米上院で暗号資産市場構造法案をめぐる立法プロセスが、新たな段階に入った。民主党のルーベン・ガレゴ上院議員は、CLARITY法として知られる法案を急いで採決に持ち込むことは、かえって法案を後退させると警告している。
発言は8月20日、ワイオミング州で開かれたSALTブロックチェーン・シンポジウムでのもの。法案成立に必要な60票のハードルを超えるには、超党派の合意形成が欠かせないという見方を示した。
この記事では、ガレゴ氏の警告の背景と、CLARITY法が抱える論点、トランプ政権の思惑を整理する。立法プロセスの行方は、米国で事業を展開する暗号資産企業の将来を左右する。
ガレゴ上院議員が「急いだ採決」に警告

採決急行がもたらすリスク
ガレゴ上院議員は、倫理規定とステーブルコイン利回りをめぐる論争が未解決のままCLARITY法の採決を急げば、米国の暗号資産市場構造法制が後退する恐れがあると述べた。
同氏の懸念は、上院の採決に必要な60票のハードルと直結する。上院では重要法案の可決に60票の賛成が必要になる場面が多い。与党だけでは60票に届かない場合、野党の協力が不可欠だ。CLARITY法は共和党主導で進められているが、成立には民主党側の賛成も必要な状況にある。
発言の詳細と産業界への訴え
ガレゴ氏は暗号資産業界に対し、即時の採決を求めるのではなく、上院の民主・共和両党が交渉を続けるよう後押しすべきだと訴えた。
法案の農業委員会部分への対応、包括パッケージの組み立て、下院への送付方法など、議会にはまだ多くの手続きが残っているという。ガレゴ氏は「素早い採決は素早い結果をもたらすが、それが望む結果かは分からない」と語った。
この発言は、政権が求める迅速な通過路線に冷水を浴びせる形となった。手続きを重んじる議会と、成果を急ぐ政権の間の緊張関係が改めて浮き彫りになっている。
CLARITY法とは何か

CLARITY法は、米国における暗号資産の市場構造を包括的に定める法案だ。正式名称には「デジタルトークンへの明確性」という趣旨が込められている。どの資産が証券に該当し、どの資産がコモディティとして扱われるのかを明確にすることが主な狙いだ。
現状、米国では暗号資産を証券とみなすか、コモディティとみなすかの法的な線引きがはっきりしていない。証券なら証券取引委員会(SEC)の管轄、コモディティなら商品先物取引委員会(CFTC)の管轄になる。この不透明さが、事業者の新規参入やイノベーションの妨げになっているとの批判が根強い。
ステーブルコイン利回りをめぐる論点
法案をめぐる争点の一つが、ステーブルコインの利回りだ。ステーブルコインとは、米ドルなど法定通貨の価値に連動するよう設計された暗号資産を指す。一部の企業は、利用者がステーブルコインを預け入れると利息のような利回りを付与するサービスを提供している。
問題は、この利回りを証券とみなすかどうかだ。証券に分類されれば、発行体はSECの厳しい開示規制の対象になる。コモディティとして扱われれば、CFTCの監督下で比較的緩やかな規制になる。CLARITY法はこの線引きを明確にすることを目指すが、議員間の意見は割れたままだ。
ガレゴ氏は、この論点と倫理規定の両方を解決しないまま採決に進むことは得策ではないと主張している。いわば、家の土台を固めずに上棟式を行うようなものだ。
ホワイトハウスとの交渉が進まない理由

ガレゴ氏は、共和党のトム・ティリス上院議員と共同で、倫理規定に関する妥協案を議会休会前にホワイトハウスへ提出したと明かした。しかし、ポイントごとの回答はまだ届いていないという。
同氏によると、これまで何度もホワイトハウスに提案を送ってきたものの、返答は空白か、むしろ後退した内容か、あるいは沈黙だった。民主党の支持を得て法案を前進させるには、十分に強い倫理制限が不可欠だとガレゴ氏は強調する。
この「倫理制限」とは何を指すのか。現時点で詳細は明らかになっていないが、暗号資産に関わる議員や政府関係者の利益相反を防ぐ仕組みとみられる。透明性を確保できなければ、法案への信頼が揺らぎ、民主党の支持を集められないとの現実的な判断が背景にある。
ホワイトハウス側の対応が遅い理由は明らかではない。政権内部にも暗号資産政策を巡る調整の難しさがあると推測される。あるいは、リーダーシップを取るよりも議会に主導権を渡したくないという政治的思惑が働いている可能性もある。
トランプ政権の思惑と議会の温度差

ガレゴ氏の警告は、トランプ政権が急ぐCLARITY法の早期成立路線と正面から対立する。トランプ大統領は8月20日、ホワイトハウスで暗号資産企業の幹部らと面会し、議会に対し「公正なバージョン」のCLARITY法を可決するよう求めたばかりだ。
政権側は、暗号資産政策を経済成長の柱の一つに位置付けている。ホワイトハウスの暗号資産顧問パトリック・ウィット氏は、9月の採決まで民主党と交渉を続ける方針を示しつつも、「永遠に待つわけにはいかない」とも述べていた。
一方、上院のジョン・スーン院内総務は8月7日、採決を9月に先送りすることを認め、休会明けに「最初に」CLARITY法を審議する考えを示していた。政権の「早期可決」と議会の「慎重な手続き」の間には、なお温度差が残っている。
この温度差こそ、ガレゴ氏の警告の核心だ。政権が急いで採決を強行すれば、十分な超党派の土台がないまま採決に突入する可能性が高い。その結果、否決された場合のダメージは大きく、法案の再提出まで長い時間を要することになる。
ガレゴ氏の「法案後退」という表現は、単なる議事妨害のレトリックではない。米国の立法プロセスでは、一度否決された法案が短期間で復活するのは難しい。特に暗号資産のような党派色の強いテーマでは、否決のレッテルが長く残る。
したがって、性急な採決は短期的には政権の成果に見えても、中長期的には業界全体の逆風になりかねない。ガレゴ氏はそのリスクを事前に摘むため、あえて公の場で警告を発したと解釈できる。
さらに、法案の遅れは米国内の企業だけでなく、国際的な競争環境にも影響を及ぼす。明確なルールが存在しない間に、シンガポールや香港などアジアの金融ハブが暗号資産企業の受け皿として存在感を高める可能性が指摘されている。政権が急ぐほど、むしろ慎重さが求められるという逆説的な状況だ。
この記事のポイント
- 民主党のガレゴ上院議員が、CLARITY法の急ぎ過ぎた採決は法案後退につながると警告した
- 倫理規定とステーブルコイン利回りをめぐる論争が未解決のままだ
- ホワイトハウスは超党派の倫理案にポイントごとの回答を示していない
- トランプ政権は早期可決を目指すが、上院は9月に先送りした
- 否決された場合の立法プロセスへのダメージを考慮した慎重な対応が求められている

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
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