モルガン・スタンレーが提供するビットコイン現物ETF「MSBT」が、上場から最初の1カ月間で一度も純流出を記録しなかった。他の主要ETFが資金を引き揚げられる局面でも、MSBTだけはコンスタントに資金を集め続け、累計純流入額は約1億9,400万ドルに達している。
手数料の安さだけでなく、モルガン・スタンレーが抱える巨大な個人顧客基盤が流入を支えている構図だ。さらに同行のファイナンシャルアドバイザー網はまだ本格稼働しておらず、今後の伸びしろはかなり大きいとみられている。
この記事では、MSBTがなぜこれほど安定した資金流入を続けられているのか、競合ETFとの違いはどこにあるのか、そして今後の市場への影響について整理していく。
ゼロ流出の実態、データで振り返る

MSBTは2026年4月8日に取引を開始した。SoSoValueのデータによれば、最初の22取引日のうち17日で純流入を記録し、残る5日は流入ゼロだった。純流出となった日は一度もない。
初日だけで約3,060万ドルの純流入があり、出来高は約3,400万ドルに達した。ブルームバーグのシニアETFアナリスト、エリック・バルチュナス氏はこのスタートを「全ETFローンチの上位1%に入る」と評している。モルガン・スタンレーのデジタル資産戦略責任者エイミー・オルデンバーグ氏も「同行史上最も強いETFデビュー」と述べた。
初月の流入パターン
上場から2週間ほどは1日あたり1,000万ドル台後半の流入が続いた。その後は数百万ドル単位に落ち着いたが、マイナスに転じた日はまったくなかった。
5月7日時点で累計純流入額は1億9,360万ドル、純資産総額は2億3,960万ドルに達している。上場6取引日目には早くも純流入総額が1億ドルを突破し、2024年1月から取引されているウィズダムツリーのBTCWが積み上げてきた累計8,600万ドルを一気に抜き去った。
競合が流出する日でも流入を維持
MSBTの安定感が際立ったのは、市場全体が売りに傾いた日だ。たとえば5月7日、現物ビットコインETF全体では2億7,750万ドルの純流出となった。ブラックロックのIBITが2,720万ドル、フィデリティのFBTCが9,760万ドル、ARKBが2,660万ドルの流出を記録するなか、MSBTは570万ドルの純流入だった。
翌5月8日も市場全体で1億4,570万ドルの流出があったが、MSBTへの資金流入は途切れなかった。この間、MSBTは純資産価値(NAV)に対して0.24%のプレミアムで取引されており、IBITの0.18%、FBTCの0.13%を上回っていた。需要がETFの設定単位の供給を上回っていたことを示すサインだ。
NAV(基準価額)とは、ETFの保有資産をもとに算出される1口あたりの本来の価値のことだ。市場で取引される価格がこのNAVを上回る「プレミアム」状態は、簡単に言えば「買いたい人が多くて品薄気味」という需要の強さを表している。
最安値手数料の威力と限界

MSBTの年次運用報酬(スポンサー手数料)は0.14%だ。これは米国の現物ビットコインETFのなかで最も低い。グレースケールのビットコインミニトラストが0.15%、ビットワイズのBITBが0.20%、ARKBが0.21%、IBITとFBTCがともに0.25%で続く。グレースケールの旧型GBTCに至っては、いまなお1.50%という高い手数料を維持している。
もっとも、個人投資家レベルで見ればIBITとの手数料差は0.11%にすぎず、少額の投資ではほとんど気にならない差だ。しかし機関投資家の規模になると話は変わる。10億ドルあたり年間110万ドルのコスト差になるからだ。
手数料だけでは説明できない差
手数料の近い競合、グレースケールのビットコインミニトラスト(0.15%)と比べると、MSBTの流入の安定ぶりは際立つ。ビットコインミニトラストは純資産43億ドルを抱える大型ファンドだが、同期間に少なくとも1日の流出日を記録し、日々の流入額も総じてMSBTより小さかった。
つまり、MSBTの強さは手数料の安さだけでは説明しきれない。モルガン・スタンレーというブランド力と、同社の顧客基盤に直接アクセスできる流通網の優位性が大きく効いていると見るのが自然だろう。
アドバイザー・チャネルという未投入のエンジン

MSBTの初月の資金流入は、ほぼすべてがモルガン・スタンレーの自主運用口座(セルフディレクテッド口座)の顧客によるものだった。自主運用口座とは、投資家が自分の判断で売買する口座のことで、ファイナンシャルアドバイザーの助言や裁量は介在しない。
エイミー・オルデンバーグ氏はマイアミで開催されたConsensusカンファレンスで、「最初の1〜2週間の動きはほぼすべて自主運用によるもので、アドバイザーが売っていたわけではない」と明かしている。
1万6,000人のアドバイザー網が控える
これが意味するのは、MSBTにはまだ本格的に使われていない巨大な販売チャネルが残っているということだ。モルガン・スタンレーは約1万6,000人のファイナンシャルアドバイザーを擁し、9.3兆ドル超の顧客資産を管理している。
MSBTは上場から数週間、同行のアドバイザリー型ウェルスマネジメント・プラットフォームでは提供されていなかった。つまり、アドバイザー経由の資金流入は今後のフェーズで本格化する見通しだ。このチャネルが全面的に開けば、他のビットコインETF発行体には真似できない独自の資金流入経路となる。
E*Tradeでの暗号資産取引も試験開始
モルガン・スタンレーは、傘下のE*Tradeでビットコイン、イーサリアム、ソラナを対象とした現物暗号資産取引の試験運用も始めている。取引手数料は50ベーシスポイント(0.50%)に設定されており、ETFだけでなく直接的な暗号資産取引にも乗り出す構えだ。
ベーシスポイント(bp)とは金利や手数料を表す単位で、1bpは0.01%にあたる。50bpなら0.50%というわけだ。金融の世界では小さな利率差を表すのに頻繁に使われる。
市場全体から見るMSBTの立ち位置

MSBTの最初の1カ月は、米国の現物ビットコインETF市場全体の回復局面と重なった。SoSoValueのデータによると、13本の現物ビットコインファンドは5月8日までの6週間連続で純流入を記録し、その総額は30億ドルを超えた。昨年夏以来、最も長い連続流入だ。
カテゴリー全体の純資産総額は1,066億ドルに達し、ビットコインの時価総額の6.67%を占めている。2024年1月のカテゴリー発足以来の累計純流入額は593億ドルに上る。
バルチュナス氏の大胆予測
エリック・バルチュナス氏は、MSBTが初年度に運用資産残高50億ドルに達する可能性があると予測している。現状の流入ペースからすると、この目標達成にはアドバイザー・チャネルの本格稼働が不可欠だ。
だが、自主運用口座だけでこれだけの資金を集められた事実は、MSBTの商品力の高さを示している。モルガン・スタンレーの顧客は、相場が荒れている日でもこのETFを売らずに保有し続けた。単なる手数料目当ての短期資金ではなく、比較的腰の据わった資金が集まっている可能性が高い。
こうした安定感は、暗号資産ETF市場にまだ参入していない他の大手金融機関にとっても重要なシグナルになる。商品設計と顧客基盤さえ整えば、後発組にも十分な勝機があることをMSBTは実証しつつある。
この記事のポイント
- モルガン・スタンレーのビットコインETF「MSBT」は上場1カ月で純流出ゼロを達成し、累計純流入は約1.9億ドルに達した
- 手数料は0.14%と米国最安値だが、ブランド力と独自販路の優位性が流入安定の主因とみられる
- 初月の資金は自主運用口座が中心で、1万6,000人のアドバイザー網はまだ本格稼働していない
- 競合ETFが流出する日でも流入を続けており、腰の据わった資金が集まっている可能性が高い

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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