米SECが暗号資産カストディ規則の刷新案を提出、ホワイトハウスの審査へ

米証券取引委員会(SEC)が、投資顧問業者や投資会社を対象とした暗号資産の保管(カストディ)規則の刷新案をホワイトハウスの審査機関へ提出した。

2026年8月25日に行政管理予算局(OMB)傘下の情報・規制問題調査局(OIRA)による審査プロセスへ入った。2023年に提示された過度な規制案の撤回を経て、新たな枠組みの構築が進められている。

時代遅れとなった既存規定による負担を取り除き、機関投資家が暗号資産を安全かつコンプライアンスに準拠して管理できる環境を整える狙いがある。

米SECが暗号資産カストディ規則の見直し案をホワイトハウス審査へ提出

米SECが暗号資産カストディ規則の見直し案をホワイトハウス審査へ提出

規制見直しの背景とOIRAでの審査着手

米証券取引委員会(SEC)は、暗号資産の保管ルールを根本から見直す新たな規制案の策定を進めている。

2026年8月25日付で、この見直し案がホワイトハウスの情報・規制問題調査局(OIRA)の審査リストに登録されたことが確認された。

OIRA(Office of Information and Regulatory Affairs)とは、米政府の各省庁が提出する重要な規制案が社会や経済に与える影響を精査する機関だ。ここに書類が提出されたことは、規則制定手続きが最終調整の段階に入ったことを意味する。

今回の識別番号(RIN 3235-AN46)で管理される提案は、投資顧問法および投資会社法に基づく措置として位置付けられている。

2023年の厳格な保護案撤回からの経緯

SECによる保管ルールの見直しは、これが初めてではない。

2023年2月、SECは「セーフガーディング(資産保護)案」と呼ばれる別の規制案を打ち出していた。

しかし、その内容は実務への配慮を欠いた極めて厳しいものであり、暗号資産業界だけでなく伝統的な金融業界からも強い反発が相次いだ。

こうした批判を受け、SECは2025年6月に2023年案を正式に撤回した。将来的な規制導入には新しい提案が必要であると表明していたが、今回の提出によって仕切り直しが完了した形だ。

投資顧問業者とファンドが直面してきた保管規制の壁

投資顧問業者とファンドが直面してきた保管規制の壁

現行規則における「適格カストディアン」要件

機関投資家やファンドが他人の資産を預かって運用する場合、勝手に手元に置いておくことは許されない。

金融規制において資産の安全を担保するために欠かせない概念が「カストディ(保管)」だ。日常会話で例えるなら、貴重品を安全な銀行の貸金庫に預ける仕組みに似ている。

現行の投資顧問法第206条(4)-2規則では、投資顧問業者は顧客の資金や証券を「適格カストディアン(Qualified Custodian)」に預けることが求められている。

適格カストディアンとして認められるのは、一定の要件を満たした銀行、信託会社、登録済みブローカー・ディーラーなどに限定されてきた。

暗号資産の性質と従来の金融規制とのギャップ

この仕組みをそのままデジタル資産に適応しようとした点に大きな課題があった。

ビットコインなどの暗号資産は、ブロックチェーン上の「秘密鍵(プライベートキー)」によって所有権が証明される。紙の株券や金銭とは技術的構造が根本的に異なる。

伝統的な銀行が暗号資産の秘密鍵を安全に管理するためのインフラは長年整っていなかった。

その結果、機関投資家が暗号資産ファンドを組成しようとしても、法令順守を満たす適格カストディアンが見つからないという事態が頻発した。

多くの機関投資家にとって、この制度的なグレーゾーンが暗号資産市場への本格参入を阻む最大の障壁となっていた。

新提案が目指す規制の負担軽減と明確化

新提案が目指す規制の負担軽減と明確化

時代遅れな規定の削減と対象範囲の見直し

SECが公表した2026年規制アジェンダには、前向きな姿勢の変化が示されている。

アジェンダの記載によると、SECは時代遅れとなった古い規定による不必要な負担を取り除く意向を示している。

投資顧問業者だけでなく、投資会社(投資信託やETFなどを運営する主体)のファンド資産の保管についてもルールを明確化する。

どのような事業体が暗号資産のカストディを実施できるのか、具体的にどのような内部統制が必要なのかという長年の疑問に答える枠組みを目指している。

今後のスケジュールと10月公表への展望

ホワイトハウスのOIRA審査に入った段階ではあるが、現時点で規制案の具体的な条文テキストは一般公開されていない。

2025年2月の大統領令に基づき、規制の制定にあたっては所定の審査手続きを経ることが義務付けられているためだ。

SECのアジェンダでは、2026年10月を目標時期として「規則制定提案告示(NPRM)」を発行する計画が掲げられている。

NPRM(Notice of Proposed Rulemaking)とは、当局が作成した具体的な条文案を一般に公開し、広く意見を募るための公式発表のことだ。

法律上の厳格な期限が定められているわけではないが、今秋にも詳細な条文が明かされる可能性が高い。

従来の「2023年保護案」と今回の新方針の決定的な違い

従来の「2023年保護案」と今回の新方針の決定的な違い

包括的な規制拡大から業界配慮型への転換

今回の方針転換の背景を理解するには、失敗に終わった2023年案との違いを整理する必要がある。

2023年案は、現行のカストディルールが適用される対象を「資金および証券」から「投資顧問が管理するすべての顧客資産」へと一気に拡大しようとした。

暗号資産にとどまらず、不動産やコモディティなどあらゆる代替資産(オルタナティブ資産)が規制の網にかかる内容だった。

これに対し、今回の見直し案は無理な包括拡大を避け、業界の実情に応じた現実的なアプローチをとる姿勢がうかがえる。

カストディアン倒産時保護と資産分別の課題

2023年案の大きな焦点は、顧客資産の「分別管理」と「カストディアン破綻時の資産隔離」であった。

暗号資産取引所や関連企業の破綻が相次いだ時期だったため、万が一カストディアンが倒産しても顧客資産が差押え対象にならない強固な保護策が追求された。

しかし、厳格すぎる要件はカストディアンの参入を制限し、かえって市場の健全な発展を阻害すると指摘されていた。

撤回を経た新提案では、安全性と利便性のバランスを取り直し、持続可能な管理手順を定義することが期待されている。

業界への影響と今後の暗号資産市場における意義

業界への影響と今後の暗号資産市場における意義

機関投資家の参入障壁クリアに向けた大きな前進

暗号資産市場が次の成長フェーズへ移行するために、機関投資家の本格的な資金流入は欠かせない。

年金基金や大学基金、大型ヘッジファンドなどの大口投資家は、コンプライアンス基準を完全に満たせない資産に投資することが法律上不可能な場合が多い。

明確なカストディ規則が整備されれば、コンプライアンス上の懸念が解消される。

機関投資家が安心して顧客資金を暗号資産へ配分できる環境が整い、市場全体の流動性拡大につながるはずだ。

米国における暗号資産規制の新たな潮目

今回のSECの動きは、米国の暗号資産規制における姿勢の変化を象徴しているという見方がある。

これまでのSECは、既存の法律を一方的に適用して訴訟を起こす「法的執行による規制」を多用してきたと批判されてきた。

過度な規制案を自ら撤回し、業界の声を取り入れた負担軽減型の新ルールへ移行する姿勢は、明確なガイドラインによる育成へと方針がシフトしつつあることを示唆している。

法的な不透明感が払拭されれば、米国金融市場とWeb3業界の統合がより一段と進むことになる。

この記事のポイント

  • 米SECが投資顧問やファンド向けの暗号資産保管規則の見直し案をホワイトハウス(OIRA)の審査へ提出した
  • 2023年に出された過度に厳格な規制案は2025年6月に正式撤回されており、今回は仕切り直しの新方針となる
  • 新提案は時代遅れな規定による負担を取り除き、機関投資家が暗号資産を法令順守で保管できる手順の明確化を目指している
  • 具体条文は未公表だが、2026年10月に予定される規則制定提案告示(NPRM)で詳細が明かされる見通しだ
  • 明確なルール策定により機関投資家の参入障壁が下がり、暗号資産市場への資金流入促進が期待される
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