インドの証券規制当局SEBIと中央銀行RBIが、トークン化社債の実証プロジェクト「Demat 2.0」を本格始動させた。初回の発行では3社が参加し、合計102億5,000万ルピー(約1億700万ドル)を調達している。
社債をデジタルトークンとして発行し、法定預託機関が管理する分散型台帳と中央銀行デジタル通貨(CBDC)を組み合わせた取り組みは、世界で初めての試みとなる。既存の規制下インフラを活用する点が特徴だ。
この実証が軌道に乗れば、債券市場の決済遅延や事務負担が大幅に減る。将来的には個人投資家もアクセスできる市場に育つ可能性がある。本記事では仕組み、参加企業、今後の展開を順に解説する。
Demat 2.0始動、3社が計102億5,000万ルピーを発行

インドの証券規制当局SEBIと中央銀行RBIは、トークン化社債の実証プロジェクト「Demat 2.0」を正式に開始した。9月7日から9日にかけて、3社が相次いでトークン化社債を発行している。
最初に動いたのは国営の電力金融公社RECだ。9月7日に18人の投資家から50億ルピーを調達した。9月9日には大手複合企業ラーセン・アンド・トゥブロ(L&T)が4人の投資家から50億ルピー、ノンバンクのIIFLが1人の投資家から2億5,000万ルピーをそれぞれ調達している。
3社の合計は102億5,000万ルピー。約1億700万ドルに相当する。8月時点の報道では、REC1社による50億ルピー未満の発行が計画されていると伝えられていた。実際の発行は発行体が3社に増え、調達額も当初見込みの2倍を超えた。
Demat 2.0は、インドの電子証券保管システムDemat口座の次世代版だ。社債をデジタルトークンとして発行し、インドの法定預託機関が管理する分散型台帳の上で保有できる仕組みである。分散型台帳とは、取引の記録を複数の場所で同時に管理する帳簿技術のことを指す。改ざんが難しく、取引の透明性が高まるのが利点だ。
原子決済とCBDC、遅延ゼロの決済を実現

従来の社債発行では、投資家が代金を支払ってから債券を受け取るまでに2〜3日のずれが生じるのが一般的だった。Demat 2.0はこの時間差をなくす設計になっている。
インド準備銀行(RBI)のホールセールCBDC(中央銀行デジタル通貨)と接続するUnified Market Interface(統一市場インターフェース)を通じ、お金と債券の受け渡しが同時に行われる。これが原子決済と呼ばれる仕組みだ。つまり、注文が成立したその日に資金を受け取れるため、決済リスクが大幅に減る。
ホールセールCBDCとは、一般消費者向けではなく、銀行や金融機関同士の大口決済に使う中央銀行発行のデジタル通貨のことだ。発行体にとっては、入札当日に資金を受け取れる点が大きな変化になる。従来なら2〜3日待っていた資金が、即座に手元に来るからだ。
金利の支払いや償還も、スマートコントラクトという自動実行プログラムで処理される。あらかじめ設定した条件に従って自動で利息が支払われるため、事務作業の負担が減る。つまり、債券管理の人手を減らしながら、支払いの正確性を高められる仕組みだ。
投資家の負担を減らすDemat口座の活用

投資家は既存のDemat口座(インドの電子証券保管口座)でトークン化社債をそのまま保有できる。新しい口座を開設する必要はなく、追加の本人確認手続き(KYC)も不要だ。この点は、新しい技術を使っても投資家が感じる摩擦を最小限に抑える工夫と言える。
参加するには、自分の預託機関を通じてDemat 2.0を有効化し、決済用に参加銀行のホールセールCBDCウォレットを持っておく必要がある。手続きはこの2点だけで、既存の規制下にある投資家であれば比較的容易に対応できる設計になっている。
この設計は普及の観点から重要だ。新しい技術を導入する際、関係者全員が新しい口座やウォレットを作らなければならないとなると、参加のハードルが上がる。既存のDemat口座とCBDCウォレットを組み合わせることで、インドは移行コストを抑える戦略を取っている。
二次取引と個人投資家開放、SEBIが示す次の段階

第1段階の発行は現在も進行中だ。SEBIは今後の段階について、既存のリクエスト・フォー・クォート(RFQ)プラットフォームを通じた二次取引の導入と、個人投資家へのアクセス開放を予定している。
RFQとは、売り手または買り手が複数の取引相手に見積もりを依頼し、条件の良い相手と取引する仕組みだ。既存の債券市場ですでに使われているため、トークン化社債でも同じ取引手法を採用することで、市場参加者の学習コストを下げられる。
個人投資家への開放は、資本市場を小口化する大きな一歩になる。現在は主に機関投資家や大口投資家が参加する社債市場に、少額からアクセスできる道が開けるからだ。SEBIは実証で得た経験を、より広範な展開の指針にすると説明している。
世界初の構造が意味するもの、インドの戦略

SEBIは今回の実証について、3つの要素を組み合わせた世界初の事例だと位置づけている。分散型台帳上でネイティブに発行される債券、法定預託機関が管理する所有記録、そして既存の規制下市場インフラでのCBDC決済だ。
重要なのは、トークン化によって債券の法的地位、返済義務、投資家保護が変わるわけではないという点だ。SEBIはこの点を明確にしている。つまり、デジタル化はあくまで業務効率の改善であり、既存の法制度や投資家保護の枠組みはそのまま維持される。
インドがこの形を選んだ背景には、先端技術を既存の規制枠組みに組み込むという発想がある。法定預託機関が台帳を管理する点は、完全な分散型ネットワークではなく、規制下での信頼できる管理者を置く設計だ。CBDCを決済に使う点も、中央銀行の関与を維持しながら効率化を図る姿勢を示している。
このモデルが成功すれば、他の新興国だけでなく、債券市場の近代化を模索する先進国にも影響を与える可能性がある。特にCBDCの実用化に慎重だった国々にとって、ホールセール決済から始める現実的な経路を示す好例になるだろう。
この記事のポイント
- インドのSEBIとRBIがトークン化社債の実証「Demat 2.0」を開始した
- REC、L&T、IIFLの3社が合計102億5,000万ルピー(約1億700万ドル)を発行した
- ホールセールCBDCによる原子決済で、資金受け取りの遅延をなくす設計になっている
- 投資家は既存のDemat口座で保有でき、新規口座開設や追加KYCは不要だ
- 今後の段階で二次取引と個人投資家への開放が予定されている

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