米元国防長官が警告「CLARITY法は国家安全保障法案だ」

CLARITY法の審議が大詰めを迎えている

CLARITY法の審議が大詰めを迎えている

米上院で審議中の「CLARITY法」をめぐり、国家安全保障の重鎮から強い後押しの声が上がった。元国防長官でコインベース・グローバル諮問委員会のメンバーも務めるマーク・エスパー氏が、英フィナンシャル・タイムズ紙への寄稿で「これは単なる金融サービス法案ではなく、国家安全保障法案だ」と強調したのだ。

上院では9月15日に採決が予定されており、上院多数党院内総務のジョン・スーン氏はすでに審議入りに向けた動議を提出した。本記事では、なぜ国防の専門家が暗号資産規制にここまで強い危機感を示すのか、その背景を読み解く。

CLARITY法とは何か

CLARITY法とは何か

CLARITY法(Clarity for Digital Tokens Act)は、デジタル資産の法的な位置づけを明確にする連邦法案だ。最大の焦点は、暗号資産(仮想通貨)が「証券」なのか「コモディティ(商品)」なのかという長年のグレーゾーンに、一定の線引きを与える点にある。

証券とは株式や社債のように企業の資金調達手段として発行され、投資家の利益を期待させるものを指す。一方コモディティは金や原油のように、それ自体に価値がある物品だ。この分類が変わると、監督官庁が証券取引委員会(SEC)になるのか商品先物取引委員会(CFTC)になるのかが決まり、発行体や取引所に求められるルールが大きく変わる。

同法は、分散化が十分に進んだプロジェクトのトークンをコモディティ扱いにする基準などを盛り込んでおり、業界からは規制の不透明さを減らす一歩と評価されている。つまりCLARITY法は、ルールをはっきりさせることで、犯罪者だけが抜け穴を突ける無法状態を終わらせようという法案だ。

国防のプロが「安全保障」と見る理由

国防のプロが「安全保障」と見る理由

エスパー氏は寄稿のなかで、中国と北朝鮮という二つの具体的な脅威に言及した。まず中国について、政府が主導する国家決済システムへの投資が進んでおり、米政府の監視をすり抜けてドルの中心的な役割を侵食しようとしていると指摘する。

ドルが国際決済の基軸通貨であり続けることは、米国が世界中の金融取引を監視し、必要に応じて制裁を科す力の源泉だ。仮に中国が暗号資産技術を使った独自の決済網を広げれば、ドルを介さない取引が増え、米国の影響力は相対的に低下する。エスパー氏は「中国は我々の時代で最大の戦略的脅威だ」と繰り返し述べてきた人物であり、今回の寄稿はその問題意識を暗号資産規制に直結させた形だ。

もう一つの脅威が北朝鮮だ。国家の支援を受けるハッキング集団「ラザルス・グループ」はこれまでも暗号資産を標的にしたサイバー攻撃を繰り返し、年商にして数千億円規模の資金を窃取してきたと推定されている。こうした資金が大量破壊兵器の開発に流用されている可能性は、米情報機関も以前から警告している。

米財務省に強力な武器を渡す311条

米財務省に強力な武器を渡す311条

エスパー氏が特に強調したのが、CLARITY法によって拡張される「米国愛国者法311条」に基づく財務省の特別措置権限だ。この権限は、マネーロンダリング(資金洗浄)が深刻な懸念事項であると判断された外国の金融機関や取引類型に対して、米国内の金融機関が一切の関係を断つよう命じられる強力なものだ。

具体的には、特定の外国銀行を「ブラックリスト」に載せ、米ドル決済網から締め出すことができる。これは米国の金融制裁のなかでも最も切れ味が鋭い武器の一つとされ、実際に過去には北朝鮮やイランの銀行に対して発動された実績がある。

CLARITY法が可決されれば、この権限が暗号資産分野の悪質な主体に対してもより機動的に使えるようになる。エスパー氏の表現を借りれば「ならず者国家に対する最も鋭い刃」を、最新のデジタル決済空間にまで届かせる改正というわけだ。

採決を前にした展望と影響

採決を前にした展望と影響

9月15日の上院採決に向けて、与野党の駆け引きは最終段階に入っている。すでに超党派の支持を得ているとの観測もあるが、SECの権限縮小を嫌う消費者保護重視派と、イノベーション促進を優先する業界寄りの議員との綱引きは予断を許さない。

仮に法案が成立すれば、米国は暗号資産の包括規制で欧州連合(EU)のMiCA(暗号資産市場規制)に追いつき、むしろ国家安全保障の枠組みを組み込んだ点で一歩先を行く可能性がある。一方、審議が長引けば、シンガポールや香港といったアジアの金融ハブが先行して規制の明確化を進め、暗号資産ビジネスの受け皿となる動きが加速するかもしれない。

この記事のポイント

  • 元国防長官マーク・エスパー氏がCLARITY法を「国家安全保障法案」と位置づけ上院に早期可決を訴えた
  • 中国の国家決済網構築や北朝鮮ラザルス・グループの制裁潜脱を防ぐ狙いがある
  • 法案成立で米財務省の特別措置権限(愛国者法311条)が暗号資産分野にも拡大される
  • 上院での採決は9月15日を予定。審議の行方がアジア金融ハブとの競争にも影響する
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