Kraken親会社PaywardがAAVEを取得、DeFiと資産運用を本格強化

暗号資産取引所Krakenを傘下に持つPaywardが、関連ファンドと顧客を通じてDeFiレンディング大手AaveのトークンAAVEを取得した。

11月5日の発表によると、購入は市場で行われ、取得量は公表されていない。6月には株式取得を含む出資交渉が報じられていたが、今回の発表に株式の話は出てこない。

大手取引所の親会社が、DeFiトークンを資産運用の対象として買い始めた意味は小さくない。この記事では、取引の中身、交渉からの変化、Paywardの狙いを順に整理していく。

PaywardがAAVEトークンを市場で取得

PaywardがAAVEトークンを市場で取得

関連ファンドと顧客による購入

購入したのは、Payward関連の投資ファンド「Digital Asset Special Investments I, LP」と、Paywardの資産運用サービスを利用する顧客だ。Payward本体の資金だけでなく、顧客の資産もAAVEに振り向けられた形になる。

トークンは「流通市場(セカンダリーマーケット)」で買われた。流通市場とは、発行元から直接ではなく、取引所などで他の投資家から買う場のことだ。株式でたとえるなら、上場後に証券取引所で株を買うのと同じイメージになる。

米ワイオミング州に拠点を置くPaywardは、追加購入の可能性も示している。両社は今後の協業の機会も探っているという。ただし協業の具体的な中身は明らかにされていない。

あえて「直接買わない」ことの意味

Aaveから直接ではなく、市場で買った点にも意味がある。CoinDeskの取材に応じた関係者は、これを両社の「方向性が一致しているシグナル」と表現した。そのうえで「将来の協業への道を開くもの」とも説明している。

プロジェクト側から直接まとまった量を受け取る取引は、割引価格や新規発行による希薄化が問題になりやすい。市場で買えば、既存のAAVE保有者の持ち分が薄まることはない。コミュニティの反発を避けつつ関係を深める、穏当な方法を選んだとの見方ができる。

6月の出資交渉から何が変わったか

6月の出資交渉から何が変わったか

当初案は株式15%と25万AAVE

両社の交渉は、CoinDeskが6月に初めて報じていた。当時の案は、25万AAVEのトークン取得と、Aave Groupの普通株式15%の取得を組み合わせたものだった。企業価値の評価額は3億8,500万ドルとされていた。

トークンと株式の両方を持つ案は、Aaveというプロジェクトに2つのルートから関わる設計といえる。トークンでプロトコルの運営に参加し、株式で開発会社の経営にも関与するイメージだ。

今回の発表は株式に触れず

11月5日の発表は、トークン購入だけを扱っている。株式取得への言及はない。関係者によると、取引の中身は6月の報道以降に「変化してきた」という。

株式の話が消えた理由は明らかにされていない。ただ、DeFiの世界では、トークン保有者と開発会社の株主の利益が必ずしも一致しない点が繰り返し議論されてきた。トークンに絞った今回の形は、プロトコル側の利害に沿う立場をはっきりさせたとも読める。

一方で、株式取得の構想が完全に白紙になったのかは分からない。協業の具体化に合わせて、別の形で資本関係が生まれる余地は残っているとの見方もある。

Aaveとはどんなサービスか

Aaveとはどんなサービスか

預けて利息、担保を入れて借りる仕組み

Aaveは、暗号資産を預けて利息を得たり、資産を担保にお金を借りたりできるDeFi(分散型金融 / Decentralized Finance)のサービスだ。銀行のような仲介役はいない。

代わりに働くのが「スマートコントラクト」だ。ブロックチェーン上で、あらかじめ決めた条件どおりに自動で動くプログラムを指す。自動販売機がお金を入れると商品を出すように、担保が入れば貸し出しが実行される。人の判断を挟まずに、預け入れと貸し借りが回る仕組みということだ。

発表によると、Aaveの純預かり資産は約330億ドル、貸し出し中の残高は約110億ドルにのぼる。DeFiのレンディング分野では最大級の規模で、今回の投資先として選ばれた背景にもこの実績がある。

AAVEトークンでできること

AAVEは、Aaveの「ガバナンストークン」だ。保有者は、プロトコルの仕様変更や、共同の資金庫(トレジャリー)の使い道について投票できる。株式会社でいえば、株主総会の議決権に近い役割を持つ。

Paywardと顧客がAAVEを持てば、量に応じて投票にも関われる立場になる。もっとも取得量は非公表のため、どの程度の影響力を持つのかは現時点で判断できない。

Paywardが描く資産運用ビジネス

Paywardが描く資産運用ビジネス

4つの柱で取引手数料への依存から抜け出す

今回の投資は、Paywardが育てている資産運用事業の一環だ。対象はデジタル資産、ストラクチャード・イールド、トークン化された投資商品の3分野にまたがる。

ストラクチャード・イールドとは、条件を組み合わせて一定の利回りを狙えるよう設計した商品のことだ。トークン化は、債券などの権利をブロックチェーン上のトークンに置き換えることを指す。

Paywardは事業全体を4つの柱で整理している。取引、銀行業務、資産運用、そして「Payward Services」だ。最後の柱は、銀行やフィンテック企業に金融インフラを提供する事業を指す。

狙いは、暗号資産の売買手数料に頼る収益構造からの脱却にある。顧客の資産に結びついた投資商品、決済、各種サービスへと稼ぎ方を広げようとしている。

Paywardで資産運用・機関投資家部門を率いるGurpreet Oberoi副社長は声明で、オンチェーンの信用市場とDeFiへの長期的な確信を強調した。さらに、金融の未来を形づくるインフラに投資したいという顧客の需要が高まっていると述べている。

Aave側も前向きだ。Aave Labsの創業者でCEOのStani Kulechov氏は、Paywardとの連携を、次の波となる個人投資家や機関投資家にAaveを届けるための戦略的な一歩だと位置づけた。

相次ぐ買収との関係

Paywardはここ数カ月、大型の買収を重ねている。米デリバティブ取引所Bitnomialを最大5億5,000万ドル規模で買収したほか、ステーブルコイン決済企業Reapの買収も7月に完了させた。Reapの案件は最大6億ドル規模の合意だった。

業界全体でも同様の動きが続く。CoinDeskの親会社であるBullishは、株主名簿の管理を担う名義書換代理人のEquinitiを42億ドルで買収することで合意した。暗号資産企業が決済、デリバティブ、トークン化証券へと領域を広げる流れの中に、今回のAAVE取得も位置づけられる。

今回の動きをどう読むか

今回の動きをどう読むか

取引所がDeFiの「投資家」になる流れ

これまで中央集権型の取引所とDeFiは、顧客を奪い合う関係として語られることが多かった。取引所を使わずに自分で資産を運用できる点が、DeFiの売りだったからだ。

今回の取引は、その構図が変わりつつあることを示している。取引所がDeFiのトークンを自ら持ち、顧客の運用先にも組み込む。競争相手ではなく、投資先や提携先としてDeFiを扱う姿勢が見える。

Aaveにとっても利点は大きい。DeFiに直接触れたことのない取引所の顧客層に、間接的に届く可能性が生まれるからだ。協業の中身次第では、Krakenの利用者がAaveの貸し借り機能を使いやすくなる展開も考えられる。

今後確認したいポイント

ただし、現時点で分かっていることは多くない。投資家の立場では、次の点を追っていきたい。

  • 取得したAAVEの量が今後開示されるかどうか
  • Paywardが追加購入に踏み切るかどうか
  • 両社が探る協業がどのようなサービスとして形になるか
  • 6月に報じられた株式取得の構想が再び動くかどうか
  • PaywardがAaveのガバナンス投票にどこまで関与するか

大手企業がガバナンストークンを多く持つことには、運営の中立性をめぐる懸念も出やすい。取得量や投票方針の透明性をどこまで確保するかは、DeFiコミュニティの評価を左右する要素になりそうだ。

この記事のポイント

  • Kraken親会社のPaywardと顧客が、AAVEトークンを市場で取得した(量は非公表)
  • 6月報道の株式15%取得案は、今回の発表には含まれていない
  • Aaveは純預かり資産約330億ドル、貸出残高約110億ドルのDeFi大手である
  • Paywardは4つの柱を掲げ、取引手数料以外の収益源を広げている
  • 取引所とDeFiが競合から協業へと関係を変えつつあることを示す動きだ
共有:

コメントする

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)