オンチェーン・コモディティ取引が急成長、Hyperliquidで過去最高の54億ドルを記録。流動性の課題と将来性を解説

暗号資産の技術を用いて現実世界の資産を取引する「RWA(現実資産 / Real World Assets)」の波が、コモディティ市場にまで波及している。これまでビットコインやイーサリアムといったデジタル資産に限定されていた分散型取引所(DEX)の取引対象が、今や金や銀、さらには原油といったマクロ経済を象徴する資産へと急速に拡大中だ。

特に注目を集めているのが、24時間365日止まることのないオンチェーン市場ならではの優位性だ。伝統的な金融市場が閉鎖される週末に、地政学リスクや経済指標の変化に反応して価格が動く場所として、オンチェーン取引所が新たな役割を担い始めている。

しかし、成長の一方で伝統的な取引所との間には依然として巨大な「流動性の壁」が存在する。本記事では、過去最高の取引高を記録した最新データをもとに、オンチェーン・コモディティ取引の現状と、解決すべき課題、そして将来の展望について詳しく解説していく。

Hyperliquidの「HIP-3」市場が過去最高の取引高を記録

Hyperliquidの「HIP-3」市場が過去最高の取引高を記録

分散型デリバティブ取引所であるHyperliquid(ハイパーリキッド)において、コモディティやマクロ資産を扱う「HIP-3」市場の取引高が、2026年3月23日に過去最高を更新した。Artemisのデータによれば、無期限先物(パーペチュアル)取引の合計ボリュームは約54億ドルに達している。

内訳を見ると、最も活発に取引されたのは銀で約13億ドル、次いでWTI原油が約12億ドルを記録した。さらに、北海ブレント原油が約9億4,000万ドル、金が約5億5,800万ドルと続いている。暗号資産市場の代表格であるビットコインが66,700ドル付近、イーサリアムが2,000ドル付近で推移する中、これらの伝統的な資産がオンチェーンでこれほどの規模で取引されるのは極めて異例のことだ。

これまでオンチェーンでのコモディティ取引は、主に暗号資産に精通した投資家がポートフォリオを多様化するための手段に過ぎなかった。しかし、Theoの最高投資責任者(CIO)であるイギー・イオッペ氏によると、現在の状況はそれだけにとどまらないという。個人の伝統金融トレーダーが、自身の個人アカウントを通じてこれらの市場にアクセスし始めている兆候があるからだ。

HIP-3とは何か

HIP-3(Hyperliquid Improvement Proposal 3)は、Hyperliquid上で暗号資産以外の資産を取引可能にするための規格だ。これにより、投資家はメタマスクなどのウォレットを使い、分散型の環境で株式指数(ナスダックやS&P500など)やコモディティの価格に連動したデリバティブ取引を行うことができる。

要するに、証券会社に口座を開設することなく、ブロックチェーン上で世界中の主要な経済指標を24時間取引できる仕組みを整えたということだ。この手軽さが、新たなユーザー層の流入を後押ししている。

「週末の空白」を埋める24時間市場の強み

「週末の空白」を埋める24時間市場の強み

オンチェーン市場が伝統的な市場に対して持つ最大の武器は、取引時間の制限がないことだ。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)などの伝統的な取引所は、金曜日の午後に閉鎖され、日曜日の午後まで約49時間の空白時間が生じる。しかし、世界情勢や地政学的な変化は週末であっても止まることはない。

イオッペ氏が指摘するように、オンチェーンの原油先物市場では、伝統的な取引所がオフラインとなる週末に1日あたり10億ドルを超える取引が行われるケースが増えている。これは、投資家が週末に発生したニュースに対して即座にポジションを調整したいという強い需要があることを示している。

伝統的な金融市場の参加者にとって、週末に発生したリスクに対して月曜日の朝まで何もできないことは大きなリスクだ。オンチェーン市場は、そのリスクを回避するための「避難所」や、週明けの価格を予測するための「先行指標」としての役割を果たし始めている。現時点では、オンチェーン市場が週末の価格発見(プライスディスカバリー)の層として機能し、伝統金融が平日の厚みのある流動性を提供するという、役割分担ができつつある状態だ。

価格発見機能の分散化

価格発見とは、市場参加者の需要と供給が一致する地点を探るプロセスのことだ。通常、これは最も流動性の高い市場で行われる。しかし、週末においてはオンチェーン市場が唯一の「開いている窓」となるため、小規模ながらもそこで形成された価格が、週明けの伝統的な市場の開始価格に影響を与える現象が起きている。

これは、情報の伝達スピードがブロックチェーンによって加速され、特定の機関だけでなく個人トレーダーも市場形成に寄与できるようになったことを意味している。つまり、市場の民主化がコモディティの分野でも進んでいるということだ。

伝統金融との間にある「流動性の壁」という課題

伝統金融との間にある「流動性の壁」という課題

オンチェーン市場が急成長しているとはいえ、伝統金融(TradFi)の巨人と比べれば、その規模はまだ「コップの中の嵐」に過ぎない。例えば、CMEの原油先物市場では、1日あたり100万枚から450万枚のコントラクトが取引されており、想定元本ベースでは約1,000億ドルから3,000億ドルに達する。

1inchの共同創設者であるセルゲイ・クンツ氏は、オンチェーン市場が直面している最大の障壁は、流動性の低さとスプレッド(売値と買値の差)の広さだと指摘している。十分な流動性がない市場では、大口の注文が入った際に価格が大きく動いてしまうため、機関投資家が本格的に参入することは難しい。

また、MEXC Researchのチーフアナリスト、ショーン・ヤング氏は、価格の信頼性や市場構造の成熟度、規制の不透明さも課題として挙げている。コモディティのトークン化は行動変容の兆しを見せているものの、依然として初期段階にあり、価格の集約方法や流動性の供給体制には改善の余地が多い。

機関投資家が求める「厚み」

機関投資家にとって重要なのは、単に取引ができることではなく、自分たちの大きな注文が市場価格を壊さずに(スリッページを抑えて)実行できるかどうかだ。これを市場の「厚み(デプス)」と呼ぶ。

現在のオンチェーン市場は、個人トレーダーや一部のヘッジファンドには十分な環境を提供しているが、数千億円規模を動かす巨大な機関投資家を受け入れるには、さらなる流動性提供者(リクイディティ・プロバイダー)の参入が必要不可欠だ。

コモディティ以外のマクロ資産への拡大

コモディティ以外のマクロ資産への拡大

制約はあるものの、オンチェーンでマクロ資産を取引する流れは止まりそうにない。クンツ氏は、トレーダーがオンチェーンでマクロ的なエクスポージャー(資産の価格変動にさらされる状態)を得ることに、より抵抗を感じなくなってきていると述べている。

現在は金や原油が中心だが、今後は他の資産クラスにも同様のパターンが広がる可能性がある。例えば、農産物や希少金属、さらには各国の金利に関連するデリバティブなどがオンチェーンで活発に取引されるようになるかもしれない。ボラティリティ(価格変動率)が高まる時期に合わせて、これらの資産への需要はさらに増大するだろう。

イオッペ氏は、週末の価格設定に対する信頼が構築されるにつれて、オンチェーン先物市場の活動は持続的なものになると結論づけている。より多くのトレーダーが時間外の取引場所としてこれらの市場を頼りにするようになれば、取引高が増え、それに伴って未決済建玉(オープンインタレスト)も増加し、価格の信頼性がさらに高まるという好循環が生まれるからだ。

RWA化がもたらす金融の再定義

現実資産をブロックチェーンに乗せるRWA化は、単なる技術的な流行ではなく、金融インフラそのものの再定義だ。仲介者を排除し、決済時間を短縮し、24時間のアクセスを可能にすることで、これまでの金融の常識を覆そうとしている。コモディティ取引はその最前線の一つであり、伝統金融と暗号資産の境界線が最も曖昧になっている場所だと言える。

独自の分析:オンチェーン市場は「伝統金融のバックアップ」を超えられるか

独自の分析:オンチェーン市場は「伝統金融のバックアップ」を超えられるか

今回のHyperliquidのデータから読み取れるのは、オンチェーン市場がもはや「暗号資産愛好家の遊び場」ではないという事実だ。週末の取引高が急増しているという事実は、伝統金融のシステム的な欠陥(取引時間の制限)を、ブロックチェーンが補完していることを明確に示している。

筆者の見解では、今後重要になるのは「流動性の質」の向上だ。現在はまだボラティリティを利用した短期的な投機が中心だが、今後より安定した流動性供給プロトコルが登場すれば、実需に基づいたヘッジ取引もオンチェーンに移行してくるだろう。また、規制面での整備が進めば、伝統的な証券会社がオンチェーンの流動性を自社のバックエンドとして利用するような未来も想像に難くない。

しかし、そのためにはオラクル(外部データをブロックチェーンに取り込む仕組み)の正確性と耐検閲性がこれまで以上に問われることになる。伝統的な市場が閉じている間に、誰かが意図的に価格を操作することを防ぐための堅牢なガバナンスが、今後のオンチェーン・コモディティ市場の信頼性を左右する鍵となるだろう。

この記事のポイント

  • HyperliquidのHIP-3市場が、銀や原油の取引急増により過去最高の約54億ドルの取引高を記録した
  • 伝統的な取引所が閉鎖される週末に、オンチェーン市場が「価格発見」の場として機能し始めている
  • 伝統金融との間には依然として巨大な流動性の格差があり、機関投資家の参入には市場の厚みが必要である
  • 週末の取引需要に応える形で、金や原油以外のマクロ資産にもオンチェーン取引が拡大する見通しだ
  • RWA化の流れは加速しており、24時間365日のアクセス性がオンチェーン市場の決定的な強みとなっている
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