国際的なステーブルコイン規制の足並みが乱れている。各国が独自のルール作りを進める中、規制の断片化が市場リスクを増幅させる恐れがあると、国際決済銀行が警告した。
金融安定理事会の議長を務めるイングランド銀行のアンドリュー・ベイリー総裁は、国際的なルール作りの進展が停滞していると指摘した。BISのパブロ・エルナンデス・デ・コス総務も、協調の重要性を強調している。
規制が国ごとにバラバラになれば、企業は規制の緩い地域に活動を移す「規制裁定」を働く可能性が高まる。これは市場全体の安定性を損なうリスク要因だ。
国際協調の停滞がもたらすリスク

ステーブルコインは、その名の通り価格を安定させることを目的とした暗号資産だ。多くは米ドルなどの法定通貨に価値を連動させ、決済や取引の仲介役として利用されている。
DeFiLlamaのデータによると、このセクターの総時価総額は3200億ドルに達する。この大部分をテザーのUSDTとサークルのUSDCが占めている。巨大な規模ゆえに、その健全性は金融システム全体に影響を及ぼす可能性がある。
「現金」ではなく「証券」に近い性質
BISのデ・コス総務は、主要なステーブルコインの構造が現金というより証券に近い性質を持つと指摘した。ユーザーがステーブルコインを発行体から直接法定通貨に換金する際の摩擦が、意図した1ドルの価格から乖離させる要因になり得るという。
さらに、突然の大規模な引き出しが市場全体に連鎖するリスクも懸念されている。これは、ステーブルコインの発行体が裏付け資産を流動性の高い安全な資産で十分に保有していない場合に、特に顕在化する可能性がある。
規制の空白地帯が生む「裁定」の誘惑
問題は、各国の規制対応に温度差があることだ。ある国で厳しい規制が導入されても、別の国で規制が緩ければ、事業者は後者の地域に本拠を移すインセンティブが働く。
この「規制裁定」が横行すると、結果的に最も規制が緩い地域の基準が事実上の世界標準になってしまう恐れがある。これは「底辺への競争」と呼ばれ、市場全体のリスク管理を困難にする。
議論されるリスク軽減策

こうしたリスクに対処するため、政策当局者たちはいくつかの安全策を議論している。その焦点は、ステーブルコインの安定性を高め、システミックリスクを軽減することだ。
利払いの制限と中央銀行のバックストップ
提案されている対策の一つが、ステーブルコインへの利払いの制限だ。高利回りを謳うことで預金を引きつける行為は、伝統的な銀行システムからの資金流出を招き、金融安定を損なう可能性がある。
もう一つの重要な提案は、ステーブルコインの発行体に中央銀行の融資枠へのアクセスを認めたり、預金保険に似た仕組みを提供したりすることだ。これは、流動性危機に陥った発行体が中央銀行から資金を借り入れる「最後の貸し手機能」を可能にし、突然の価格崩壊を防ぐ緩衝材となる。
当局者は、こうした措置がセクターの安全性を高めつつ、デジタル決済におけるその役割を維持すると主張している。
米国議会における立法動向
国際的な議論と並行して、主要国では国内法整備が進められている。米国では「デジタル資産市場明確化法」が焦点だ。
この法案は昨年下院を通過し、現在上院で審議中である。銀行委員会のティム・スコット委員長と農業委員会のジョン・ブーズマン委員長が主導している。
CoinDeskの報道によると、トム・ティリス上院議員とアンジェラ・オルソブロークス上院議員は、ステーブルコインの利回りをめぐる妥協案を交渉しており、これが法案審議の前進を可能にする見通しだ。
銀行委員会のデジタル資産小委員会を主宰するシンシア・ラミス上院議員は、4月後半に公聴会が開かれる可能性を示唆している。
しかし、DeFiの監督権限や倫理規定など、未解決の問題がいくつか残されており、合意はこれらの解決にかかっている。
規制の未来と市場への影響

ステーブルコイン規制をめぐる国際的な綱引きは、市場の将来像を大きく左右する。規制の形によっては、現在の主要プレイヤーのビジネスモデルが根本から変わる可能性もある。
中央銀行デジタル通貨との関係
多くの中央銀行が研究中の中央銀行デジタル通貨は、ステーブルコイン規制の議論と無関係ではない。公的なデジタル通貨が普及すれば、民間発行のステーブルコインの存在意義が問い直される場面も出てくるだろう。
一方で、CBDCが実用化されるまでの間、あるいはCBDCと並存する形で、規制された健全なステーブルコインが決済インフラを支えるシナリオも考えられる。規制議論は、この民間と公的セクターの役割分担を描く作業でもある。
イノベーションと安定性のバランス
最大の課題は、イノベーションを阻害しない範囲でリスクを管理するルールを作ることだ。過度に厳格な規制は、有益な技術的進歩や金融包摂の機会を損なう恐れがある。
特にDeFiやその他の分散型金融アプリケーションは、ステーブルコインを重要な基盤資産として利用している。ステーブルコインへの規制が、これら次世代の金融サービス全体に波及効果を持つことは間違いない。
国際的な協調が進まず、規制が断片化した世界では、企業は不確実性の中で事業を展開せざるを得なくなる。これは長期的な投資や技術開発の意欲を削ぐ要因となりかねない。
この記事のポイント
- ステーブルコインの国際規制の進展が停滞し、BISが規制の断片化リスクを警告している。
- 規制が国ごとにバラバラだと、企業が規制の緩い地域に移動する「規制裁定」が起こり、市場の安定性が損なわれる恐れがある。
- リスク軽減策として、ステーブルコインへの利払い制限や、発行体への中央銀行バックストップ提供が議論されている。
- 米国では「デジタル資産市場明確化法」の審議が続き、ステーブルコインの利回りをめぐる妥協が法案前進の鍵となっている。
- 規制の在り方は、ステーブルコインを基盤資産とするDeFiなど、暗号資産エコシステム全体の未来に大きな影響を与える。

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
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