トークン化インフラを手がけるSecuritizeが、ニューヨーク証券取引所(NYSE)への上場に向けて重要な規制ハードルをクリアした。米証券取引委員会(SEC)が6月5日、同社と特別買収目的会社(SPAC)の合併に関する登録届出書を承認したのだ。
株主投票は6月29日に予定されており、承認されれば合併手続きは速やかに完了する見通しだ。新会社はティッカーシンボル「SECZ」で取引を開始する。機関投資家の関心が急拡大するトークン化市場において、中核インフラ企業が公開企業となる意味は小さくない。
この記事では、Securitizeの事業内容と上場の背景、急成長するトークン化市場の現状、そして同社の今後の展望について解説する。
Securitizeとは何か、なぜ注目されるのか

Securitizeは、債券やファンド、未公開株といった伝統的金融資産をブロックチェーン上でデジタル表現する「トークン化」技術を提供する企業だ。2017年の設立以来、機関投資家向けのインフラを整備してきた。
トークン化とは、わかりやすく言えば「紙の証券をデジタルのトークンに置き換える」技術である。株式や債券といった資産の所有権をブロックチェーン上に記録することで、取引の即時決済や24時間365日の売買が可能になる。これにより、従来は数日かかっていた決済が数秒で完了し、中間業者を省くことでコストも削減できる。
ブラックロックのBUIDLファンドを支える技術基盤
Securitizeの存在感を決定づけたのが、世界最大の資産運用会社ブラックロックとの提携だ。両社は2024年、トークン化されたマネーマーケットファンド「BUIDL(ビルドル)」を共同で立ち上げた。
BUIDLは米国債などを裏付け資産とするファンドで、投資家はブロックチェーン上で直接売買できる。従来のファンドと異なり、営業時間外でも取引可能で、配当もほぼリアルタイムで受け取れる仕組みだ。この商品は現在、トークン化された米国債商品として市場最大級の規模に成長している。
ApolloやKKR、VanEckも採用する技術
Securitizeの顧客リストには、ブラックロック以外にも運用大手のアポロ、未公開株投資のKKR、ハミルトン・レーン、ETF発行で知られるVanEckなどが名を連ねる。同社は単なるトークン発行にとどまらず、投資家管理やコンプライアンス、配当支払いまでを一貫して提供する「トークン化のOS(基本ソフト)」としての地位を築いてきた。
さらに2026年初めには、NYSE自体のトークン化証券プラットフォーム構築にも協力している。証券取引所の運営母体が、自らトークン化技術を採用するという象徴的な出来事だった。
トークン化市場の急拡大、30億ドル超えの現状

Securitizeの上場計画を理解するには、トークン化市場全体の成長を把握しておく必要がある。データプロバイダーRWA.xyzによれば、トークン化された実物資産(RWA:Real World Assets)の市場規模は1年で約3倍に拡大し、300億ドル(約4兆3,000億円)の大台を突破した。
2030年には5.5兆ドル、さらにその先へ
大手金融機関の予測はさらに大胆だ。シティグループはトークン化市場が2030年までに5.5兆ドルに達すると試算する。ボストン・コンサルティング・グループとリップルの共同レポートは、2033年までに18.9兆ドルに拡大する可能性を指摘している。
この数字はにわかには信じがたいかもしれないが、背景には明確な構造変化がある。JPモルガンやフランクリン・テンプルトン、フィデリティといった伝統的金融機関が相次いでトークン化に乗り出し、実際の運用資産をブロックチェーンに移行しつつあるのだ。
なぜいまトークン化なのか
トークン化が注目を集める理由は主に3つある。第一に決済時間の短縮だ。現在の証券決済はT+1(取引翌日決済)が標準だが、トークン化すればほぼ即時に決済が完了する。第二にコスト削減。複数の中間業者をブロックチェーンが代替するため、手数料が大幅に下がる。第三に流動性の向上だ。これまで大口投資家しかアクセスできなかった未公開株や私募ファンドを小口化し、より多くの投資家に開放できる。
SPAC合併でNYSE上場へ、SECが承認した道筋

Securitizeが今回クリアしたのは、カンター・フィッツジェラルド系のSPAC「Cantor Equity Partners II(CEPT)」との合併に関する登録届出書の承認だ。SPACとは、未上場企業と合併する目的で設立された「空箱」の上場会社を指す。通常の新規株式公開(IPO)よりも短期間で上場できる手法として知られている。
6月29日の株主投票が最終関門
SECの承認を受け、次のステップは6月29日に予定されるSPAC側の株主投票だ。ここで合併が承認されれば、手続きは速やかに完了し、新会社はNYSEで「SECZ」のティッカーで取引を始める。
カンター・フィッツジェラルドはウォール街でも歴史の長い金融サービス企業で、SPACのスポンサーとしての信頼性は一定程度評価されている。もっとも、SPAC経由の上場は2020〜2021年のブーム以降、市場の評価が厳しくなっているのも事実だ。
暗号資産市場の逆風下で進む「異例」の上場計画

Securitizeの上場計画は、暗号資産業界全体が新規上場に慎重になっているタイミングで進んでいる点が注目に値する。
大手暗号資産取引所のKrakenや、イーサリアム向け開発企業Consensys(コンセンシス)など、複数の有力企業が市場の混乱を理由に上場計画を棚上げしている。暗号資産市場は2024年から2025年にかけて価格変動が激しく、投資家心理も冷え込んだ局面が続いていた。
Securitizeが「異質」である理由
こうした環境下でSecuritizeが上場を推し進められる背景には、同社の事業特性がある。暗号資産取引所やDeFi(分散型金融)プロジェクトと異なり、Securitizeの収益基盤は伝統的金融機関とのB2B契約に支えられている。投機的な取引手数料に依存しておらず、市場の短期的な価格変動の影響を受けにくい構造だ。
これは、暗号資産技術を活用しながらも「暗号資産相場」とは一線を画すビジネスモデルが、公開市場でも評価されうることを示唆している。
この記事のポイント
- Securitizeはブラックロックやアポロなど大手金融機関にトークン化技術を提供するインフラ企業
- SECがSPAC合併の登録届出書を承認し、NYSE上場への最終段階に入った
- トークン化市場は1年で約3倍に成長し300億ドル超、2030年には5.5兆ドルとの予測もある
- 暗号資産企業が上場を断念する中、B2B型の事業構造が評価され異例の前進
- 株主投票は6月29日、承認されればティッカー「SECZ」で取引開始

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
分かりやすい解説で、ブロックチェーン革命の潮流を一般に広めることを目指す。初心者から上級者まで、最新情報を求めるすべての人に役立つ情報発信を心がけている。
