米証券取引委員会(SEC)が暗号資産に関する新たな規則案を公表した。トークンが有価証券の投資契約とみなされるリスクを軽減するセーフハーバー(安全な避難所)を設ける内容だ。
議会がデジタル資産市場明確化法(CLARITY Act)を可決できないまま休会に入ったことを受け、規制当局が独自に動き始めた。企業の資金調達の道を開きつつ、投資家保護も維持する狙いがある。
今回の提案は、暗号資産企業が証券法違反を恐れずにトークンを発行できるかどうかを左右する。米国の規制環境が大きな転換点を迎えている。
SECが独自規制案を出した背景

SECが規則案を公表したのは、8月18日のことだ。上院がCLARITY Act(デジタル資産市場明確化法)を前進させられず、1ヶ月の夏季休会に入った直後だった。
CLARITY Actは、暗号資産の監督と規制における連邦機関の役割を明確にする法案だ。米国では長年、SECと商品先物取引委員会(CFTC)のどちらが暗号資産を管轄するのかという線引きが曖昧だった。この法案はその曖昧さを解消するものと期待されていた。
しかし上院での採決が進まず、議会による立法は暗礁に乗り上げた。SECはこの事態を受け、既存の証券法の枠組みの中で対応可能な規則案を打ち出した形だ。
SECは今回の提案を「暗号資産を含む特定の投資契約に関する明確で目的に合った枠組み」と表現している。企業が資金調達をしやすくしつつ、投資家保護を維持する、仕立てられた証券発行制度という位置づけだ。
提案された規則の中身と免除の条件

免除枠とセーフハーバーの仕組み
SECの規則案は、暗号資産企業に対して2つの大きな免除を提供する。1つは、4年間で最大500万ドル相当のトークンを発行できる免除枠。もう1つは、12ヶ月間で最大7500万ドル相当の発行を認める免除枠だ。
さらに、暗号資産が証券法上の投資契約とみなされることを防ぐセーフハーバーも盛り込まれた。投資契約とは、他者の努力によって利益を得ることを期待して資金を投じる契約を指す。米国ではこの定義が広く解釈され、多くのトークンが証券に該当する可能性が指摘されてきた。
セーフハーバーが適用されれば、一定の条件を満たすトークンはこの定義から外れる。企業は証券法違反を恐れずにトークンを発行し、ネットワークを成長させることができる。
ただし、免除を受ける企業には条件もある。財務諸表の開示が求められ、発行後も継続的な報告義務が課される。完全な自由化ではなく、透明性の確保を条件に規制の負担を軽くする仕組みだ。
パブリックコメントの期間は連邦官報に掲載されてから60日間設けられる。業界関係者や投資家からの意見を集めた上で、最終的な規則の採否が判断される。
イノベーション免除が見送られた意味
一方で、今回の規則案にはトークン化された株式に関するイノベーション免除は含まれなかった。この免除は以前から発表が期待されていたもので、株式をブロックチェーン上でトークンとして取引する際の規制を緩和するものだ。SECは今回これを見送った形になる。
トークン化された株式とは、従来の株式をブロックチェーン上のデジタルトークンとして表現したものだ。取引のスピードや透明性が向上するとされ、伝統的な金融市場と暗号資産市場をつなぐ存在として注目を集めている。SECがこの分野への対応を先送りしたことで、関連プロジェクトは当面、不確実性の中で事業を進めることになる。
規制当局と議会のせめぎ合い

アトキンスSEC委員長の立場
今回のSECの提案は、規制当局と議会の間で続く緊張関係を浮き彫りにしている。SECのポール・アトキンス委員長は声明で、立法は不可欠であると述べ、将来を見据えた恒久的なルールを作るためには議会の行動が必要だと強調した。
アトキンス氏はさらに、SECはCLARITY Actをトランプ大統領のもとに届けるために議会を支援してきたし、これからも支援すると語った。この発言からは、規制当局としての立場を守りつつ、最終的な責任は立法府にあるというメッセージが読み取れる。
CFTCも動いている。商品先物取引委員会は木曜日に暗号資産、AI、予測市場に関する会合を予定しており、将来の議会立法を補完できる規制措置の領域について話し合う方針だ。SECとCFTCの管轄争いが続く中、両機関がそれぞれ独自のルール作りを進める可能性がある。
ホワイトハウスの暗号資産顧問を務めるパトリック・ウィット氏は、ワイオミング州で開催されたブロックチェーン・シンポジウムで発言した。議会がCLARITY Actを前進させられなければ、米国の規制当局が規制において解き放たれることになるという内容だ。この発言は、立法が失敗した場合の規制当局による積極的な執行強化を示唆するものだ。
アトキンス氏自身はこのシンポジウムで講演する予定だったが、SECの発表を受けてキャンセルした。規則案の公表が優先された格好だ。
上院のタイトなスケジュール
上院のスケジュールは切迫している。9月中旬に議員が戻ってから、11月の選挙前までの会期はわずか14日間しかない。仮にこの期間内に採決できなければ、2027年に新しい議員が就任するまでの会期は残り22日間しか残されていない。CLARITY Actの成立には時間的な制約が非常に厳しい。
このタイトな日程が、今回のSECの独自規則案につながった面は大きい。議会の動きを待っていては、規制の空白期間が長期化する。規制当局としては、既存の権限の範囲内でできるだけ早く明確なルールを示すことで、業界の予測可能性を高めたいという判断があったと見られる。
暗号資産業界への実務的なインパクト

今回のSECの規則案をどう評価すべきか。まず注目したいのは、セーフハーバーの金額規模だ。4年間で最大500万ドルという枠は、小規模なスタートアップや新興プロジェクトの初期段階の資金調達を想定したものと見られる。一方、12ヶ月で最大7500万ドルという大きな枠は、より成熟したプロジェクトの成長資金を念頭に置いたものだろう。
金額の大きさの差は、プロジェクトの成熟度に応じて規制の適用を変える、階層的なアプローチの導入を示唆している。小規模な発行には緩やかな規制を適用し、大規模な発行にはより厳格な報告義務を課す設計だ。
この制度設計は、米国の証券法で中小企業の資金調達を促進するために設けられたレギュレーションAやレギュレーションDを想起させる。これらは発行額や投資家の資格に応じて開示義務を段階的に設定する仕組みで、今回の暗号資産向け規則案も同様のロジックを踏襲していると考えられる。
業界にとっての最大の焦点は、セーフハーバーが適用される条件が現実的かどうかだ。財務諸表の開示や継続的な報告義務が重すぎれば、中小の暗号資産プロジェクトにとって実質的な負担となる。逆に緩すぎれば、投資家保護の観点から批判を招く。60日間のパブリックコメント期間に寄せられる意見が、最終規則の行方を左右するだろう。
さらに、議会の立法が進まない中での規制当局による規則制定は、法的な安定性という点で限界がある。SECが規則を制定しても、将来の政権交代や裁判所の判断によって覆されるリスクがある。アトキンス氏自身が立法は不可欠と述べている通り、長期的な安定性を確保するには議会の行動が必要だ。
とはいえ、立法の見通しが立たない以上、業界にとっては今ある規則案を精査し、パブリックコメントを通じて意見を反映させることが現実的な対応になる。規制当局と対話を重ね、実務に即した規則に仕上げていけるかどうかが、当面の課題だ。
この記事のポイント
- SECは暗号資産企業向けの新規則案を公表し、トークン発行の免除枠と投資契約該当性からのセーフハーバーを提案した。
- 議会がCLARITY Actを可決できない中での規制当局による独自対応で、立法の停滞が規則制定を加速させる構図だ。
- 免除を受ける企業には財務諸表の開示と継続的な報告義務が課され、発行規模に応じた階層的な制度設計が示唆される。
- トークン化株式に関するイノベーション免除は見送られ、この分野の不確実性は続く。
- パブリックコメントの期間は60日間で、業界の意見が最終規則の内容を左右する可能性がある。

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
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