ミネソタ州、銀行の暗号資産保管を8月解禁。ATMは全面禁止へ

ミネソタ州で8月1日、銀行と信用組合が顧客の暗号資産を預かる「カストディ(保管)サービス」を正式に提供できるようになる。ティム・ウォルツ知事が先週、関連法案に署名したことで、中西部で初めての本格的な法的枠組みが整った形だ。

これとまったく同じ日に、州内のすべての暗号資産ATMとキオスク端末が違法となる。州議会は相次ぐ高齢者詐欺の実態を重く見て、現金から暗号資産に換える物理的な入り口そのものを遮断する判断を下した。

銀行という規制された場に資産を呼び込みながら、無規制の換金手段を排除する両面作戦だ。州の狙いは「消費者が安心して使える枠組み」と「脆弱な住民を食い物にする仕組みの撲滅」を同時に進めることにある。

規制された銀行が暗号資産を預かる時代へ

規制された銀行が暗号資産を預かる時代へ

これまでもワイオミング州やバージニア州、ニューヨーク州などが暗号資産のカストディに関する法整備を進めてきた。しかしミネソタ州の新法は、州公認の銀行だけでなく「信用組合」にも明確な権限を与えた点で一歩踏み込んでいる。コミュニティに根ざした小規模な金融機関まで対象に含めたのは、全米でも珍しい試みだ。

カストディとは、顧客に代わって資産を安全に管理するサービス全般を指す。暗号資産の世界では、秘密鍵と呼ばれるパスワードのような情報を紛失すれば資産に永遠にアクセスできなくなる。このリスクを金融機関が肩代わりするわけだ。

法案の起草者の一人であるスティーブ・エルキンス州下院議員はCoinDeskの取材に対し、個人的な知人の例を挙げてこう説明している。「IDやパスワードをなくして事実上暗号資産を失った人を知っている。銀行や信用組合が管理者になっていれば、そんなことは起こらなかった」。

金融機関に求められる具体的な条件

新法の下では、サービスの提供開始にあたって60日前までの事前通知が義務づけられる。通知には、サイバーセキュリティ対策と内部リスク管理体制の詳細を含めなければならない。州の商務長官が事前にチェックする仕組みを設けることで、「準備不足のまま暗号資産を扱い始める」という最悪のシナリオを回避する狙いがある。

加えて、顧客の暗号資産は金融機関自身の資産と完全に分離して管理することが法律上明記された。仮に銀行が破綻しても、顧客のビットコインやイーサリアムが銀行の債権者に渡ることはない。この「分別管理」のルールは、従来の証券カストディと同様の考え方を暗号資産にも適用したかたちだ。

クラウド金融信用組合はLinkedIn上で声明を発表し、この法律が「安全性、健全性、サイバーセキュリティ、コンプライアンス、会員保護に焦点を当てた規制環境」を提供すると評価した。地元金融機関のあいだでは、むしろ明確なルールができたことを歓迎する声が多い。

銀行カストディが変えるリスク管理の常識

銀行カストディが変えるリスク管理の常識

個人投資家が暗号資産を自己管理する場合、最大の脅威はハッキングでも市場暴落でもなく「自分自身のうっかりミス」だ。パスワードを忘れる、秘密鍵を書いた紙をなくす、偽のカスタマーサポートに鍵を渡してしまう。こうしたヒューマンエラーによる損失は、業界全体で年間数十億ドル規模にのぼるという推計もある。

エルキンス議員が言及したのもまさにこの点だ。銀行がカストディアン(保管機関)として機能すれば、顧客は取引所で秘密鍵を管理するリスクから解放される。パスワードを忘れても本人確認で再設定できるし、不正送金の疑いがあれば金融機関側で取引を止めることも可能になる。

州認可銀行は受託者として顧客に対し忠実義務を負う立場でのサービス提供も、そうでない契約ベースのサービス提供も選べる。信用組合は非受託者ベースの保管のみが認められている。いずれにせよ、これまで「怪しい」「わからない」という理由で暗号資産から距離を置いていた層にとって、信頼できる入口が一つ増えるのは確かだ。

地域金融機関にとっての戦略的意味

ミネソタ信用組合ネットワークは「詐欺やハッキング、紛失に対する保護を規制監督のもとで強化しながら、より安全な暗号資産の管理手段を提供できる」と述べている。地方の信用組合にとっては、既存の取引所にはない「顔の見える安心感」こそが最大の強みになるというわけだ。

米国では地方銀行の経営環境が厳しさを増している。金利上昇局面での逆ざやや、フィンテック企業との競合により、従来の預貸ビジネスだけでは収益を伸ばしにくい。暗号資産カストディは、新たな手数料収入源としての期待も大きい。

もっとも、連邦準備制度理事会やFDIC(連邦預金保険公社)はこれまで銀行の暗号資産事業に対して慎重な姿勢を崩していない。ミネソタ州法が連邦規制との間で摩擦を生む可能性は残るが、エルキンス議員は「地元の銀行と信用組合が包括的な金融サービスの一環としてこれを提供したがっている」と意欲を強調する。

州が暗号資産ATMを全面禁止した理由

州が暗号資産ATMを全面禁止した理由

銀行によるカストディ解禁から一転、ミネソタ州は暗号資産ATMとキオスク端末を8月1日から全面的に禁止する。知事が署名したのは別の超党派法案で、州全域のATMが一斉に営業停止に追い込まれる。

ATM禁止法案を起草したエリン・ケーゲル州下院議員は、この端末が「詐欺師にとって格好の道具になっていた」と断じる。特に、固定収入で暮らす高齢者が被害に遭うケースが後を絶たなかったという。

実際の手口は単純だ。詐欺師が電話で「あなたの口座が危険にさらされている」「未払いの税金がある」などと不安をあおり、コンビニなどに設置されたATMまで被害者を誘導する。そこで現金をビットコインに換えさせ、指定のアドレスに送金させた時点で資金は回収不能になる。一度ブロックチェーン上で承認された取引は取り消せないからだ。

「規制された金融システム」への一本化

皮肉なことに、このATM禁止は銀行カストディ解禁とまったく同じ日に施行される。ミネソタ州の方針は明確だ。暗号資産を扱うなら規制された金融機関を通せ、匿名性の高いキオスク端末は認めない、というメッセージである。

米国最大手のビットコインATM運営会社ビットコイン・デポは、この法案が可決されたのと同じタイミングで破産を申請した。ミネソタ州だけでなく全米で規制の風向きが変わってきたことが背景にあるとみられる。

FBIの統計によれば、暗号資産ATMを利用した詐欺被害は2023年に全米で1億ドルを超えた。被害者の多くは60歳以上で、一度の送金で退職後の蓄えの大半を失う事例もある。ミネソタ州の禁止措置はこうした実態への直接的な回答といえる。

ミネソタ州の決断が示す分岐点

ミネソタ州の決断が示す分岐点

銀行によるカストディ解禁とATM全面禁止、この2つを同時に打ち出した州はこれまでになかった。ミネソタ州のアプローチは「技術そのものを否定するのではなく、技術との接し方を規律しよう」という発想に立っている。

暗号資産の思想的なルーツは、銀行など中央集権的な仲介者を介さずに価値をやりとりすることにある。その意味では、銀行カストディの普及は「反中央集権」という原点からの距離を拡げるといえる。しかし現実問題として、大多数の一般消費者はその過激な思想よりも「資産を安全に保てること」を優先する。

ミネソタ州の事例は、他の州にも波及する可能性がある。すでにSEC(米証券取引委員会)はトークン化された証券に関する「イノベーション免除」の提案を準備中だと報じられており、ポール・アトキンスSEC委員長も5月初旬にブロックチェーンベースの取引・決済システムに対応する新規則の検討を示唆した。

連邦レベルでの制度化に向けた布石か

複数の州が独自にカストディ法制を整える現状は、やがて連邦レベルでの統一ルールを求める声につながる。業界団体の一部は「州ごとに要件が異なるのは非効率だ」と指摘しており、議会でも安定コイン規制や市場構造改革の議論が進行中だ。

ミネソタ州法は中西部というこれまで暗号資産規制に積極的でなかった地域で成立したことに意味がある。東西海岸のテクノロジー中心地域だけでなく、農業や製造業が盛んな州でもデジタル資産の制度化が進み始めた証拠だ。

とはいえ課題も残る。銀行が保管する暗号資産はFDICの預金保険の対象にはならないとみられており、ハッキングなどで資産が失われた場合の補償の枠組みはまだ確立されていない。こうした論点をめぐっては、今後さらに法整備が求められる展開になりそうだ。

この記事のポイント

  • ミネソタ州が2026年8月1日、州公認銀行と信用組合に暗号資産カストディを解禁。中西部初の本格的法制となる
  • 顧客資産は銀行の自己資産と分別管理が義務づけられ、60日前の事前通知とリスク管理体制の審査も必要
  • 同じ8月1日、詐欺多発を理由に全州の暗号資産ATMとキオスク端末が禁止される
  • 「規制された金融機関への誘導」と「無規制の換金手段の排除」を同時に進める州の戦略が鮮明になった
  • 連邦レベルでもSECがトークン化証券の新規則を検討中で、州主導の動きが全国的な制度化を加速させる可能性がある
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