フランス財政委、ステーブルコイン交換課税案を採択も予算歳入は否決

フランス国民議会の財政委員会が、暗号資産への課税を強化する2つの修正案を今週採択した。ステーブルコインへの交換を課税対象の売却とみなす案と、富裕層が国外へ移住する際の出国税を暗号資産にも拡大する案だ。

ところが委員会は10月9日、2027年予算案の歳入部分そのものを31対3で否決した。採択された修正案は本会議に引き継がれず、議論は政府の原案から始まる。暗号資産保有者への影響は、まだ確定していない。

この記事では、フランスの議会で浮上した暗号資産税制の変更案の内容と、今後の審議日程を整理する。欧州の規制強化の流れを読み解く上でも、見ておきたい動きだ。

財政委員会で何が起きたのか

財政委員会で何が起きたのか

フランス国民議会の財政委員会は今週、暗号資産に関係する3つの修正案を承認した。いずれも2027年1月1日からの適用を想定している。フランスの議会は二院制で、国民議会は下院にあたる。財政委員会は税制を含む予算案を事前に審査する場だ。

採択された3つの修正案

  • ステーブルコインへの交換を課税対象の売却として扱う案
  • 80万ユーロ超の暗号資産を保有する富裕層に出国税を広げる案
  • 暗号資産の損失を10年間繰り越せるようにする案

最初の2つは左派グループGDRのニコラ・サンス議員が提出した。ステーブルコイン交換課税には16人の共同提案者が名を連ねる。3つ目の損失繰越しはダニエル・ラバロンヌ議員によるものだ。

歳入部分を31対3で否決

ただし、これらの修正案がそのまま法律になる可能性は低い。委員会は翌日の10月9日、予算案の歳入部分全体を31対3で否決したからだ。これにより、本会議での審議は政府が提出した当初の原案から始まる。

委員会段階で採択された修正案は本会議の原案には含まれない。提案者らは10月13日から始まる本会議の審議で、同じ内容を再提出する必要がある。フランスの予算審議は政府案を土台に修正を重ねる方式だが、今回は委員会が土台そのものを拒否した形だ。今回の否決は暗号資産への課税強化に反対する勢力が勝ったわけではなく、歳入部分全体への反発による政局的な色彩が強い。

ステーブルコイン交換課税の修正案

ステーブルコイン交換課税の修正案

今回の修正案のうち、最も注目を集めているのがステーブルコイン交換への課税だ。ステーブルコインとは、米ドルやユーロなどの単一の法定通貨に価値を連動させる暗号資産の一種である。価格が安定しているため、暗号資産市場では決済や資金の待機場所として広く使われている。

現行ルールとの違い

フランスの現行制度では、ビットコインなどの暗号資産をステーブルコインに交換しても課税されない。利益に対して課税されるのは、通常の通貨に換金した時か、商品やサービスの支払いに使った時だけだ。

提案者はこの仕組みを「法律の穴」と呼ぶ。ステーブルコインが暗号資産サービスの決済に使えたり、他のトークンに交換できたりする以上、課税を先送りする理由はないと主張する。実際、ステーブルコインを経由すれば、法定通貨に戻さずに利益を実質的に確保できる。

MiCAの電子マネートークンが対象

修正案は、EUの暗号資産規制であるMiCA(暗号資産市場規則)で定義される電子マネートークンを対象とする。MiCAは2024年に全面適用が始まったEU共通のルールで、暗号資産の発行体やサービス提供者を規制する。電子マネートークンとは、単一の法定通貨に連動するステーブルコインのことだと考えてよい。

2027年1月1日から、こうしたステーブルコインへの交換は売却とみなされ、取得価格との差額が利益として課税される。例えば、2万ユーロで買ったビットコインが3万ユーロの価値になった時点でステーブルコインに交換すれば、1万ユーロの利益が課税対象になる。

フラット税31.4%が適用される

修正案には具体的な税率は書かれていない。フランスのフラット税に委ねる形だ。フラット税は2026年1月1日に31.4%へ引き上げられた。社会保障財源法によって社会負担部分が17.2%から18.6%に上がったためである。

提案者は、新たな税負担を作るのではなく、既存の法律を適用漏れのある事例に当てはめるだけだと説明している。暗号資産の利益がこれまで通りに課税される範囲を広げるという論理だ。この案が通れば、ステーブルコインを頻繁に使うトレーダーや、利益確定を先延ばしにしている投資家の税負担が増える。ステーブルコイン交換課税が実現すれば、暗号資産の利益確定のタイミングが法定通貨への換金からステーブルコインへの交換に前倒しされる。取引の自由度は実質的に下がる可能性がある。

富裕層向け出国税の対象拡大

富裕層向け出国税の対象拡大

フランスには出国税という制度がある。株式などでまだ現金化していない含み益に対して、国外へ移住する時点で課税する仕組みだ。今回の修正案は、この対象を暗号資産にも広げる内容である。

80万ユーロ超が基準

修正案によると、税世帯が保有する暗号資産の合計額が80万ユーロを超え、過去10年間のうち6年以上フランスの税務居住者だった場合に出国税が適用される。2027年1月1日以降の移住から対象となる。

80万ユーロは日本円で1億円を超える規模だ。この基準は株式に既に使われている金額と同じ水準で、支払い猶予のルールも株式の制度を流用する。提案者は、同じ価値の株式が出国税の対象になるのに、暗号資産だけが対象外なのは不公平だと指摘している。

自己保管ウォレットも対象

対象となる暗号資産には、取引所に預けている資産だけでなく、自分で管理する自己保管ウォレットも含まれる。国外にある資産も同様だ。納税者は移住日時点で保有するすべての暗号資産の明細を提出する義務を負う。自己保管ウォレットとは、取引所を介さずに自分の端末や専用機器で秘密鍵を管理する方法である。

なお、現金を介さない暗号資産同士の交換は、出国税の計算上は売却とみなさない。提案者はデジタル資産が国境を越えて簡単に移動できる性質にも触れ、課税逃れを防ぐ必要性を訴えている。暗号資産の移転は銀行送金と違って数分で完了するため、税務当局が捕捉しにくいという事情がある。出国税の対象拡大は、フランスに拠点を置く富裕層の暗号資産投資家に移住の判断を迫るかもしれない。税制面での競争力という観点では、他国への流出を招くリスクもある。

損失繰越しと今後の日程

損失繰越しと今後の日程

3つ目の修正案は、投資家にとって有利な変更だ。暗号資産の売却で出た損失を10年間繰り越し、将来の利益と相殺できるようにする内容である。

10年間の繰越しが可能に

現在のフランスでは、未使用の暗号資産の損失を翌年以降に繰り越せない。株式では既に認められている仕組みで、これを暗号資産にも導入するのが狙いだ。成立すれば、損失を長期間にわたって税負担の軽減に使えるようになる。

課税強化と投資家保護を同時に進める点は、フランスの税制改正の特徴だ。暗号資産は価格変動が大きいため、損失が出る年と利益が出る年が分かれることが多い。損失繰越しが認められれば、年間を通じた課税の公平性が高まる。

本会議は10月13日から

予算案の歳入部分に関する本会議での議論は10月13日に始まり、正式な採決は10月20日に予定されている。ステーブルコイン交換課税と出国税拡大の修正案が再提出され、審議を生き残れば、いずれも2027年1月1日から適用される。

フランス議会は2025年10月下旬にも、暗号資産を含む税制改正を第一読会で可決している。200万ユーロを超える「非生産的」な資産に年1%の課税をする案で、暗号資産を金やヨットと同じ分類に入れた。採決は163対150の僅差だった。この時、弁護士のブルチャク・ウンサル氏はDecryptに対し、初期のトークン保有者への課税は「経済的に不正義」になり得ると指摘している。

欧州ではMiCAに準拠しないステーブルコインの扱いも変化してきた。Coinbaseは2024年10月、MiCAに適合しないステーブルコインを欧州の顧客向けに同年12月30日までに上場廃止すると発表している。規制対応の動きは取引所にも広がっている。

この記事のポイント

  • フランス国民議会の財政委員会が暗号資産への課税強化案を採択した
  • ステーブルコインへの交換を2027年から課税対象売却として扱う内容
  • 80万ユーロ超の暗号資産を保有する富裕層への出国税拡大も盛り込まれた
  • 委員会は予算案の歳入部分を否決したため、本会議は政府原案から審議する
  • 損失の10年間繰越しは投資家に有利な修正案として承認された
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