資産運用大手インベスコが、ステーブルコインの準備金を専門に運用するトークン化ファンドの申請を米証券取引委員会(SEC)に提出した。運用資産総額2.5兆ドルを超える同社が、ブロックチェーン上で発行・管理されるファンドを通じて急成長中のステーブルコイン市場に本格参入する動きだ。
この申請は、伝統的な資産運用会社がデジタルドルの裏付け資産を巡る競争に次々と参入している最新の事例となる。ブラックロックやステート・ストリート、プロシェアーズといった大手も同様のファンドを申請しており、ステーブルコインのリザーブ管理を巡る争いは新たな段階に入ったといえる。
シティグループの予測では、ステーブルコイン市場は現在の約3,000億ドルから2030年までに最大4兆ドルへと急拡大する見通しだ。この巨大市場のインフラを誰が握るのか、伝統金融と暗号資産の融合がこれまでにない速度で進んでいる。
インベスコがSECに申請したトークン化ファンドの中身
インベスコが6月25日にSECへ提出した申請書類によると、新ファンドの名称は「インベスコ・ステーブルコイン・リザーブス・オンチェーン・ファンド」だ。このファンドは現金および短期米国債に投資し、ステーブルコインの裏付け資産として機能することを目的としている。
ポートフォリオの構成は、米国の決済用ステーブルコインを規制する「GENIUS法(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)」が定める準備金要件に沿ったものになる見込みだ。GENIUS法とは、ステーブルコイン発行者に対して適切な資産による裏付けを義務付ける連邦法で、2025年に成立した。簡単にいえば、発行されるデジタルドルと同額の安全資産を常に確保しておくルールを定めた法律だ。
ブロックチェーン上で株主名簿を管理する仕組み
申請書類では、トークン化専門企業のスーパーステート(Superstate)が副振替機関として指名されている。スーパーステートはブロックチェーンと統合された株主名簿を管理し、伝統的なファンド記録と、所有権を表すオンチェーントークンを組み合わせる役割を担う。
ファンドはパブリックブロックチェーン上で運用されることが明記されているが、現時点ではどのネットワークを使用するかは特定されていない。イーサリアムやソラナ、アバランチなど複数の選択肢があり、今後の詳細発表が注目される。インベスコの広報担当者はCoinDeskの取材に対し、登録中の商品についてはコメントしないとの姿勢を示した。
トークン化ファンドの基本的な仕組みはこうだ。投資家がファンドに出資すると、その持分がブロックチェーン上のトークンとして発行される。このトークンが従来の証券と同じ所有権を表し、売買や移転もブロックチェーン上で完結する。証券保管振替機構(DTC)のような中央機関を介さずに決済できるため、業務効率が大幅に向上する可能性がある。
ステーブルコイン市場は2030年に4兆ドルへ、シティが予測
ステーブルコインは米ドルなどの法定通貨と価値が連動するよう設計された暗号資産で、代表的なものにテザー(USDT)やUSDコイン(USDC)がある。価格変動の激しいビットコインなどと異なり、常に1ドル前後で安定することを目指している。この安定性を支えているのが、現金や米国債といった安全資産による裏付け、つまりリザーブ(準備金)だ。
シティグループのアナリストは、ステーブルコイン市場が2030年までに最大4兆ドルに達するとの予測を発表している。現在の市場規模が約3,000億ドルであることを踏まえると、5年間で10倍以上の成長を見込む計算だ。この爆発的な成長シナリオが現実となれば、リザーブを管理する資産運用会社にとって極めて魅力的なビジネスチャンスが生まれる。
なぜステーブルコインにリザーブ管理が必要なのか
ステーブルコイン発行者は、利用者から預かったドルと同額の資産を安全に保管・運用する義務がある。たとえば1億ドル分のUSDCが発行されていれば、サークル社は同額の現金や米国債をリザーブとして保有しなければならない。このリザーブをただ銀行口座に寝かせておくのではなく、米国債などで安全に運用して利回りを得ることが、発行者の収益源となる。
ここで課題となるのが、大規模なリザーブを効率的に管理する専門能力だ。数百億ドル、将来的には数兆ドル規模の資産を適切に運用するには、高度なポートフォリオ管理と堅牢な運用インフラが不可欠となる。インベスコやブラックロックといった伝統的な資産運用の巨人が、まさにこの役割を担おうとしているわけだ。
ブラックロックやステート・ストリートも参入、熾烈なリザーブ管理競争

インベスコの動きは単独ではない。世界最大の資産運用会社ブラックロックをはじめ、ステート・ストリート、プロシェアーズも同様のステーブルコインリザーブ向けファンドをSECに申請している。デジタルドルの裏方を支えるインフラ競争は、すでに大手運用会社の主要な戦略テーマとなっている。
ブラックロックは既にトークン化米国債ファンド「BUIDL」を運用しており、2025年には時価総額が10億ドルを突破した実績がある。ステート・ストリートは世界最大のカストディ(資産保管)銀行としての知見を活かし、プロシェアーズはETF運用で培ったノウハウを持ち込む構えだ。各社とも自社の強みを武器に、この新市場でのシェア獲得を狙っている。
リザーブ管理がもたらす運用会社の新たな収益源
従来の投資信託やETFとは異なり、ステーブルコインのリザーブ運用は安定した需要が見込めるのが特徴だ。ステーブルコインの発行残高が増えれば増えるほど、自動的に運用資産も拡大する。しかもリザーブは安全性が最優先されるため、極めて質の高い短期債券で構成され、運用会社にとっては手数料収入の安定した源泉となる。
また、GENIUS法のような規制枠組みの整備によって、機関投資家や企業がステーブルコインを決済手段として採用する動きが加速すれば、リザーブ需要はさらに膨らむと見られている。運用会社にとっては、早い段階で実績を積み、規制当局との関係を構築することが競争優位につながる。
インベスコのブロックチェーン戦略、9億ドルファンド運用で実績

今回のSEC申請は、インベスコが進めてきたトークン化戦略の延長線上にある。同社は2026年初頭、スーパーステートが運用していた約9億ドル規模のトークン化米国債ファンドの運用を引き継いだ。これはスーパーステートのブロックチェーンベースのファンド運用プラットフォーム「FundOS」を採用した初の第三者運用会社としての案件だった。
FundOSは、従来のファンド管理業務をブロックチェーン上に移行させるプラットフォームだ。基準価額の計算、投資家の残高管理、分配金の支払いといった一連の業務がスマートコントラクトによって自動化される。これにより管理コストの削減と、ほぼリアルタイムでの決済が可能になる。
ブラックロックやフィデリティと並ぶトークン化最前線
この買収によってインベスコは、ブラックロック、フランクリン・テンプルトン、フィデリティと並び、トークン化マネーマーケットファンドを現実の事業として展開する運用会社の一角に名を連ねることになった。マネーマーケットファンドとは、主に短期の国債や高格付けの社債に投資する安全性重視の投資信託で、トークン化との相性が特に良いとされている。
伝統的資産のトークン化には、発行・移転・決済の各プロセスをブロックチェーン上で完結させることで、業務の大幅な効率化と透明性向上を実現する狙いがある。特にクロスボーダー(国境を越えた)取引や時間外決済において、既存の金融インフラでは実現できなかった速度とコスト削減が期待されている。
トークン化ファンドがもたらす伝統金融の変革

インベスコの事例は、単なる新商品のローンチにとどまらない。伝統的な資産運用の世界が、ブロックチェーン技術を「実験」ではなく「実運用」として取り入れる段階に達したことを示している。背景には、ステーブルコイン市場の急成長がもたらす具体的な需要と、規制面での環境整備がある。
GENIUS法の成立によって、ステーブルコイン発行者が遵守すべきリザーブ要件が明確化されたことで、機関投資家は安心してこの分野に参入できるようになった。法的なグレーゾーンが解消されれば、次に必要となるのがプロフェッショナルな運用能力とスケーラブルな技術基盤だ。まさにインベスコとスーパーステートの組み合わせが、このニーズに応える形となる。
スーパーステートのFundOSが果たす役割
スーパーステートは、伝統的なファンドをブロックチェーンに対応させるためのソフトウェアスタックを提供する企業だ。同社のFundOSは、既存の法規制に準拠しながら、ファンドの持分をトークンとして発行し、投資家のKYC(本人確認)やアンチマネーロンダリング対策も含めた管理をオンチェーンで実現する。
重要なのは、この仕組みが単に証券をデジタル化するだけでなく、ブロックチェーンならではのプログラム可能性(プログラマビリティ)を活かせる点だ。たとえば、ファンドの分配金が自動的に投資家のウォレットに送金されたり、担保として他のDeFiプロトコルで活用したりといった応用が可能になる。こうした機能は、従来の証券決済システムでは実現が難しかった。
この記事のポイント
- インベスコがステーブルコインの準備金運用に特化したトークン化ファンドをSECに申請、2.5兆ドル規模の運用会社が本格参入
- ステーブルコイン市場は2030年に最大4兆ドルへ拡大するとの予測があり、リザーブ管理は巨大なビジネスチャンスに
- ブラックロックやステート・ストリートも同様のファンドを申請しており、伝統金融大手によるインフラ競争が激化
- インベスコは既に9億ドル規模のトークン化米国債ファンドを運用しており、ブロックチェーン実運用で先行する
- GENIUS法による規制整備が、機関投資家のトークン化市場参入の追い風となっている

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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