イーサリアム財団が予算40%削減、ブテリン氏が大規模再編を発表

イーサリアムの開発を支えてきたイーサリアム財団(EF)が、組織のあり方を根本から見直す大規模な再編に踏み切る。共同創業者ヴィタリック・ブテリン氏自身が発表した新方針は、年間予算の約40%削減と、2030年を見据えた新たな運営モデルへの移行だ。

背景には、2026年1月以降9人にのぼる幹部の退任や、競合ブロックチェーンとの競争激化がある。財団の保有資産を長期的に維持しながら、イーサリアムの次のロードマップを実現できるのか。変革の全体像を具体的な数字とともに読み解く。

予算40%削減の衝撃。数値で見るEFの大規模再編

予算40%削減の衝撃。数値で見るEFの大規模再編

イーサリアムの共同創業者ヴィタリック・ブテリン氏が2026年6月23日、ブログ記事でイーサリアム財団の抜本的な再編計画を明らかにした。最大の注目点は年間予算の約40%削減だ。

これは単なるコストカットではない。財団の運営モデルそのものを、従来の「年間支出型」から大学の基金(エンダウメント)のような「資産保全型」へと大きく転換する動きである。

支出率を15%から5%へ。2030年までの長期計画

ブテリン氏の説明によれば、2026年以前のEFは毎年、残存する財務資産の約15%を支出していた。このペースでは長期的な持続性に疑問符がつく。そこで打ち出したのが、2030年以降に年間支出率を約5%まで引き下げるという目標だ。

これはどういう意味か。わかりやすく言えば、年間の取り崩し率を3分の1に抑えるということだ。基金型モデルでは、運用益の範囲内で活動資金をまかないつつ、元本を大きく減らさない運営が基本になる。財団が「永遠に存続する組織」を目指す以上、この転換は理にかなっている。

一方で、短期的には大きな痛みをともなう選択であることも間違いない。支出削減は、現在進行中のプロジェクトや雇用に直接影響を及ぼすからだ。

人員削減20%も同日発表。幹部9人が退任

予算削減と同日、EFは人員の20%削減を確認した。組織のスリム化を数字の面からも推し進めるかたちだ。

さらに衝撃的なのは、共同エグゼクティブディレクターを務めていたワン・シャオウェイ氏の辞任である。彼女の退任により、2026年1月以降にEFを去った上級幹部は合計9人に達する。これは組織の混乱の深さを物語る数字だと言わざるを得ない。

ブテリン氏が語る「痛みをともなう決断」

ブテリン氏が語る「痛みをともなう決断」

普通、組織のトップは改革を発表するとき「これは前向きな変化だ」と強調しがちだ。しかしブテリン氏は違った。ブログ記事で率直にこう綴っている。

「同僚たちにあまりにも深い敬意を抱いている以上、失われるものがなかったかのように装うことはできない」

この言葉からは、今回の再編が単なる合理化ではなく、長年イーサリアムに貢献してきた熟練エンジニアたちとの別れをともなう「困難な決断」であることが伝わってくる。

何が削減対象になったのか

ブテリン氏が示した具体的な削減項目を見ていこう。まず、プライバシーとスケーリング技術の研究開発を手がけてきたPSE(Privacy and Scaling Explorations)ユニットの段階的縮小が明記された。

また、毎年開催される大規模開発者会議「Devcon」も、規模を縮小して費用を抑える方向に舵を切る。さらに、これまで幅広く展開してきた機関投資家向けの戦略も、対象を絞ったものに変更される見通しだ。

技術面では、AIを活用した形式検証をサポート役として、より専門特化したクライアントチーム体制への移行が掲げられている。形式検証とは、数学的な手法でコードにバグがないことを証明する技術だ。AIの支援により、少人数でも高い品質を保つ狙いがある。

イーサリアムが目指す「リーン・アンド・ダン」の未来像

イーサリアムが目指す「リーン・アンド・ダン」の未来像

今回の発表で見逃せないのは、ブテリン氏が以前から主張してきた「リーン・アンド・ダン(lean-and-done)」構想を改めて強調したことだ。

これはどういう考え方か。現在掲げているロードマップを完了させたあとのイーサリアムは、継続的な機能拡張を前提としない形に移行すべきだ、というものだ。プロトコル開発は主にセキュリティ修正と、厳選された影響力の大きいアップグレードに絞り込まれる。

つまり、永遠に新機能を追加し続けるのではなく、基盤が完成したら「維持・保守」のフェーズに入るという発想だ。これはソフトウェアの世界では成熟の証とも言えるが、急速に進化する暗号資産業界でその戦略が競争力を保てるかどうかは、意見の分かれるところだろう。

「第三の反復」としてのロードマップ

ブテリン氏は、現在のイーサリアムのロードマップを「マージ(Merge)に続く第三の反復」と位置づけている。マージとは2022年9月に実行された、プルーフ・オブ・ワークからプルーフ・オブ・ステークへの移行を指す大規模アップグレードだ。

財団の予算縮小によってこのロードマップが遅れるのではないか、という懸念に対しては、ブテリン氏は経費削減の対象を「ロードマップ以外の部分」に限定する考えを示している。研究開発の核心部分は死守するというメッセージだ。

競争激化と内部分裂。EFが直面する複合危機

競争激化と内部分裂。EFが直面する複合危機

今回の大規模再編が発表された背景には、外部と内部の両面から押し寄せるプレッシャーがある。

外部要因として大きいのは、ソラナやアバランチなど競合レイヤー1ブロックチェーンの台頭だ。これらのチェーンは高速処理と低手数料を武器に、DeFi(分散型金融)やNFT(非代替性トークン)の分野で急速にシェアを拡大している。イーサリアムはエコシステムの成熟度では依然としてリードしているが、スピードとコストでは後れを取っているとの指摘は根強い。

内部要因としては、リーダーシップの空洞化が深刻だ。共同エグゼクティブディレクターの退任を含め、わずか半年足らずで9人の幹部が去った事実は、組織としての求心力に疑問を投げかける。ブテリン氏自身は財団の日常運営には関与していないとされるが、今回自らブログで再編計画を発表したのは、混乱を収束させる意図があったと見るのが自然だろう。

取引量減少が示す市場の変化

市場データもイーサリアムにとって追い風とは言えない。2026年5月の暗号資産取引所の合計取引量は前月比3.45%減の4.41兆ドルと、2024年9月以来の低水準に落ち込んだ。

こうした市場全体の冷え込みは、イーサリアムのエコシステムが生み出す手数料収入にも影響を及ぼしかねない。財団が資産保全型モデルへの転換を急ぐ背景には、将来の収入減少リスクを見越した備えという側面もあるだろう。

一方で、RWA(現実資産)の無期限先物の取引量は10.4%増加し、過去最高を更新した。RWAとは、株式や債券、不動産といった現実世界の資産をブロックチェーン上でトークン化したものだ。この分野の成長は、暗号資産市場の成熟と機関投資家の関心の高まりを示している。

この記事のポイント

  • イーサリアム財団は年間予算を約40%削減し、資産保全型の基金モデルへ移行する
  • 支出率を現在の約15%から2030年以降は約5%に引き下げる長期目標が掲げられた
  • 同日に人員20%削減が確認され、2026年1月以降で上級幹部9人が退任する混乱が続く
  • ブテリン氏は「リーン・アンド・ダン」構想を改めて強調し、プロトコルの完成後は保守重視の運用を志向
  • PSEユニット縮小やDevconの小型化など、ロードマップ以外の経費削減に集中する方針が示された
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