Lidoが165億ドル規模のstETH統合を開始、Ethereumのバリデーター数が3分の1減少へ

暗号資産最大のリキッドステーキングプロトコルであるLidoが、2023年以来となる最大規模のアップグレードに着手した。800万ETH超、総額約165億ドル(記事執筆時のETH価格に基づく概算)相当のステーク済みイーサを、Ethereumネットワークの新しいバリデーター設計へと移行させるプロジェクトだ。

この動きによって、Ethereumネットワーク全体のバリデーター数は推定で約3分の1削減される。ネットワークの混雑緩和や取引手数料の直接的な引き下げには繋がらないものの、合意形成の土台となる「コンセンサスレイヤー」の負荷を大幅に軽減し、Ethereumの基盤をより強固にする効果が期待されている。

Lidoの大規模アップグレードの全容

Lidoの大規模アップグレードの全容

2026年7月28日、Lidoはプレスリリースを通じて、約800万ETH(ステーク済みイーサのトークン化された形であるstETH)を新たなバックエンドアーキテクチャへ統合する作業を開始したと発表した。これは、約1年前のPectraアップグレードでEthereumに導入された「ポスト・ペクトラ」設計に基づくものだ。

今回のアップグレードの中核を担うのは「Curated Module v2(CMv2)」と呼ばれる新しいモジュールだ。Lidoは、信頼できるノードオペレーターのみを厳選する「キュレーテッドモジュール」という仕組みを持っており、今回の移行でこのモジュールがv2へと進化する。

ここでいう「バリデーター」とは、Ethereumのネットワーク上で取引の正当性を検証し、新たなブロックを生成する役割を担う主体のことを指す。多数のバリデーターが存在することでネットワークの分散性は高まるが、数が増えすぎると、互いの情報を同期するための「アテステーション( attestation / 証明)」と呼ばれるメッセージが爆発的に増え、ネットワーク全体に負荷がかかるという課題があった。

バリデーター統合がもたらすネットワークへの恩恵

Lidoの試算によれば、この統合だけでEthereumネットワーク全体で発生するアテステーションメッセージが、1エポックあたり約29%も削減される見込みだ。エポックとは、ブロックチェーンネットワークを整理・同期するために区切られた、一定の期間またはブロック数の単位である。

これは、ネットワークの「コンセンサスレイヤー」、つまり関係者全員が台帳の状態について合意するための通信インフラ部分にかかる負荷を大幅に減らすことを意味する。一般ユーザーが実感できるガス代(取引手数料)の低下や取引速度の向上には直結しないが、Ethereumという巨大な分散ネットワークの安定性と効率性を裏側で支える、極めて重要な基盤強化といえる。

ノードオペレーターに課される新たな「経済的責任」

CMv2への移行で最も革新的な点は、5年の歴史を持つLidoのキュレーテッドモジュールにおいて、ノードオペレーターが初めて「ロックされたETHボンド」の差し入れを義務付けられることだ。ボンドとは、いわば「身元保証金」のようなもので、これまでは評判や過去の実績のみに依存していたオペレーターの信頼性に、経済的な責任が加わることになる。

Lido Labs Foundationのステーキング責任者であるIsidoros Passadis氏は、「これはLido V2以来、Lidoコアのステーキングの仕組みにおける最大の変化だ」と述べ、今回の変更の重要性を強調している。

Passadis氏によれば、Lidoを通じてステークされたETHの大部分を支えるノードオペレーターは、より少数のバリデーターに統合されると同時に、そのステークを初めて自己資本で裏付けることになる。これにより、Lidoコアを支えるバリデーターセットは、よりスリムで、より安全性の高いものへと生まれ変わるというわけだ。

このような資本参加を義務付けることで、既存のオペレーターが離脱するのではないかという懸念もあった。しかし、Lidoの発表によれば、既存の全34のキュレーテッドオペレーターがCMv2への移行を予定しており、ボンド要件を理由に離脱する予定の事業者はないという。これは、業界関係者にとっては安心材料として受け止められている。

技術的な移行プロセスと報酬への影響

技術的な移行プロセスと報酬への影響

今回の大規模な資産移動は、技術的にも興味深いプロセスを経て行われる。Lido Labs Foundationでノードオペレーターメカニズムの責任者を務めるWill Shannon氏は、CoinDeskのインタビューの中で、この移行にはEthereumの一般的な入出金キュー(待ち行列)ではなく、コンセンサスレイヤー専用の「統合キュー」が使用されると説明している。

これは、ネットワークの混雑を避け、スムーズに移行を進めるための工夫だ。

一方で、この統合に伴うステーキング報酬への影響も明らかにされている。Lidoの推定では、今回の移行によってプロトコル全体の年間ステーキング報酬は約0.28%減少する見込みだ。ステーキング報酬とは、バリデーターとしてネットワークの運営に貢献することで得られる利息のようなものだ。

ただし、バリデーターは移行が完了するまで報酬を獲得し続ける仕組みになっており、報酬が途絶えるのは、彼らの残高が新しいバリデーターに到達する前の短期間に限られる。移行による目減りは最小限に抑えられる設計といえるだろう。

今回のアップグレードが示すもの

今回のアップグレードが示すもの

このLidoの動きは、単なる大規模プロトコルの技術的更新にとどまらない、いくつかの重要なメッセージを内包している。

第一に、Ethereumエコシステムが「量から質への転換」を明確に志向し始めたことだ。バリデーターの数を闇雲に増やすのではなく、資本効率とネットワーク全体の健全性を考慮した設計が優先されている。約3分の1という大幅なバリデーター数削減は、この方向性を強く示している。

第二に、「評判」から「経済的アカウンタビリティ」への信頼モデルの進化だ。これは、従来の金融の世界でも見られる担保や保証金の考え方を、分散型プロトコルに本格的に組み込む動きといえる。「信頼」という目に見えないものを、検証可能な「資本」に置き換えることで、プロトコルの堅牢性を高めようとしているのだ。

第三に、Lidoのような巨大プロトコルが、Ethereumネットワーク全体の「公共財」としての健全性に配慮する姿勢を示したことの意義は大きい。今回のアップグレードは、直接的なユーザー体験の向上ではなく、ネットワークの裏側の効率化を目的としている。これは、自らの利益追求だけでなく、エコシステム全体の持続可能性を視野に入れた、成熟したガバナンスの表れと評価できるだろう。

これからの展望、ステーキング市場の「質」を問う競争へ

これからの展望、ステーキング市場の「質」を問う競争へ

今回のLidoの大胆な決断は、競合他社や今後のステーキング市場全体にも影響を与える可能性が高い。

Lidoが経済的アカウンタビリティを標準装備したことで、他のリキッドステーキングプロトコルも同様の仕組みの導入を検討せざるを得なくなるかもしれない。「より高い利回り」だけでなく、「より堅牢で、ネットワーク全体に悪影響を与えない設計」であることの証明が、これまで以上に重要な競争軸になっていくことが予想される。

また、この統合によってLidoのstETHが、より効率的で安全な基盤の上で運用されることが明確になれば、機関投資家のような大口の資本にとっての魅力は一段と増すだろう。ボンドという形でオペレーターの責任が可視化されることは、リスク管理の観点からも歓迎されるはずだ。

Ethereumの進化は、アプリケーションレイヤーだけでなく、その土台となるコンセンサスレイヤーやステーキングの分野でも着実に進行している。Lidoによる今回の大規模な「整理整頓」は、Ethereumネットワークが次の成長段階へと進むための、静かで、しかし極めて重要な一歩だと言えるだろう。

この記事のポイント

  • Lidoが約165億ドル相当のstETHを、Ethereumの新バリデーター設計へ統合する最大規模のアップグレードを開始した。
  • この統合により、Ethereum全体のバリデーター数は約3分の1減少し、ネットワークの裏側の通信負荷が大幅に軽減される。
  • ノードオペレーターは初めて自己資本(ETHボンド)の差し入れを義務付けられ、信頼モデルが「評判」から「経済的責任」へと進化する。
  • ステーキング市場は、単純な利回り競争から、ネットワークへの貢献や設計の堅牢性といった「質」を問う新たな段階に入る可能性がある。
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