フランス国民議会の財政委員会が、自己管理型の暗号資産に報告義務を導入する改正案を採択した。基準額は10万ユーロ以上で、報告しない場合は最大1万ユーロの罰金が科される可能性がある。
脱税対策が主な目的で、欧州の暗号資産規制が一段と厳しくなる流れを反映している。この記事では、改正案の内容、背景にある税務データ、同時に採択された他の規制案、そして今後の成立見通しを整理する。
10万ユーロ超の自己管理型暗号資産に報告義務

金曜日に採択された改正案番号I-CF821は、暗号資産サービスプロバイダー以外が保有する暗号資産の報告義務を導入する内容だ。具体的には、個人ウォレットに保管している暗号資産が対象になる。
自己管理型ウォレットとは、取引所に預けずに自分で秘密鍵を管理する形式を指す。秘密鍵とは、暗号資産を動かすためのパスワードのようなものだ。取引所に預けている資産は業者が管理するため、今回の改正案では対象外となる。
対象となるのはどのような資産か
報告義務の対象は、10万ユーロ(約11万2,000ドル)以上の評価額を持つ自己管理型の暗号資産だ。ビットコインやイーサリアムなど主要な暗号資産はもちろん、個人ウォレットに保管されているすべての暗号資産が含まれる。
一方、取引所やカストディサービスなどの暗号資産サービスプロバイダーに預けている資産は対象外だ。これらの事業者は既に別の規制に基づいて報告義務を負っている。二重の報告を避ける狙いがある。
申告のタイミングと罰則
改正案はフランスの一般税法に条項を追加する形になる。報告は毎年12月31日時点の評価額に基づいて行う必要がある。年末時点で10万ユーロ以上の自己管理型暗号資産を保有している場合、税務当局への申告が求められる。
報告を怠った場合の罰金は最大1万ユーロだ。金額自体は比較的小さい。しかし、意図的な脱税と判断された場合は別の追徴課税もあり得る。自己管理型ウォレットを使う投資家にとって、無視できない変更になる。
脱税対策の背景、2021年の税務データが示す実態

この改正案の主な目的は脱税対策だ。提案者は富裕層の課税に関する議会調査を引用し、暗号資産のキャピタルゲインが2021年に35億ユーロに達した一方、税務当局に申告された暗号資産はわずか4億ユーロだったと指摘している。
キャピタルゲインとは、資産を売却した際に得られる利益のことだ。暗号資産は値動きが激しいため利益が大きくなる一方、自己管理型ウォレットを使えば税務当局に把握されにくいという問題があった。
キャピタルゲインと申告額の大きな乖離
2021年のデータが示すのは、暗号資産で得た利益の大半が申告されていない可能性があるということだ。35億ユーロの利益に対して申告が4億ユーロということは、単純計算で9割近くが未申告だったことになる。
自己管理型ウォレットは銀行口座と違い、取引の記録が自動的に税務当局に共有される仕組みがない。そのため、納税者の自主申告に依存している部分が大きい。フランスの税務当局はこれまで取引所に対して顧客情報の提供を求めてきたが、自己管理型ウォレットに資産を移せば監視の網から外れる可能性があった。今回の改正案はこの抜け穴を塞ぐ狙いがある。
LIOT会派が提案した理由
改正案はLIOT会派の3議員、シャルル・ド・クールソン氏、ジャンピエール・バタイユ氏、ミシェル・カステラーニ氏によって提出された。LIOTとは「自由・独立・海外領土・領土」の略で、フランス国民議会の会派の1つだ。
提案者らは富裕層の課税に関する議会調査を根拠に挙げている。暗号資産の利益が十分に課税されていないという認識が、こうした規制強化の動きにつながった。暗号資産を単なる投資対象ではなく、税務執行の観点からも捉え直す動きといえる。
同時に採択された他の暗号資産関連改正案

このウォレット報告義務は、先週財政委員会で採択された5つの暗号資産関連改正案の1つだ。他にも、暗号資産に対する課税強化が複数採択されている。フランスの税制が暗号資産を厳しく取り締まる方向に動いていることがわかる。
出国税とステーブルコイン課税
他の提案には、80万ユーロを超える暗号資産を保有する納税者が海外に移住する際に課税する出国税の導入がある。出国税とは、海外移住時に未実現の利益に対して課税する仕組みだ。資産を売却していなくても、移住時点で利益が確定したとみなして課税する。
また、法定通貨担保型ステーブルコインへの交換に対する課税繰り延べを終了する提案もあった。法定通貨担保型ステーブルコインとは、ユーロやドルなどの法定通貨を裏付け資産として発行される暗号資産だ。価格が安定しているため、実質的に法定通貨と同じように使える。
現状では、暗号資産を法定通貨担保型ステーブルコインに交換した場合、課税が繰り延べられる可能性がある。この提案は、そうした交換でも課税対象にするという内容だ。利益を確定させずにステーブルコインへ逃げる行為を防ぐ意図があるとみられる。
予算案の行方と今後の手続き

財政委員会は金曜日にこれらの改正案を採択した。しかし、その後、2027年予算案の歳入部分を31対3で否決した。改正案がそのまま成立するかは不透明な状況だ。
歳入部分が否決された意味
財政委員会が予算案の歳入部分を否決したことで、暗号資産関連の改正案も宙に浮いた形になる。改正案は予算案の一部として審議されるため、本体の予算案が通らなければ効力を持たない。
投票結果が31対3という大差だった点も見逃せない。財政委員会のメンバーの大半が歳入部分に反対したということで、暗号資産以外の税制案にも問題があると判断された可能性が高い。暗号資産関連の改正案だけが否決されたわけではない点は、文脈として押さえておく必要がある。
火曜日からの審議
議員らは火曜日から、政府の当初案に基づいて予算の歳入部分の審議を国民議会で開始する予定だ。暗号資産関連の改正案は、法案の一部として成立するために、議会手続きの中で再度提出され、承認される必要がある。
フランスのテック系メディアClubicによると、改正案が立法化されるには再度の提出と承認が不可欠だという。予算案全体の審議が紛糾する中で、暗号資産関連の改正案がどの程度優先されるかは不透明だ。採択されたというニュースの裏で、成立までにはまだ複数のハードルが残っている。
欧州ではMiCAと呼ばれる包括的な暗号資産規制が段階的に施行されており、フランスの動きはこの流れと整合的だ。自己管理型ウォレットへの報告義務は、規制の対象が取引所から個人の手元まで広がることを意味する。暗号資産の自己主権という理念と、税務執行の現実との間で、どのようなバランスが取られるのか。今後の審議の行方が注目される。
この記事のポイント
- フランス国民議会の財政委員会が、10万ユーロ超の自己管理型暗号資産に報告義務を課す改正案を採択した
- 報告しない場合は最大1万ユーロの罰金が科される可能性がある
- 脱税対策が主な目的で、2021年は35億ユーロの利益に対して申告は4億ユーロにとどまっていた
- 同時に出国税やステーブルコイン課税など他の改正案も採択された
- ただし予算案の歳入部分が否決されたため、実際の成立は不透明だ

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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