ロシア政府が仮想通貨マイニングの規制対象地域を大幅に拡大した。首都モスクワを含む新たな地域で、2032年末までの長期にわたるマイニング活動の禁止が決まっている。
ミハイル・ミシュスチン首相が7月25日に署名した政令第936号により、これまでの規制リストにモスクワ、モスクワ州、そしてクルスク州の一部が追加された。発効日は2026年8月15日で、すでに猶予は2週間を切っている。
今回の規制拡大は、ロシアがエネルギー政策と仮想通貨産業のバランスを模索する中で、電力供給の安定を最優先に据えた動きだ。国内の仮想通貨マイニング事業者にとっては事業継続の見直しを迫られる、極めて大きな転換点である。
規制の概要、モスクワ首都圏が新たに対象に

今回追加された規制対象地域の中心は、ロシア最大の経済圏であるモスクワ首都圏だ。これまでロシアは主に地方の電力不足地域でマイニングを制限してきたが、首都とその周辺にまで禁止措置を広げた意味は小さくない。
具体的な対象地域と期間
政令第936号が改正したのは、2024年12月に発行された先行するマイニング制限命令だ。新たに対象となったのは以下の地域である。
- モスクワ市
- モスクワ州
- クルスク州内の8つの市区とルゴフ市
これらの地域でのマイニング禁止期間は2026年8月15日から2032年12月31日まで。6年超という長期の措置は、ロシア政府が当面の間、これらの地域での電力需給改善を見込んでいない証左といえる。
プルーフ・オブ・ワーク型マイニングが規制の主標的に
ここでいう「マイニング」とは、主にビットコインなどで使われるプルーフ・オブ・ワーク(PoW)方式の採掘を指す。PoWとは、膨大な計算競争によって取引の正当性を証明する仕組みだ。ネットワークの安全を保つ代わりに大量の電力を消費するため、電力不足に悩む地域では規制の大きな的になりやすい。
つまり、今回の禁止措置は実際にはPoW型の仮想通貨採掘、とりわけビットコインマイニングを念頭に置いたものだ。プルーフ・オブ・ステーク(PoS)など消費電力の少ない代替方式は、現状規制の直接の対象外とみられている。
電力需要の逼迫が規制拡大の背景に

なぜこのタイミングでモスクワが規制対象になったのか。答えは明白で、電力需要の急増だ。モスクワ州エネルギー省の推計によれば、モスクワとモスクワ州だけで65カ所のデータセンターが電力網に接続されており、その合計容量は734メガワット(MW)に上る。うちモスクワ州内の19カ所で233MWの容量を占めているという。
データセンター急増がもたらすひずみ
734MWという数字を一般家庭の電力消費に置き換えると、おおよそ50万世帯分に相当する。これだけの電力をデータセンター、それも収益性の高いマイニング事業が常時消費しているとなれば、冬季の暖房需要がピークを迎える時期には一般家庭や産業用の供給を圧迫しかねない。
モスクワ州エネルギー省は以前から、電力需要の急拡大を理由にマイニング禁止の必要性を訴えていた。今回の政令は、そうした現場からの声に中央政府が応じた形だ。
ロシアのエネルギー戦略とマイニング
ロシアは世界有数のエネルギー大国だが、広大な国土ゆえに地域ごとの電力事情は大きく異なる。シベリアの水力発電が豊富な地域では余剰電力の活用手段としてマイニングが歓迎される向きもある。しかし人口と経済活動が集中するモスクワ圏では話が違う。
政府の立場は「まず国民生活と基幹産業への安定供給」であり、マイニング事業者の利益は電力需給に余裕があって初めて許容されるという優先順位だ。今回の規制拡大は、その原則をモスクワでも明確にしたに過ぎないとの見方もある。
先行する地域規制と今回の違い

ロシアが仮想通貨マイニングを地域単位で規制するのは今回が初めてではない。2024年12月の最初の制限令から、対象地域は段階的に広がっている。
既存の規制地域
先行する規制としては、ブリヤート共和国の一部とザバイカリエ地方で2026年4月1日から2031年3月15日までのマイニング禁止が導入されている。こちらも発効済みで、すでに現地のマイニング事業者は操業の縮小や移転を迫られている。
今回のモスクワ圏の規制は、この既存枠組みを人口稠密地帯にまで拡張するものだ。影響を受ける事業者の規模と経済的インパクトは、これまでの地方規制とは比較にならないほど大きい。
期間設定にみる政府の本気度
禁止期間が2032年末までと、6年以上に設定されている点も見逃せない。これは単なる暫定措置ではなく、少なくとも中長期にわたりモスクワ圏での大規模マイニングを認めないという強い意志の表れだ。
背景には、老朽化した電力インフラの更新ペースが需要の伸びに追いついていないという構造的問題がある。電力網の抜本的な増強には数年単位の時間を要するため、規制期間もそれに合わせた形だ。
ロシアの仮想通貨政策は二面性を強める

この規制拡大を見ると、一見ロシアは反仮想通貨に舵を切ったように思える。しかし実際はより複雑だ。国際制裁下にあるロシアにとって、仮想通貨は貿易決済の代替手段として重要な位置を占めている。
つまり、政府はマイニングを国内の電力事情に応じて抑制する一方で、仮想通貨そのものを否定しているわけではない。エネルギー政策と国際金融戦略の間で、仮想通貨に対する態度が二面性を帯びているのが現在のロシアの実情だ。
規制逃れの国外流出リスク
モスクワ圏で操業できなくなったマイニング事業者がどこに向かうかも重要な論点だ。選択肢としては、国内の規制が緩い地域への移転か、または完全に国外へ拠点を移すかの二者択一になる。
すでに昨今の規制強化を受けて、ロシア発のマイニング資本が中央アジア諸国や中東に流出する兆候は指摘されていた。今回のモスクワ圏での禁止が、その流れをさらに加速させる可能性は高い。税収と雇用を失うリスクを政府がどこまで織り込んでいるのかは未知数だ。
BitRiver創設者の詐欺容疑との関連は
なお、規制拡大のニュースと同時期に、ロシアの大手マイニング事業者BitRiverの創設者が約800万ドル(約12億円)の詐欺容疑で起訴されたとの報道も出ている。こちらは現時点で今回の政令との直接的な因果関係は確認されていない。
しかし、大規模マイニング事業者への風当たりが強まる中での起訴というタイミングは偶然ではないとの見方も一部にある。ロシア政府が業界全体に引き締めのシグナルを送っている可能性は否めないだろう。
この記事のポイント
- ロシア政府が政令第936号によりモスクワ首都圏での仮想通貨マイニングを禁止
- 禁止期間は2026年8月15日から2032年12月31日までの約6年間
- 背景には電力需要の逼迫があり、モスクワ圏のデータセンターは合計734MWを消費
- 国際制裁下で仮想通貨を貿易決済に活用する一方、国内マイニングは抑制する二面性が鮮明に

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