北朝鮮の国家支援ハッカー集団「ラザルスグループ」が、分散型デリバティブ取引所Hyperliquidでビットコインを大量に売却していたことがブロックチェーン分析で明らかになった。
分析を手がけたArkhamのデータによると、過去3週間だけで3000万ドル超のビットコインが売却され、売却益はイーサリアムとソラナに交換された後に複数の中央集権型取引所へ送金されていた。
トランプ政権がHyperliquidの米国市場への導入を模索する中で、制裁リスクという新たな火種が加わった格好だ。
北朝鮮ハッカーがHyperliquidで3000万ドル超のBTCを売却

Hyperliquid(ハイパーリキッド)は、暗号資産のデリバティブ取引を専門とする分散型取引所だ。ウォレットを接続するだけで口座開設や本人確認なしに取引できる仕組みが特徴で、近年急速に利用者を伸ばしてきた。
その利便性の高さが、制裁対象の資金移動にも利用されている疑いが濃厚になっている。
過去3週間で3000万ドル超のビットコインを売却
CoinDeskがブロックチェーン分析企業Arkhamに依頼して確認したところ、北朝鮮の国家支援ハッカー集団ラザルスグループに結びつくウォレットが、過去3週間だけで3000万ドル超のビットコインをHyperliquid上で売却していた。
ラザルスグループは、北朝鮮の偵察総局に属するとされるハッキング組織だ。過去にも大手暗号資産取引所やブロックチェーン関連企業から巨額のデジタル資産を窃取し、北朝鮮の資金源になっていると米国政府から名指しされている。
売却益はイーサリアムとソラナに交換、3つの取引所へ
ビットコインの売却で得た資金は、イーサリアムとソラナ(SOL)に交換された。その後、これらの暗号資産はKraken、LBank、KuCoinという3つの中央集権型取引所に送金されていた。
送金先の口座所有者が誰なのか、各取引所が資金の出所を把握していたのかは、記事公開時点では確認できていない。HyperliquidはCoinDeskの取材に対し、コメントを返していない。
各取引所の反応
Krakenの広報担当者は、コンプライアンスを事業運営の基盤としていると説明した。主要なブロックチェーン分析企業と連携した継続的な監視体制を整えており、制裁対象ウォレットに関連する資産はプラットフォームに入る前に特定しブロックする設計だという。
LBankは、業界標準のコンプライアンスツールを使って継続的な監視をしているとしながらも、暗号資産業界は本質的にクロスプラットフォーム、クロスチェーン、クロス法域だと指摘した。リスクは単一のプラットフォームで生み出されるものではなく、業界全体の課題だという立場だ。
KuCoinは、データを確認するまでは制裁対象ウォレットの動きについてコメントできないと回答した。公開ブロックチェーンデータだけで中央集権型取引所の対応を判断するのは不十分だとも述べている。
トランプ政権が進めるHyperliquidの米国導入

トランプ氏の発言とCFTCの動き
ラザルスグループによるHyperliquidの利用が判明したのは、米国がこのプラットフォームの受け入れを検討しているタイミングと重なる。
米国のトランプ大統領は今月初め、ホワイトハウスのイベントで発言した。商品先物取引委員会(CFTC)のマイク・セリグ委員長が、Hyperliquidを米国に導入する道を探っているという内容だ。「完全にコンプライアンスを満たした合法的な形で」という表現だった。
この発言は、米国を世界の暗号資産産業の中心地にしようとするトランプ政権の広範な取り組みと整合的だ。歴史的にオフショアで運営されてきた企業を、米国の規制監督下に取り込む狙いがある。
Hyperliquidの構造と規制の壁
Hyperliquidの中核開発企業であるHyperliquid Labsはシンガポールに拠点を置く。米国にプラットフォームを導入するには、デリバティブ取引所に関する規制、顧客保護、市場監視のルールを満たす必要がある。
それに加えて、ユーザーが暗号資産ウォレットから直接取引する仕組みに起因する制裁リスクやマネーロンダリング防止の課題にも対処しなければならない。
ブルームバーグの報道によると、Krakenの親会社であるPaywardは、Hyperliquid Labsとの間で、米国のトレーダーに無期限先物を提供するための交渉を進めているという。
Hyperliquidの急成長と規制当局の視線

累計取引高は5兆ドル超
Hyperliquidは、無期限先物と呼ばれるデリバティブ商品を扱う分散型取引所として圧倒的な存在感を示している。無期限先物とは、満期がなく、資産価格の変動に賭けられる契約のことだ。
DefiLlamaのデータによると、このプラットフォームの累計取引高は5兆ドルを超え、現在の建玉(未決済のポジション残高)は約133億ドルに達する。直近30日間だけでも約2050億ドルの無期限先物が取引された。
競合取引所が規制当局に調査を要請
この急成長により、Hyperliquidはウォール街と米国の規制当局の両方から注目を集めている。
インターコンチネンタル取引所(ICE)のジェフリー・スプレッチャーCEOは5月、取引活動の規模でみるとHyperliquidは「ナスダックより大きい」と発言した。
一方で、CMEグループとICEは今年初め、米国当局に対しHyperliquidの調査を促していたとブルームバーグが報じている。市場操作や制裁逃れを助長する恐れがあるというのがその理由だ。
CMEグループは現在、米国取引所で暗号資産の無期限先物を提供する道を開こうとするCFTCの動きを阻止しようと、同規制当局を提訴している。
北朝鮮の暗号資産活動、制裁リスクの実態

2024年にも北朝鮮関連ウォレットが取引
Hyperliquid上で北朝鮮関連のウォレットが確認されたのは今回が初めてではない。
2024年12月、MetaMaskのセキュリティ研究者であるテイラー・モナハン氏は、少なくとも同年10月から北朝鮮のハッカーに支配されている疑いのあるウォレットがこのプラットフォームで取引していたと指摘した。
この情報が投資家の不安を呼び、1日で約2億5000万ドルの資金がHyperliquidから流出した。当時、取引所側はプラットフォームに不正アクセスはなく、ユーザー資金の損失もないと説明していた。
ETF申請書にも制裁リスクの記載
HyperliquidのトークンであるHYPEに連動するETFを立ち上げた暗号資産運用会社Bitwiseは、5月の申請書類で制裁リスクを明示的に言及している。
同社は、Hyperliquidの開発者や運営者が、ブロックチェーンと直接やり取りするユーザーに本人確認やマネーロンダリング防止、制裁スクリーニングを強制することはできないと説明した。つまり、ネットワークが制裁対象者に利用される可能性が構造上残っているという認識だ。
制裁対象が受け取る価値は1年で694%増加
北朝鮮は、暗号資産分野で最も攻撃的な国家主体のひとつとされている。米国政府はラザルスグループなどが数十億ドル規模のデジタル資産を窃取し、平壌の資金源や兵器開発に流用していると非難してきた。
米財務省外国資産管理室(OFAC)は2019年にラザルスグループを制裁対象に指定した。その後も、盗難資金の移動に使われるウォレットやサービスを次々と特定している。
Chainalysisの調査によると、制裁対象となったエンティティが受け取った価値は2025年に前年比694%増加した。ロシア、イラン、北朝鮮が国家ぐるみの金融・安全保障活動の一環としてデジタル資産の利用を拡大していることが背景にある。
米財務省が個々の制裁ウォレットだけでなく、資金移動に使われるインフラそのものに焦点を広げていることも、この問題の深刻さを示している。
この記事のポイント
- 北朝鮮のラザルスグループがHyperliquidで3週間に3000万ドル超のビットコインを売却
- 売却益はイーサリアムとソラナに交換され、Kraken、LBank、KuCoinへ送金
- トランプ政権はHyperliquidの米国導入を模索しており、制裁リスクが新たな課題に
- Hyperliquidの累計取引高は5兆ドル超、建玉は約133億ドルと急成長
- 制裁対象エンティティが受け取る暗号資産の価値は2025年に694%急増

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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