ロシア国家院(下院)が7月21日、同国初となる暗号資産(仮想通貨)の包括的な規制枠組みを定めた法案を可決した。
新法の大部分は9月1日に施行される。取引所や保管機関の登録制度を新設し、個人投資家の購入額には年間上限を設ける一方、国際貿易での利用には限定的ながら道を開く内容だ。
この法律は、欧州連合(EU)による制裁強化を背景に、国家として暗号資産市場を管理下に置きつつ、制裁回避の手段として活用するという、二つの相反する目的を同時に追求するものとなっている。
ロシア初の包括法、9月1日施行へ

今回可決された法律は、これまで明確な法的定義がなかった暗号資産の取引や発行、関連サービスに対し、初めて統一的なルールを適用するものだ。国営タス通信の報道によれば、取引所やデポジトリ(暗号資産の保管を専門に行う機関)を含むデジタル資産サービス提供者を対象とする。
ここでいうデポジトリとは、顧客から預かった暗号資産を安全に管理する専門事業者のことだ。銀行でいえば貸金庫のような役割を担い、ハッキングなどのリスクから資産を守ることが主な業務となる。
取引所は登録制に、銀行にも監視義務
新法の中核となるのは、暗号資産取引所の登録制度だ。法律施行後、取引所として営業するには特別な登録簿への記載が必須となる。もっとも、既存事業者には2027年7月1日までの移行期間が設けられており、登録が完了するまでは営業を継続できる。
銀行に対しても新たな義務が課される。無登録の事業者が取引所を運営している疑いがある場合、銀行は関連する送金を拒否しなければならない。つまり、金融機関が事実上の監視役として機能する仕組みだ。これにより、規制の実効性を高めようとする意図がうかがえる。
個人投資家に年間約3,800ドルの購入上限

一般の投資家に直接影響するのが、購入額の制限だ。新法では、個人投資家が購入できる暗号資産は「最も流動性の高いもの」に限定され、認可を受けた仲介業者1社あたり年間で約3,800ドル相当を上限とする。
この「年間上限」という仕組みは、投資家保護の観点から導入された。暗号資産市場は価格変動が大きく、初心者が多額の損失を被るリスクが高い。そこで、まずは金額に上限を設けて過度な投機を抑えようというわけだ。
適格投資家には制限なし
一方、金融庁の「特定投資家」制度に似た「適格投資家」に分類される層は、この上限の対象外となる。彼らはあらゆる暗号資産を制限なく購入できる。資産規模や投資経験などの基準を満たす投資家は、自己責任での取引が認められるという、国際的にも一般的な二層構造を採用したかたちだ。
司法保護も明文化
法律はまた、デジタル通貨の保有者に対する司法保護も保障している。過去に資産を申告していたかどうかにかかわらず、裁判所で権利を主張できるようになる。これは、これまでグレーゾーンだった所有権の問題に一定の法的安定性をもたらすものといえる。
制裁の抜け穴としての暗号資産

今回の立法を理解するうえで欠かせないのが、ロシアを取り巻く国際制裁の状況だ。2022年のウクライナ侵攻以降、欧米諸国はロシアの金融機関を国際送金ネットワークであるSWIFTから排除するなど、経済的圧力を強めてきた。
2026年4月にはEUが、これまでで最も厳しい対ロシア制裁パッケージを発動。この中で、ロシアに拠点を置く暗号資産サービス提供者や取引プラットフォームの全面禁止が明記された。EUは声明で「ロシアは国際取引において暗号資産への依存を強めている」と指摘している。
つまり、今回のロシアの新法は、こうした制裁を回避するための制度整備という側面が色濃い。国内での決済利用は禁止しつつ、対外貿易契約に基づく居住者と非居住者間の決済には暗号資産の使用を認める点が、まさにそれを示している。
国内決済は引き続き禁止、ただし例外も

新法は、ロシア国内での商品やサービスの支払いに暗号資産を使用することを、これまで通り禁止している。スーパーでビットコインを使って買い物をするような光景は、当面実現しそうにない。銀行などが暗号資産決済を宣伝・促進することも禁じられる。
しかし、いくつかの例外が設けられているのも事実だ。具体的には、以下のようなケースでデジタル通貨の使用が認められる。
- ロシア居住者と非居住者間の外国貿易契約に基づく決済
- マイニング(採掘)で得た暗号資産に関わる取引
- デジタル資産プラットフォームの運営に必要な支払い
- 有価証券や他のデジタル資産を含む決済
マイニング活動についても新法の管理下に置かれる。ロシアは安価なエネルギー資源を背景に、世界的なマイニング大国の一つだ。この分野を法の枠内で取り込むことで、国家としての管理と税収確保を狙っている可能性が高い。
規制と活用の狭間で

ロシアの暗号資産政策は、ここ数年で大きく揺れ動いてきた。中央銀行は2022年初頭、国内での暗号資産の使用とマイニングの全面禁止を提言した。しかし政府内から反対の声が上がり、最終的にプーチン大統領が規制の必要性を認めるかたちで議論が進んだ経緯がある。
その後、ロシア中央銀行は2025年12月に、個人と機関投資家の双方を対象に暗号資産取引を合法化し規制する枠組みを提案していた。今回の法律は、その提案をおおむね法制化したものだと言ってよい。
この「振り子の揺れ」は、暗号資産に対するロシアの複雑な立場を映し出している。国内の金融秩序を守りたい中央銀行と、制裁下で国際取引の手段を確保したい政府の思惑が交錯した結果、取引の一部を認めつつ厳格な管理下に置く、という折衷案に落ち着いたのだ。
進む「国家管理型」の暗号資産モデル
ロシアの新法は、暗号資産を完全に締め出すのでも、自由化するのでもない「第三の道」を選択したかたちだ。このモデルは、国家が交換所や保管機関を認可制で管理しつつ、国際取引に限って利用を促進するという点で、他の新興国にも影響を与える可能性がある。
とりわけ、制裁対象国や金融インフラが未発達な国々にとって、ロシアのこの実験的な枠組みは先例として注視されるだろう。規制と活用をどう両立させるかという課題は、暗号資産が国際金融のメインストリームに近づくほど、世界中の政策担当者が直面する難題となるからだ。
市場への影響と今後の展望

ロシア国内の個人投資家にとっては、購入上限が設けられたことで、少なくとも認可された経路での投資は「合法」になった点が大きい。これまで法的にグレーだった個人の取引が、明確なルールの下に置かれることになる。
一方で、国際的な暗号資産取引所の多くは、すでに制裁順守の観点からロシア居住者との取引を制限している。新法によってこれが変わる可能性は低く、ロシア国内で認可された取引所がどこまで実用的な流動性を提供できるかが焦点となる。
EU制裁との「いたちごっこ」も続くだろう。制裁当局がロシアの暗号資産利用を問題視すればするほど、ロシア側は法制化によって取引を合法化し、監視の目をかいくぐろうとする。この構図は今後、他の地政学的対立にも応用される可能性があり、暗号資産の国際的な規制論議に新たな火種を加えそうだ。
この記事のポイント
- ロシア国家院が初の包括的暗号資産規制法を可決、大部分は9月1日施行
- 個人投資家の購入上限は、認可仲介業者あたり年間約3,800ドル相当
- 国内決済は引き続き禁止だが、対外貿易での利用は限定的に認める
- EU制裁への対抗手段としての側面が強く、国家管理型モデルの先例に

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
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