米証券取引所大手のNasdaq(ナスダック)と、暗号資産取引所大手のKraken(クラーケン)が、株式のトークン化に向けて戦略的提携を発表した。
両社は2027年初頭までに、欧州および国際市場の顧客を対象に、公開企業の株式を1対1で裏付けたトークン化商品の提供を目指す。
この動きは、ブロックチェーン技術を伝統的な金融インフラに統合し、資本市場の効率性を根本から変える可能性を秘めている。
NasdaqとKrakenの提携概要:株式をブロックチェーンへ

NasdaqとKrakenの提携は、伝統的金融(TradFi)と暗号資産市場の融合を象徴する出来事だ。
ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によると、NasdaqはKrakenと協力し、株式や上場投資信託(ETF)のトークン化版を発行・取引するシステムを開発する。
トークン化とは、株式などの資産をブロックチェーン上のデジタル証書に変換することを指す。
これにより、従来のような紙の書類や複雑な仲介業者を介さず、インターネット上で直接資産を管理できるようになる。
今回の計画では、Krakenが流通パートナーとしての役割を担う。
Krakenの欧州および国際市場の顧客は、公開企業の株式と1対1で対応するトークンを購入可能になる見通しだ。
暗号資産市場は2026年3月現在、ビットコイン(BTC)が67,493ドル台で推移するなど堅調な動きを見せている。
暗号資産市場の活況を背景に、伝統的な金融資産をオンチェーン(ブロックチェーン上)へ持ち込む需要が急速に高まっている。
2027年のサービス開始に向けたロードマップ
プラットフォームの稼働は2027年初頭を予定している。
Nasdaqはこのプロジェクトを通じて、配当の支払いや議決権の行使といったコーポレートアクションの自動化を目指している。
コーポレートアクションとは、企業が株主に対して行う配当や株式分割、合併などの重要な決定や手続きのことだ。
現在は多くの手作業と時間を要しているこれらのプロセスを、スマートコントラクトによって効率化する。
スマートコントラクトとは、あらかじめ設定された条件が満たされた際に、自動的に実行されるプログラムを指す。
つまり、配当日に自動的にトークン保有者のウォレットへ資金が振り込まれるような仕組みが構築される。
トークン化株式の仕組み:投資家の権利は守られるか

投資家にとって最大の懸念は、トークン化された株式が従来の株式と同じ権利を持つかどうかという点だ。
Nasdaqはこの点について、トークン保有者が従来の株主と同等のガバナンス権を保持することを明言している。
これには、株主総会での議決権や配当を受け取る権利が含まれる。
従来の株式市場では、株主の権利確定までに数日の時間を要することが一般的だった。
しかし、ブロックチェーンを活用することで、保有状況をリアルタイムで把握し、権利行使を迅速化できる。
1対1の裏付けによる信頼性の確保
トークン化株式は、実際の株式と1対1の比率で発行される。
これは、発行された1トークンに対して、必ず1株の現物株式が保管されていることを意味する。
この仕組みにより、トークンの価値が裏付け資産から乖離するリスクを最小限に抑えることができる。
たとえるなら、預かり証(トークン)を持っていれば、いつでも本物の荷物(株式)と引き換えられるクロークのようなシステムだ。
ブロックチェーンがもたらす取引の効率化
Nasdaqは、ブロックチェーン技術の導入により、バックオフィス業務の劇的なコスト削減を狙っている。
現在の株式市場では「T+2」と呼ばれる、取引成立から決済までに2営業日かかる仕組みが主流だ。
これをブロックチェーン上で処理することで、ほぼ即時の決済が可能になる。
これにより、取引に伴うカウンターパーティリスク(取引相手が義務を果たせなくなるリスク)を排除できる。
規制当局への働きかけと競合他社の動向

Nasdaqの取り組みは、単なる技術的な実験にとどまらない。
同社は2025年9月、米証券取引委員会(SEC)に対し、トークン化された株式やETFの取引を許可するよう提案を提出している。
この提案では、トークン化版と従来の株式を、米国の主要な決済機関であるDTCC(証券保管振替機構)を通じて決済することが盛り込まれた。
DTCCとは、米国市場における株式取引の清算や決済を一手に引き受ける巨大なインフラ組織だ。
既存のインフラとブロックチェーンを共存させることで、規制当局の承認を得やすくする戦略といえる。
先行する競合:ICEとOKXの提携
市場の動きは加速している。Nasdaqの発表に先立ち、ニューヨーク証券取引所(NYSE)の親会社であるICEも動いた。
ICEは暗号資産取引所OKXに対して戦略的投資を行い、トークン化株式や暗号資産先物商品の提供に向けた提携を締結している。
世界的な証券取引所が相次いで暗号資産プラットフォームと手を組む現状は、既存の金融秩序が大きな転換点を迎えていることを示唆している。
大手取引所がブロックチェーンを採用するのは、それが単なる流行ではなく、次世代の金融インフラとして不可欠だと判断したためだ。
RWA(現実資産)トークン化がもたらす市場変革

今回の提携の核心にあるのは「RWA(Real World Assets:現実資産)」のトークン化という潮流だ。
RWAとは、不動産や国債、株式、金(ゴールド)など、現実世界に存在する価値ある資産を指す。
これらをブロックチェーンに乗せることで、これまで一部の富裕層や機関投資家に限られていた投資機会が、小口化され、世界中の投資家に開放される。
24時間365日の取引と流動性の向上
伝統的な株式市場は、平日昼間の数時間しか開いていない。
一方で、トークン化された株式は、暗号資産と同様に24時間365日の取引が可能になる可能性がある。
これにより、市場の流動性(資産の交換しやすさ)が飛躍的に向上する。
投資家は、地球の裏側で起きたニュースに即座に反応し、ポートフォリオを調整できるようになる。
独自分析:伝統的金融機関の生存戦略
NasdaqがKrakenと提携した背景には、既存のビジネスモデルに対する危機感があるとの見方が強い。
手数料の低下と競争の激化が進む中、ブロックチェーンによる劇的なコスト削減は、証券取引所にとって避けて通れない課題だ。
また、若年層の投資家は、従来の証券口座よりも使い勝手の良い暗号資産アプリを好む傾向がある。
NasdaqはKrakenの持つインターフェースと顧客基盤を借りることで、次世代の投資家層へのリーチを狙っていると分析できる。
投資家への影響と今後の展望

この提携が成功すれば、投資家は一つのアプリでビットコインとApple株を同時に、かつ同じ利便性で取引できるようになる。
これは、金融の「壁」が取り払われることを意味する。
しかし、課題も残されている。地域ごとに異なる規制への対応や、サイバーセキュリティの確保だ。
特に、株式という厳格に管理された資産を扱う以上、ハッキングによる流出は許されない。
欧州市場が先駆者となる理由
Nasdaqが最初のターゲットを米国ではなく欧州や国際市場に定めたのは、規制環境の違いが要因とみられる。
欧州ではMiCA(暗号資産市場規制)などの法整備が進んでおり、暗号資産に関するルールが比較的明確だ。
対して米国では、SECによる規制の解釈が厳しく、承認プロセスが長期化する傾向にある。
欧州での成功事例を積み上げることで、最終的には米国本国での本格展開を狙う構えだ。
この記事のポイント
- NasdaqとKrakenが提携し、2027年より株式のトークン化商品の提供を開始する。
- トークン保有者は、従来の株主と同様に議決権や配当を受け取る権利を維持できる。
- スマートコントラクトの活用により、配当支払いや事務手続きが自動化・効率化される。
- RWA(現実資産)のトークン化は、伝統的金融と暗号資産の境界を消滅させる可能性を持つ。
- 欧州など規制の明確な地域から展開し、将来的な米国市場への導入を模索する。
出典
- CoinDesk「Nasdaq and Kraken are teaming up to let you trade tokenized stocks」(2026年3月9日)
- Wall Street Journal「Nasdaq Partners With Kraken in Tokenization Push」(2026年3月9日)
- CoinDesk「Nasdaq seeks nod from U.S. SEC to tokenize stocks」(2025年9月8日)

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
分かりやすい解説で、ブロックチェーン革命の潮流を一般に広めることを目指す。初心者から上級者まで、最新情報を求めるすべての人に役立つ情報発信を心がけている。
