中東の地政学的リスクが、再び世界経済と暗号資産市場を揺さぶっている。米軍によるイランへの攻撃が8日連続で続く中、原油価格が急騰し、1バレル90ドルの大台を突破した。
この事態を受け金融市場では、米国のインフレ再燃と、それに伴う連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ再開への警戒感が急速に高まっている。高金利はリスク資産の最大の敵であり、ビットコイン(BTC)をはじめとする暗号資産にとっては、まさに逆風以外の何物でもない状況が生まれている。
ホルムズ海峡封鎖で原油が90ドル台に急騰

7月19日、国際指標の一つである北海ブレント原油先物は一時91ドル付近まで買い進まれ、前日比で3%を超える上昇を記録した。Trading Economicsのデータでは91.40ドルに達したと報告されている。
これは単なる短期的な値動きではない。前週だけで14%もの急伸を見せており、7月初旬に記録した71ドル付近の安値からは、わずか2週間足らずで30%近くも跳ね上がった計算になる。
8日連続の攻撃と海峡封鎖の実態
この急騰劇の引き金は明確だ。7月8日、ドナルド・トランプ米大統領はイランとの間で結ばれていた一時停戦合意を破棄した。それ以降、米軍の攻撃は週末も休むことなく続き、ワシントンはイランの港湾を事実上封鎖。テヘラン側は、世界の石油輸送の大動脈であるホルムズ海峡は許可なき船舶の航行を認めないと宣言している。
ホルムズ海峡は、世界の原油取引量の約2割が通過する「石油の蛇口」だ。この蛇口が事実上閉ざされたことで、供給不安がダイレクトに価格を押し上げている。アルジャジーラの報道では、クウェート国内の発電・淡水化プラントがイランによる攻撃で2日連続被害を受けたことも伝えられている。もはや、エネルギーインフラ自体が直接の標的になっているのだ。
わずか2週間で3割近い急反発の仕組み
今回の相場上昇を理解するには、この数カ月の乱高下を振り返る必要がある。6月17日に米イラン間で一時停戦が成立すると、5月に107ドルを超えていた原油は一気に71ドルまで急落し、市場には平和への期待が広がった。
しかし、停戦がわずか3週間で反故にされたことで、市場は一転して「戦争プレミアム」を織り込み始めた。地政学的リスクとは、一度消えたかに見えた不安が現実に戻った時、その反動で価格がより急角度で跳ね上がる性質を持つ。今回の30%近い急反発は、まさにその典型例といえる。
インフレ再燃とFRBの利上げ観測

原油高は、米国経済にとって極めて厄介なタイミングで発生した。ここにきてようやく落ち着きを見せ始めていたインフレ率が、エネルギー価格の高騰によって再び上昇に転じる懸念が強まっている。
ガソリン高がCPIを押し上げる構図
米労働統計局(BLS)のデータによれば、6月の米消費者物価指数(CPI)は前月比0.4%の下落と、2020年4月以来の大幅な減少を記録した。これは、エネルギー価格が5.7%も低下したことが主因だ。
しかし、原油が90ドル台に乗せてきたことで、この構図は完全に反転する恐れがある。ガソリンや光熱費の上昇は、家計の負担を増やすだけでなく、企業の輸送コストも押し上げる。BeInCryptoの以前のレポートでは、このホルムズ原油ショックが、6月に記録したインフレ低下の成果を打ち消しつつあると指摘されている。いわば、消費者にとっては値下がりを実感する間もなく、再び値上げの波が押し寄せてくる状況だ。
ウォーシュ新議長のタカ派姿勢と国債市場
原油の急騰と同じタイミングで、米国債市場も動揺している。長期金利の指標である10年物国債の利回りは4.55%付近と、約2カ月ぶりの高水準で推移している。これは、債券市場が将来のインフレと金融引き締めを織り込み始めた証拠だ。
FRBの新議長に就任したケビン・ウォーシュ氏は、すでにタカ派的な姿勢を明確にしている。6月のFOMCでは金利を据え置いたものの、政策メンバー18人のうち9人が年内の追加利上げを見込んでいた。7月1日のポルトガルでの中央銀行フォーラムでは「物価は依然として高すぎる」と短く言い切り、市場への牽制を怠らなかった。
この発言と原油高騰を受け、金利先物市場では7月28〜29日の次回FOMCでの利上げ確率が、7月初旬の18%から一時36%まで倍増した。CMEのFedWatchツールによると足元では14%とやや落ち着いているが、それでも通常に比べれば高水準だ。原油が90ドル台を維持し続ければ、この「テールリスク」が一気に現実味を帯びてくる。
リスク資産であるビットコインにとっての逆風

こうした金融環境の変化は、暗号資産にとって追い風にはならない。むしろ、ビットコイン市場は複合的な逆風にさらされている。
高金利が奪う「投機的資産」の魅力
暗号資産は一般的に、株式と同様に「リスク資産」に分類される。景気が良く、世の中に投資マネーが溢れている時には買われるが、金利が上昇してお金を借りるコストが高くなると、真っ先に資金が引き揚げられやすい。
利上げ観測が強まる局面では、投資家はリスクを取りにくくなる。安全な米国債を保有するだけで年4.5%以上の利回りが得られる環境では、価格変動の激しい暗号資産に資金を振り向ける「必然性」が薄れてしまうからだ。BeInCryptoによるテクニカル分析では、ビットコインは戻りの局面で必ず売り圧力に遭い、価格の回復力を試されている状況が続いているという。
イラン紛争は「有事の逃避先」にならず
ここで一つの疑問が浮かぶ。戦争のような地政学的危機は、時に金(ゴールド)のような安全資産や、ビットコインのような非政府通貨の買い材料になるとの見方もある。しかし、今回のイラン紛争では、その「有事の逃避先」としての顔は見られていない。
BeInCryptoが今年2月28日から6月17日の紛争第一段階を調査した研究では、戦争のヘッジ手段として最も強かったのは株式であり、ビットコインはそれに及ばなかったと結論づけられている。戦争が長期化し、原油高を通じてインフレと高金利を招くシナリオでは、ビットコインは「安全資産」というより「投機的資産」としての扱いを強く受ける。この点は、デジタルゴールド論を期待する向きには厳しい現実だ。
FOMC直前、市場が注視する2つの指標

7月28日と29日に開催される次回FOMCは、今年最も重要な金融政策イベントの一つになりつつある。そして、その帰趨を握るのは、ワシントンの政治判断と、ホルムズ海峡の緊張度合いに他ならない。
短期的に目を離せないのは、言うまでもなく原油価格の動向だ。ブレント原油が今後も90ドル台で推移するのか、あるいは一時的な急騰で終わるのか。ここが、FRBの利上げが「単なるテールリスク」から「メインシナリオ」へと格上げされるかどうかの分水嶺となる。万一、利上げが実施されれば、金利に敏感な暗号資産市場は、より深い調整局面を迎える可能性が高い。
中東の火種が、デジタル資産の未来に暗い影を落としている。いつ終わるとも知れないホルムズ海峡の封鎖は、単なる戦争ニュースではなく、暗号資産投資家のポートフォリオに直接的に関わる深刻な経済変数となった。
この記事のポイント
- イラン情勢の緊迫化で北海ブレント原油が急騰し、1バレル90ドル台に到達した
- 原油高によるインフレ再燃でFRBの利上げ観測が強まり、金融市場に動揺が広がっている
- 高金利はビットコインなどリスク資産の最大の敵であり、今回の紛争は有事の逃避先としても機能していない
- 7月末のFOMCは、原油価格次第で利上げが現実味を帯びる瀬戸際にある

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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