4月11日、SNSのXを通じてDynamixとの合併契約を終了したと発表した。この合併は、Ether Machineがナスダック市場に「ETHM」というティッカーシンボルで上場することを目指したものだったが、市場の不透明感から計画は白紙に戻された。
米国証券取引委員会(SEC)への提出書類によると、今回の契約終了に伴い、特定の支払当事者がDynamixに対して5000万ドルの解約料を支払う義務が生じている。この支払いは、契約終了の発効から15日以内に行われる必要がある。なお、この「支払者」の具体的な名称は公開書類の別紙に記載されているものの、一般には明かされていない。
合併相手だったDynamixは、2026年11月22日までに別の企業との合併を完了させる必要がある。もし期限までに新たな提携先を見つけられなかった場合、同社は解散を余儀なくされ、信託口座に保管されている資金は株主に返還されることになる。SPACという仕組み上、時間との戦いが続くことになる。
かつての壮大な構想。15億ドル規模のイーサリアム運用ファンド

Ether Machineの計画は、当初非常に野心的なものだった。2025年7月に発表された構想では、機関投資家を対象とした世界最大の利回り型イーサリアム(ETH)ファンドを立ち上げるとしていた。共同創設者には、イーサリアムの開発インフラを担うConsensys(コンセンシス)の元幹部であるAndrew Keys(アンドリュー・キーズ)とDavid Merin(デビッド・メリン)が名を連ねている。
当時の計画によれば、同社は40万ETHを超える資産を運用する予定だった。当時の価格で換算すると約15億ドルに相当する規模だ。イーサリアムを単に保有するだけでなく、ステーキングなどを通じて利回りを生み出し、その収益を投資家に還元するビジネスモデルを描いていた。
2025年9月には、プライベート資金調達ラウンドで6億5400万ドルを確保することに成功している。この中には、著名なイーサリアム支持者であるJeffrey Berns(ジェフリー・バーンズ)からの15万ETHも含まれていた。バーンズは同社の取締役に就任し、ナスダック上場に向けた準備を加速させていたが、今回の合併解消により、その道筋は閉ざされたことになる。
イーサリアムの価格は現在、2,100ドル付近で推移している。かつて15億ドルと評価されていた40万ETHの価値は、市場の変動によって大きく影響を受けている。機関投資家が求める安定性と、暗号資産市場のボラティリティ(価格変動の激しさ)をどう調和させるかが、同社の最大の課題だったといえる。
相次ぐ「イーサリアム財務戦略」からの撤退

Ether Machineのケースは、決して孤立した出来事ではない。イーサリアムを財務資産として保有する戦略をとっていた他の企業も、相次いでポジションを解消している。市場分析を行うTrend Research(トレンド・リサーチ)は、保有していたイーサリアムをすべて売却したことが報じられている。
Trend Researchは、約65万ETH(約13億4000万ドル相当)を売却し、約7億4700万ドルの損失を確定させた。同社はバイナンスなどの取引所を通じて大規模な売却を行い、イーサリアムへの依存度をゼロにまで下げている。巨額の損失を出してでも撤退を選んだ背景には、イーサリアムの将来的な価格上昇に対する不透明感があると考えられる。
また、かつてバイオテクノロジー企業からイーサリアム財務戦略へと舵を切ったETHZilla(イーサジラ)も、その戦略を放棄した。同社は「Forum Markets(フォーラム・マーケッツ)」へとブランド名を変更し、現在はトークン化関連の事業へとピボット(事業転換)している。もはや社名に「ETH」を冠することすら、リスクと見なされる時代になったのかもしれない。
暗号資産業界におけるSPAC上場の難しさ

今回の合併解消は、SPACを通じた上場という手法そのものの難しさも浮き彫りにしている。SPACは「空箱」の会社が先に上場し、後から事業会社を買収する手法だが、暗号資産関連企業の場合、規制当局の審査が非常に厳しくなる傾向がある。
特にイーサリアムのような、ステーキング報酬を伴う資産を主軸にする企業は、それが「証券」に該当するかどうかの議論に巻き込まれやすい。SECはステーキングサービスに対して厳しい姿勢を崩しておらず、これが上場プロセスの遅延や、投資家の慎重な姿勢につながった可能性がある。
また、SPAC上場は市場が好調な時には「裏口上場」として機能するが、市場が冷え込むと、株主による資金回収(償還)が相次ぐリスクがある。Ether Machineが「不利な市場環境」を理由に挙げたのは、上場しても十分な資金を維持できない、あるいは株価が暴落するリスクを予見したためだろう。
独自の分析。イーサリアムは「財務資産」として不適格なのか

ビットコインが「デジタル・ゴールド」としての地位を固め、マイクロストラテジー社のような成功例を生んでいる一方で、なぜイーサリアムの財務戦略は苦戦しているのだろうか。ここには、両銘柄の性質の違いが大きく関係していると筆者は分析する。
ビットコインは供給量が限定された「価値の保存手段」としての側面が強い。対してイーサリアムは、スマートコントラクトを実行するための「プラットフォーム燃料」としての性質が強い。さらに、大型アップデート後のイーサリアムは、供給量が減少するデフレ的なメカニズムを持つ一方、ステーキングによる「利回り」が発生する。この利回りが、機関投資家にとっては魅力であると同時に、複雑な規制上の解釈を生む原因となっているのだ。
現在の市場は、単に「イーサリアムを持っている」というだけの企業を評価しなくなっている。現物ETF(上場投資信託)が承認されたことで、投資家はわざわざ個別企業の株を買わなくても、直接イーサリアムに投資できるようになった。Ether Machineのような企業が生き残るには、ETFにはない「独自の付加価値」を証明する必要があったが、そのハードルは予想以上に高かったようだ。
この記事のポイント
- Ether Machineは市場環境の悪化を理由に、SPAC合併によるナスダック上場を中止した。
- 合併解消に伴い、特定の当事者がDynamixに対して5000万ドルの違約金を支払う必要がある。
- 当初は15億ドル規模のETHを運用する世界最大の利回りファンドを目指していた。
- Trend ResearchやETHZillaなど、他の企業もイーサリアム財務戦略からの撤退や転換を進めている。
- イーサリアム現物ETFの普及により、個別企業がETHを保有する戦略の優位性が薄れている可能性がある。

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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