全銀行がデジタル資産保有へ、Zodia CEOが語る信託獲得の必然

伝統的な金融機関による暗号資産インフラの獲得競争が、新たな段階に入った。銀行がデジタル資産を自社開発する時代は終わり、既存の専門企業を買収して信頼性と即応性を手に入れる動きが加速している。

Zodia Custodyのジュリアン・ソーヤーCEOは、スタンダードチャータード銀行による同社の完全買収を「業界全体にとっての巨大な勝利であり、大きな検証だ」と表現した。この動きは、単なる企業買収の枠を超え、金融の基盤そのものがブロックチェーンへと移行しつつあることを示している。

ソーヤー氏の主張の核心は明快だ。世界の全銀行が、いずれデジタル資産を保有する方法を知らなければならなくなる。そして、そのためには銀行が本来得意とする「信託」の仕組みが不可欠になるという。

スタンダードチャータードによる買収の全容

スタンダードチャータードによる買収の全容

CoinDeskのインタビューに応じたソーヤーCEOは、買収プロセスの具体的なスケジュールを初めて明らかにした。最終契約の締結は2026年6月末を目標としており、全ての手続きは8月末までに完了する見通しだ。

買収総額や評価額については開示されなかったものの、Zodiaの事業規模を示すいくつかの指標は公表されている。同社は2023年にSBIホールディングスが主導する資金調達ラウンドで約3,600万ドルを調達。市場推計では、年間収益は約3,460万ドル、累計調達額は約4,600万ドルに達している。

この買収によって組織構造は大きく再編される。スタンダードチャータードがドバイ、ルクセンブルク、香港で既に展開しているデジタルカストディ事業は、Zodia Custodyと統合された後、最終的には本体の銀行ブランドへと吸収される。ソーヤーCEO自身が「Zodia Custodyというブランドは中期的に存在しなくなる」と認めている。

一方で、Zodiaが開発してきたソフトウェアとインフラ技術は形を変えて存続する。ノーザントラスト、エミレーツNBD、ナショナルオーストラリア銀行などの既存株主の支援を受け、「Zodia Solutions」という新会社が設立され、テクノロジー事業を引き継ぐ計画だ。

銀行が「作る」から「買う」へ転換する理由

銀行が「作る」から「買う」へ転換する理由

金融業界では長年、大手銀行が自社内でデジタル資産の試験プロジェクトを進めてきた。しかし、ソーヤーCEOは「銀行は、適切なソフトウェアなしに機関投資家グレードのデジタル資産カストディを安全かつ効率的に構築することはできない」と指摘する。この認識の広がりが、自前主義からの撤退と既存プラットフォーム買収への流れを生んでいる。

カストディとは、簡単に言えば資産の「預かり管理」業務だ。デジタル資産の世界では、単にデータを保管するだけではなく、秘密鍵の管理や取引の承認といった高度なセキュリティが求められる。個人が自分で管理するのが難しい大口資金にとって、信頼できるカストディ企業の存在は市場参加の必須条件となる。

ソーヤー氏が強調するのは、業界が単なる暗号資産の売買を超えて成熟しつつあるという現実だ。「ブロックチェーンのカストディは、暗号資産から他の資産、ステーブルコイン、トークン化へと移行している。これを行うには信託が必要で、信託こそが銀行の本業だ」と彼は語る。

大手機関投資家が安全性と信頼性を優先するとき、数十年にわたって規制当局の監督下で資産管理を行ってきた銀行ブランドの価値が再評価されている。スタンダードチャータードが自社の顧客基盤とブランド力にZodiaの技術を組み合わせる戦略は、このトレンドを象徴するものだ。

「全銀行がデジタル資産を保有する」時代の到来

「全銀行がデジタル資産を保有する」時代の到来

ソーヤーCEOは「巨大銀行は間違いなくこの領域を注視しており、ステーブルコインやトークン化を検討するすべての金融機関は何らかの答えを持つ必要がある」と述べ、市場の潜在規模が極めて大きいことを示唆した。

トークン化とは、株式や債券、不動産といった現実の資産をブロックチェーン上でデジタル証書として発行する技術だ。株式売買の仕組みを例に取れば、従来の証券取引所のように数日かかる決済が、ブロックチェーン上では瞬時に行えるようになる。Zodiaの技術インフラに寄せられる顧客からの関心は、足元で急激に拡大しているという。

この発言の背景には、伝統的金融と暗号資産の境界線が消えつつある現状がある。ソーヤー氏がCoinDeskの記事で指摘したように、KYC(顧客本人確認)やAML(マネーロンダリング防止)といった銀行規制は、もはや暗号資産業界にとっても前提条件だ。業界全体が法的枠組みの方向へ動いている以上、銀行のインフラと知見を活用するのは自然な進化と言える。

国際規制の収斂と英国の立ち位置

国際規制の収斂と英国の立ち位置

このような機関投資家レベルの統合が進むと、各国の規制も自然と歩調を合わせ始める。ソーヤーCEOはアジアと中東で「大きな進展」があったとし、シンガポール、香港、アブダビの新たな規制を評価した。

一方で、英国については興味深い見方を示している。同氏は「FCA(金融行為規制機構)が業界の先を行っていた時代から状況は変わり、今では各法域が異なる速度で動いている」と述べ、イングランド銀行、財務省、FCAの間の内部的な摩擦が、英国が暗号資産ハブになるという目標の妨げになっているかという問いに対して、直接的な批判は避けつつも情勢の変化を認めた。

規制の遅れや不確実性は事業者にとって障壁となるが、ソーヤー氏は悲観していない。彼のメッセージは「規制当局と参加者は共に進化し続けなければならない」というものだ。世界中の政府がデジタル資産を無視できない経済要素と捉え始めた今、ルール整備は確実に前に進んでいる。

この記事のポイント

  • スタンダードチャータードがZodia Custodyを2026年8月末までに完全買収し、デジタルカストディ事業を銀行本体に統合する。
  • 銀行が自社開発を諦め、専門企業の買収によって信託に足るインフラを即座に獲得する流れが加速している。
  • 全銀行がトークン化資産やステーブルコインを扱う将来を見据え、世界中で規制の枠組みが急速に整備されつつある。
  • ブランドは消えても、Zodiaの技術は「Zodia Solutions」として存続し、銀行向けインフラ提供を続ける。
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