イスラエルが国家レベルで暗号資産の受け入れを加速させている。同国の資本市場庁は4月28日、初のシェケル連動型規制ステーブルコイン「BILS」を承認したと発表した。発行を手掛けるのはテルアビブを拠点とする暗号資産取引所Bits of Goldだ。
シェケルはこの1年、対ドルで20%以上上昇しており、世界の主要通貨の中でも突出したパフォーマンスを見せている。その法定通貨がブロックチェーン上で稼働することは、単なる技術実験を超えた金融インフラの転換点となる可能性がある。
本記事では、BILSの仕組みや背景にあるシェケル高の要因、そしてこの承認が持つ国際的な意味について詳しく解説する。
BILS誕生の舞台裏、SolanaとEYが支える信頼性

BILSは単独の企業だけで開発されたわけではない。Bits of Goldの声明によれば、このプロジェクトにはSolana(ソラナ)ネットワークと、機関投資家向けカストディ(暗号資産の保管管理)サービスで知られるFireblocks(ファイアブロックス)、さらに世界4大会計事務所の一角であるEY(アーンスト・アンド・ヤング)が協力している。
カストディとは、平たく言えば「デジタル資産の金庫番」を担う仕組みだ。ビットコインやイーサリアムのような暗号資産は、秘密鍵を紛失すれば資産を永遠に失うリスクがある。Fireblocksのような専業企業は、高度なセキュリティ技術でこのリスクを管理し、大手機関が安心して暗号資産を扱えるようにする。BILSの発行においても、このカストディ基盤が規制当局の信頼獲得に一役買ったと見られている。
またEYが監査面で関与している点も重要だ。ステーブルコインは「1トークン=1法定通貨」という価値の裏付けが本質であり、その準備資産が適切に管理されているかどうかが信頼の要となる。世界的に知名度の高いEYが監査を担当することで、BILSの透明性は国際的な基準に達していると評価できる。
資本市場庁の発表によれば、Bits of Goldは約2年間にわたる評価と試験運用のプロセスを経て、今回の認可を取得した。暗号資産に慎重な姿勢を見せる規制当局も多い中で、イスラエルが実証実験を経てゴーサインを出したことの意味は小さくない。
なぜ今シェケルなのか、通貨高が後押しするデジタル化

BILS承認の背景には、シェケルという通貨そのものの強さがある。Visual Capitalistのデータによると、シェケルは過去1年間で対ドル20%以上の上昇を記録した。これは年間国内総生産(GDP)が2,500億ドルを超える国々の中で、最も優れたパフォーマンスを見せた通貨だ。
通貨高の要因として、Bits of Goldは「強靭なテクノロジーセクターと一貫したマクロ経済運営」を挙げている。イスラエルは「スタートアップ・ネーション」として知られ、サイバーセキュリティやフィンテック分野で世界をリードする企業を多数輩出してきた。この経済構造が通貨の信認を支え、結果としてデジタルシェケルへの需要も高まっている構図だ。
通貨高とステーブルコインの意外な関係
通常、ステーブルコインの利用はインフレが深刻な国や送金需要の高い新興国で先行してきた。トルコリラやアルゼンチンペソの下落局面で、人々がドル建てステーブルコインに資産を逃避させる事例が典型的だ。
一方でシェケルのケースは異なる。通貨が強い状況でのステーブルコイン発行は、逃避先としての需要ではなく、決済インフラの効率化やブロックチェーン経済への統合を目的としている。つまり「弱い通貨からの逃避」ではなく「強い通貨のユーティリティ拡張」という逆のベクトルでの動きであり、これはステーブルコイン市場の成熟を示す兆候といえる。
国際競争に参戦、ユーロや円に並ぶオンチェーン通貨へ

Bits of Goldは声明の中で、「シェケルをオンチェーン化することで、ユーロ、円、シンガポールドルといった主要通貨と並ぶ地位を確立する」と述べている。ブロックチェーンベースの金融システムで存在感を増しつつあるこれらの通貨に対し、シェケルも同様の立ち位置を目指すという意思表示だ。
オンチェーン化とは、要するに通貨を「ブロックチェーン上で使えるようにすること」だ。銀行を経由せずに24時間365日、世界中の誰とでも直接送金や決済ができる。これは国際貿易や海外送金のコストと時間を大幅に削減する可能性を秘めている。
特にイスラエルは輸出型の経済構造を持ち、世界中のテクノロジー企業と日常的に取引がある。シェケルのオンチェーン化は、こうした国際取引の決済レイヤーとしての実用性を持つ。BILSが普及すれば、イスラエルの輸出企業が海外の取引先とシェケル建てで即時決済するといったシナリオも現実味を帯びてくる。
Solanaを選んだ理由
BILSが基盤としてSolanaを選択した点も注目に値する。Solanaは高速かつ低コストのトランザクション処理を特徴とするブロックチェーンだ。秒間数千件の取引を処理でき、1回あたりの手数料も1円未満と極めて安い。ステーブルコインのような決済用途では、この性能が決定的に重要になる。
対照的にEthereum(イーサリアム)はより分散性が高い一方で、ネットワーク混雑時には手数料が数千円に跳ね上がることもある。日常的な決済手段としてのステーブルコインには、Solanaのような高スループット型ブロックチェーンとの相性が良い。イスラエルの規制当局も、こうした技術面の合理性を評価した可能性がある。
規制の枠組みが示すもの、中東の暗号資産ハブ化への布石

イスラエル資本市場庁は今回の承認にあたり、明確なルールブックを策定した。具体的な条文の詳細は明らかにされていないが、欧州連合(EU)のMiCA(暗号資産市場規制)やシンガポールのMAS(シンガポール金融管理局)が定めるステーブルコイン規制と同様に、準備資産の管理や定期的な監査報告、AML(アンチ・マネーロンダリング / 資金洗浄対策)対応などが含まれていると推測される。
中東地域では、UAE(アラブ首長国連邦)のドバイが暗号資産ハブとして先行してきた実績がある。イスラエルはこれまでテクノロジー立国としての地位を確立しつつも、暗号資産規制の面では様子見の姿勢が目立っていた。今回のBILS承認は、そのスタンスが積極的なイノベーション推進へと舵を切ったことを示す重要なシグナルだ。
実際、BILSの認可プロセスが2年の歳月を要したこと自体、規制当局が拙速を避け、実証に基づいた判断を下した証拠でもある。この「時間をかけて徹底検証する」アプローチは、他国がステーブルコイン規制を設計する上でも参考になるモデルケースとなるだろう。
この記事のポイント
- イスラエル資本市場庁が初のシェケル連動型規制ステーブルコイン「BILS」を承認
- 発行はBits of Gold、SolanaやFireblocks、EYが技術と監査で協力
- シェケルは1年で対ドル20%以上上昇、通貨高がデジタル化を後押し
- ステーブルコイン規制の整備は、イスラエルの中東暗号資産ハブ化への布石
- ユーロや円など主要通貨のオンチェーン化競争にイスラエルも参入

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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