ポーランド、暗号資産法案の拒否権覆せず。Zondacrypto破産で捜査拡大

ポーランド議会が大統領の拒否権を覆せず、暗号資産規制の国内法整備が再び暗礁に乗り上げた。投票で必要な3分の2の賛成に25票届かなかった。

背景には、暗号資産取引所Zondacryptoの破産と巨額損失をめぐる捜査の拡大がある。規制強化を求める政府と、過剰規制を懸念する大統領の対立が先鋭化している構図だ。

3度目の拒否権、覆すには25票足りず

3度目の拒否権、覆すには25票足りず

ポーランド下院セイムは9月5日、カルロル・ナブロツキ大統領が拒否権を行使した暗号資産法案を再可決するかどうかの投票を行った。結果は賛成241、反対198、棄権3だった。

大統領の拒否権を覆すには、下院定数の5分の3にあたる266票が必要だった。つまり、25票の不足である。この法案をめぐっては、大統領がすでに3回の拒否権を行使しており、今回の投票が4度目の議会判断だった。

法案の狙いはMiCAの国内適用

拒否された法案は、EU(欧州連合)の暗号資産市場規則「MiCA(ミカ)」をポーランド国内で適用するための枠組みを定めるものだった。MiCAとは、暗号資産サービス事業者に登録・認可を義務づけ、投資家保護や市場の透明性を高めることを目的としたEU共通の規制である。

法案では、暗号資産市場の監督権限をポーランド金融監督庁(KNF)に与えることが柱となっていた。しかし大統領は、規制コストの高さや、当局がウェブサイトをブロックできる権限の強さを問題視し、3度にわたって法案を差し戻してきた。

Zondacryptoスキャンダルの全容

Zondacryptoスキャンダルの全容

規制論争が膠着するなか、暗号資産取引所Zondacryptoをめぐる事件が急拡大している。同取引所はもともと「BitBay」の名称で知られ、ポーランドを含む中東欧で広く利用されていた暗号資産交換所だ。

エストニアの運営会社が破産、債権者会議は9月17日

Zondacryptoの運営会社であるBB Trade Estoniaは、8月にエストニアの裁判所から正式に破産宣告を受けた。エストニア当局が公開している官報によると、最初の債権者会議は9月17日に予定されている。

ポーランドの検察当局は、Zondacryptoに関連する詐欺とマネーロンダリングの疑いで捜査を進めている。7月には、同社創業者シルヴェステル・スシェク氏の2022年の失踪事件に関する捜査と統合した。

推定損失額は約9,500万ドル

検察当局が4月に公表した推計によると、Zondacryptoに関連する損失額は少なくとも3億5,000万ズロチ(約9,500万ドル)に上る。これはポーランド国内の暗号資産関連事件としては最大級の規模だ。

2022年には、創業者スシェク氏が管理する約4,500BTC(当時の価値で約1億ドル以上)のウォレットにアクセスできなくなり、出金停止に追い込まれる騒動があった。この事件が後の捜査の出発点となっている。

政治の舞台裏、証言が示す疑惑の構図

政治の舞台裏、証言が示す疑惑の構図

今回の投票に先立ち、ドナルド・トゥスク首相はZondacrypto捜査に関する重要証言の抜粋を公開した。これが単なる企業破綻の話から政治スキャンダルへと発展する契機となっている。

トゥスク首相が公開した証言の中身

トゥスク首相が公開した証言によると、前政権に関係する政治家への支払いと影響力行使の試みがあったとされる。具体的には、前法務大臣ズビグニエフ・ジョブロ氏に関連する財団をめぐり、200万ズロチ(約55万ドル)の支払い取り決めがあったという供述が含まれていた。

さらに別の証言では、証人が有罪判決を受けた場合に大統領恩赦を確保すると約束する人物がいたとの主張も紹介された。トゥスク首相は野党勢力を強く非難しており、暗号資産規制の枠を超えた政治対立に発展している。

前政権との関係が焦点に

トゥスク氏の狙いは、Zondacrypto事件と前政権との関係を示唆することで、規制強化の正当性を主張することにある。同氏は投票前に、野党が「非常に悪い人々」に首根っこを押さえられていると述べ、証言の抜粋を根拠として提示した。

一方、大統領は暗号資産規制そのものには支持を表明しつつ、今回の法案は行き過ぎだと繰り返し主張してきた。規制コストの増大と当局の権限拡大が、業界の競争力を損なうという立場だ。

MiCA適用とポーランド規制の行方

MiCA適用とポーランド規制の行方

KNFが監督当局の不在を指摘

KNFは9月5日、MiCAがEU全域で適用されているにもかかわらず、ポーランドには暗号資産市場の監督責任を持つ指定当局が依然として存在しないと指摘した。これは規制の実効性にとって重大な問題だ。

つまり、EU共通のルールは形式的にポーランドにも適用されているが、それを執行する国内機関が法的に定まっていない状態が続いていることになる。暗号資産サービス事業者にとっては、どの当局に登録すればよいのかが不明確なままという、異常な状況だ。

スキャンダルが規制の方向性を左右する

今回の出来事で重要なのは、Zondacrypto事件が単なる企業破綻ではなく、暗号資産規制の立法プロセスに直接影響を与えている点だ。政府・首相側は「事件が起きたから規制強化が必要だ」と主張し、大統領側は「だからといって過剰な権限は認められない」と反論する構図である。

ポーランドが現在のような法的空白を放置し続けることは、EUの他国と比べて暗号資産企業の事業環境を不安定にする。規制当局が不明確な国では、事業者が他国へ移転するインセンティブが働くためだ。実際、過去にはポーランド企業がMiCA適用を機に海外移転を検討する動きも報じられていた。

今後の焦点は、政府が法案を修正して大統領の懸念に応えるか、あるいは大統領との対立がさらに深まるかだ。Zondacrypto捜査の進展次第では、政治情勢がさらに流動化する可能性もある。9月17日の債権者会議は、被害者にとっては損害回復の第一歩となる重要な日程である。

この記事のポイント

  • ポーランド議会は大統領の拒否権を覆せず、暗号資産法案の成立に25票足りなかった
  • 大統領は3度の拒否権行使で、規制コストと当局の権限拡大を問題視している
  • Zondacryptoの運営会社BB Trade Estoniaが8月に破産、損失額は約9,500万ドルと推定
  • トゥスク首相が公開した証言で、前政権関係者への支払い疑惑が浮上
  • MiCAは適用済みだが、ポーランドには監督当局が法的に存在しない状態が続く
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