HTXがトランプ系USD1を上場廃止へ、WLFIの一方的なアドレス凍結に反発

暗号資産取引所HTXが、トランプ家と関係の深いプロジェクト「ワールド・リバティ・ファイナンシャル(WLFI)」が発行するステーブルコインUSD1の取扱いを停止し、上場廃止に踏み切ることを発表した。

この決断の背景には、WLFI側がHTXに関連する複数のオンチェーンアドレス(ブロックチェーン上で資産を管理するための口座番号のようなもの)を一方的に凍結したという、前代未聞の事態がある。発行体による一方的な資産凍結に、取引所側が上場廃止という最終手段で応じた格好だ。

本記事では、HTXとWLFIの対立の経緯、USD1の上場廃止スケジュール、そしてこの問題がなぜ重要なのかを詳しく解説する。

HTXの発表、USD1の上場廃止とUSDTへの交換措置

HTXの発表、USD1の上場廃止とUSDTへの交換措置

HTXは2026年6月7日午前3時(協定世界時)をもって、USD1の上場を廃止する。すでに6月5日午後1時(協定世界時)の時点で、WLFI/USDT、USD1/USDT、BTC/USD1、ETH/USD1の全取引ペアにおける新規取引を停止しており、実質的に退場プロセスに入っている。

ユーザー資産は1対1でUSDTに交換

対象となるユーザーが保有するUSD1は、テザー社のUSDTに1対1の比率で交換される。これは額面通りの価値を保証する措置であり、表面上はユーザーに直接的な金銭的損失は発生しない設計だ。

しかし、ここで注目すべきは「なぜ交換が実施されるに至ったか」である。通常の上場廃止は、取引量の低迷やプロジェクトの開発停止など市場原理に基づくが、今回は発行体であるWLFIとの深刻な対立が直接の引き金となっている。

WLFIがHTXアドレスを一方的に凍結、その法的根拠とは

WLFIがHTXアドレスを一方的に凍結、その法的根拠とは

HTXの声明によれば、WLFIは「制裁コンプライアンス(法令順守)審査」を理由に、HTXに関連する特定のオンチェーンアドレスを凍結した。凍結とは、該当アドレスからの送金や取引をブロックチェーンのプログラムコードレベルで不能にする行為で、資産の事実上の差押えに等しい。

HTX側の主張「司法手続きなき人権侵害」

HTXはWLFIの措置を強く批判している。声明では「WLFIは十分な事前連絡も、適切な契約上または法律上の根拠も、透明性のある情報開示も、適正手続きの順守もなしに、一方的にアドレスを凍結した」と断じた。

これは、ブロックチェーンの世界でしばしば議論される「コードが法(Code is Law)なのか、それとも現実の法秩序が優先されるのか」という根本的な問いを、極めて生々しい形で突きつける事例といえる。

HTX広報「凍結されたのは制裁対象の資産ではない」

HTXの広報担当モリー・フー氏はX(旧Twitter)で、凍結された資産について「いかなる制裁対象団体に属する資産でもなく、一般ユーザーが合法的に購入・保有していた資産だ」と強調した。HTXはWLFIに対し、影響を受けたユーザー資産の即時凍結解除を要求している。

制裁の連鎖、英国によるHuobi Global指定が引き金か

制裁の連鎖、英国によるHuobi Global指定が引き金か

今回の凍結劇の背景には、英国による制裁措置があるとみられる。英国当局は5月26日、HTXの前身であるHuobi Global S.A.を制裁対象に指定した。この法人がロシアの制裁回避を支援し、A7ネットワークやロシア関連のGarantex取引所を通じて15億ドル(約2,250億円)超の資金フローを促進したとされている。

HTXの反論「指定されたのは別法人」

HTX側は、制裁対象となったHuobi Global S.A.は現在のオンラインプラットフォーム「HTX」とは別の法人格であり、英国の制裁指定は同社の事業運営やユーザー資金に「何ら影響を及ぼさない」との立場を崩していない。この認識の相違が、WLFIの一方的なアドレス凍結に対するHTXの怒りを増幅させている。

WLFIの凍結機能をめぐる“前科”とJustin Sun氏の訴訟

WLFIの凍結機能をめぐる“前科”とJustin Sun氏の訴訟

実は、WLFIがアドレス凍結機能を発動したのは今回が初めてではない。2025年9月、WLFIは仮想通貨取引所の創設者でありHTXのグローバル諮問委員会メンバーでもあるジャスティン・サン(Justin Sun)氏のウォレットを凍結している。

サン氏が指摘する「隠されたバックドア」

この時サン氏は、WLFIトークン約900万ドル(約13.5億円)相当をアドレス間で移動させたことが凍結の引き金になったとされる。サン氏はこれを受け、WLFIのトークンコントラクトには投資家に通知や同意なく資産を凍結できる「隠しバックドア(秘密の抜け道)」が組み込まれているとして、WLFIを提訴している。

WLFIは6月3日、X上で制裁コンプライアンス管理を維持しており、制裁対象事業体が関与する取引はブロックされる場合があるとする一般的な注意喚起を投稿したが、HTXの固有名詞には一切言及していない。The Blockの取材に対しても、WLFI側は本件について公式なコメントを出していない。

トランプ家関連プロジェクトが抱えるガバナンスの矛盾

トランプ家関連プロジェクトが抱えるガバナンスの矛盾

ワールド・リバティ・ファイナンシャルはトランプ家と密接に関連しており、WLFIガバナンストークンとUSD1ステーブルコインの両方を発行している。デューク大学法学部講師がWLFIを「有価証券を発行した」と指摘したとの報道もあり、法的な位置づけをめぐっても議論が続いているプロジェクトだ。

ステーブルコイン発行体が持つべき透明性とは

ステーブルコインの発行体がオンチェーンで資産を凍結する権限を持つこと自体は、規制対応や犯罪防止の観点から珍しいことではない。USDCを発行するサークル社やUSDTのテザー社も、法執行機関の要請に基づきアドレス凍結を実施した実績がある。

しかし今回の問題は、その凍結が「十分な事前連絡も、透明性のある情報開示も、適正手続きもなしに」行われた点にある。投資家保護とコンプライアンスのバランスを欠き、発行体の裁量が肥大化すれば、中央集権的な管理者を持たないはずの分散型金融(DeFi)の理念と真っ向から衝突する事態を招きかねない。

筆者が考える本件の本質

本件の本質は、単なる取引所とプロジェクトの喧嘩ではない。制裁対応という大義名分のもとで、特定の政治的・商業的利害に基づいて特定アドレスを恣意的に凍結できる構造が、既に複数のプロジェクトに組み込まれていることへの警鐘である。

規制と分散化の両立は業界全体の課題だが、WLFIのようにトランプ家という政治的ブランドと結びついたプロジェクトが、透明性を欠いた資産凍結を繰り返せば、ステーブルコイン市場全体への信認にも悪影響を及ぼすとの見方がある。

この記事のポイント

  • HTXがトランプ系WLFI発行のステーブルコインUSD1を6月7日に上場廃止し、保有資産はUSDTに1対1で交換される
  • WLFIがHTX関連アドレスを制裁審査を理由に一方的凍結、HTXは「適正手続きなき権利侵害」と強く反発
  • 背景には英国によるHuobi Global S.A.への制裁指定があり、HTXは「別法人であり影響はない」と主張
  • WLFIのアドレス凍結機能は2025年9月にもJustin Sun氏の資産に対して発動され、現在係争中
  • 発行体の恣意的な凍結権限と分散型金融の理念の矛盾が、ステーブルコイン市場全体の信認問題に発展する可能性がある
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