証券トークン化を手がけるSecuritizeが、NYSE(ニューヨーク証券取引所)への上場と同時に、自社株式をブロックチェーン上で提供するという異例の一手を打った。
トークン化された株式の総額は約2億9,500万ドル(約4,260億円)。SolanaとAvalancheという2つのパブリックチェーン上で発行され、対象となる米国投資家は本人確認を経て取引できる仕組みだ。
上場企業が初日から自社株のトークン版を公式に提供するのは初めての事例であり、株式市場と暗号資産市場の融合が一段と進んだことを示している。
NYSE上場とトークン化が同時進行した背景

Securitizeは2026年7月2日、特別買収目的会社(SPAC)であるCantor Equity Partners IIとの合併を通じてNYSEへの上場を果たした。ティッカーシンボルは「SECZ」。上場初日の株価は前日比10%上昇し、市場からは好意的に受け止められた格好だ。
SPACとは、既に上場している空箱企業が未上場企業を吸収合併し、対象企業を株式市場にデビューさせる仕組みを指す。従来の新規株式公開(IPO)より手続きが簡素で、近年はテクノロジー企業を中心に活用が広がっている手法だ。
この上場と同時に、Securitizeは自社の普通株式をSolanaとAvalancheの両ネットワーク上でトークンとして発行した。これはブロックチェーンデータの分析を手がけるRWA.xyzの集計で約2億9,500万ドル相当に達している。
SECZトークンが表すもの
今回発行されたトークンはNYSEで取引されている普通株式と同一の権利を持つ。別の種類の証券ではなく、法的にも経済的にも全く同じ株式をブロックチェーン上で表現している点が重要だ。
米国在住で適格性を満たす投資家は、Securitizeの規制準拠プラットフォーム上で本人確認と証券法上の要件をクリアすることで、このトークン化株式を直接購入できる。裏を返せば、既存の規制の枠組みの中でブロックチェーン技術を活用するアプローチを取っているということだ。
発行者主導型トークン化の新機軸

これまでも株式をトークン化する試みは存在した。ただしその多くは第三者が発行するもので、米国外で提供されたり、元の株式とは異なる派生商品として扱われたりするケースが大半だった。
Securitizeが今回打ち出したのは「発行者主導型トークン化」だ。企業自身が自社株をブロックチェーン上に直接発行するこのモデルは、第三者によるラップド版ではなく「本物の株式」であることを保証する強みがある。
CEOが語る戦略的意図
Securitizeのカルロス・ドミンゴCEOは「我々は長年にわたり、株式がブロックチェーン上に移行すると述べてきた。自社株を初日からトークン化することほど、その信念を強く裏付けるものはない」と述べている。
ドミンゴCEOはCoinDeskの取材に対し、第三者による模倣的なトークン化ではなく、企業自身が正規の株式を発行する重要性を強調した。模倣品ではない本物の株式をチェーン上で提供できる事例を示すのが狙いだという。
ブラックロックやARKの支援を受ける実績
Securitizeは2017年の設立以来、伝統的金融機関向けのトークン化インフラを着実に構築してきた。ブラックロック、アポロ、KKR、ハミルトン・レーン、ヴァンエックといった大手企業がSecuritizeのプラットフォームを利用し、ブロックチェーンベースの証券発行や移転管理、ファンド管理のサービスを受けている。
こうした実績の積み重ねが、今回の自社株トークン化という大胆な一手を支えている。Securitizeは単なるトークン発行事業者ではなく、規制対応済みの証券トークン化インフラをトータルで提供できる立場にあるわけだ。
ウォール街を巻き込むトークン化の波

証券のトークン化市場は急速に拡大している。銀行や資産運用会社がファンドや債券、そして株式といった伝統的金融商品をブロックチェーンレールに乗せる動きは、もはや実験段階を超えつつある。
トークン化には複数のメリットがある。まず決済時間の大幅短縮だ。従来の株式取引では売買から実際の資金と株券の受け渡しまで2営業日かかるのが一般的だが、ブロックチェーン上では理論上即時に近い決済が可能になる。さらに24時間365日の取引や、DeFi(分散型金融)アプリケーションとの相互運用性も視野に入る。
膨らむ市場予測とインフラ整備
市場の成長余地を示す数字も出揃っている。シティグループは2030年までにトークン化証券が5.5兆ドルに達すると予測。さらにボストンコンサルティンググループとリップルの共同推計では、2033年までに18.9兆ドル規模まで成長する可能性があるとしている。
インフラ面でも動きは加速している。2026年初頭には、NYSEの親会社であるインターコンチネンタル取引所(ICE)がSecuritizeと提携し、トークン化株式向けのインフラ開発に乗り出した。さらにコンピューターシェアやコンチネンタルといった世界最大級の株式名義書換機関とも協業し、上場企業がブロックチェーン上で株式を発行するための仕組みを整えつつある。
この動きが示す株式市場の未来

Securitizeの今回の一手は、単なる自社サービスのデモンストレーションにとどまらない。
上場企業が自社株をブロックチェーン上に公式展開するモデルが確立すれば、将来的にはIPOと同時にトークン化株式が発行されるのが当たり前になる可能性もある。投資家のアクセス手段が多様化すれば、流動性の向上や新たな投資家層の獲得にもつながるだろう。
ただし課題も存在する。規制の違いや本人確認手続きの煩雑さ、クロスチェーンでの標準化など、乗り越えるべきハードルは少なくない。Securitizeはそうした課題に対して、あくまで既存規制に準拠した形でソリューションを提供する方針を明確にしている。
伝統的な金融市場と暗号資産市場の境界線は、このような実践的な取り組みを通じて徐々に溶け始めている。証券トークン化の波は、もはや後戻りできない地点まで来ていると言ってよい。
この記事のポイント
- SecuritizeがNYSE上場初日に自社株式をSolanaとAvalanche上でトークン化、総額2億9,500万ドル相当
- 第三者発行ではなく「発行者主導型」で、NYSEの普通株式と同一権利を持つ株式をブロックチェーン上で提供
- ブラックロックやARKなど大手金融機関との実績を背景に、ウォール街のトークン化インフラ整備が加速
- 株式の24時間取引や決済時間短縮など、ブロックチェーン活用の実用性を示すマイルストーンとなる事例

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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