ビットコイン最大級の保有企業であるStrategy(旧MicroStrategy)のマイケル・セイラー会長が、同社が保有するビットコインを売却する可能性について「あり得ないことではない」と言及した。
同社はこれまで一貫してビットコインを買い増し続け、一度も売却したことがない。この発言は市場関係者の注目を集めている。
セイラー氏の発言が事実なら、機関投資家によるビットコイン運用戦略の転換点となる。本記事では発言の詳細と市場への影響を分析する。
セイラー氏が語った「売却」の文脈

発言の舞台は5月22日に公開されたポッドキャスト「Coin Stories」だ。ホストのナタリー・ブルネル氏との対談で、セイラー氏はStrategy社のビットコイン戦略について幅広く語った。
注目すべきは、同社の目標に関する次の発言だ。「今すべきことは、7年後に1株あたりのビットコイン保有量を最大化し、企業価値を最適化するために何ができるかだ」。過去形ではなく未来志向で語られたこの言葉は、単なる保有継続とは異なる戦略の柔軟性を示唆している。
Cointelegraphの記事によれば、セイラー氏はビットコイン売却の可能性について直接問われ、「あり得ないことではない(Not unlikely)」と明言したという。これまで売却を一貫して否定してきた同氏の姿勢からすれば、明らかにトーンの変化だ。
つまり、Strategy社は保有資産を永遠に寝かせておくのではなく、状況次第では一部を手放す選択肢を正式に検討し始めた、ということだ。
なぜ今「売却」が論点になるのか

Strategy社の含み損という現実
発言の背景には、Strategy社が直面する厳しい価格状況がある。同社は2020年以降、合計843,768ビットコインを平均取得単価約75,700ドルで購入してきた。5月23日時点のビットコイン価格は約75,900ドル付近で推移しており、含み益はほぼゼロに近い。
ビットコインが過去30日間で下落基調にあることを踏まえると、むしろ含み損に転じている可能性も否定できない。同社の株価(MSTR)も、直近30日間で10.86%下落し159ドル台での取引となっている。
経営者として、巨額の資産が目減りするリスクを無視できないのは当然だ。セイラー氏が売却の可能性を示唆した背景には、こうした足元の数字が大きく影響しているとみられる。
会計上の取り扱いと信用格付け
数日前に公開された別のポッドキャスト「The Wolf Of All Streets」で、セイラー氏はさらに踏み込んだ説明をしている。同氏はStrategy社の直近の決算説明会で、ビットコイン売却の可能性を提起した事実を明かした。
その理由として挙げたのが、信用格付け機関との対話だ。「当社は約650億ドル相当のビットコインを保有している。もし市場が『Strategy社は絶対にビットコインを売らない』と見なせば、格付け機関は『それは資産とは呼べない』と判断するだろう」とセイラー氏は述べている。
これは重要な論点だ。企業会計の世界では、厳格に「売却しない」と宣言された資産は流動性がゼロと評価され、資産としての価値を認められない場合がある。永遠に保有するだけの資産は、企業の信用力を高める材料にならないという逆説が生じている。
一方で、2025年から適用された新しい会計基準により、ビットコインは公正価値評価が可能になった。含み益を財務諸表に反映できるようになったことで、売却しなくても資産としての正当性を示しやすくなった面もある。セイラー氏はこのバランスを慎重に見極めている段階だ。
売却が現実になった場合の3つのシナリオ

Strategy社が実際にビットコインを売却するとすれば、どのような形が想定されるのか。同社の過去の発言や戦略を踏まえると、以下の3つのシナリオが考えられる。
1. 財務健全性のための小規模売却
最も現実的なシナリオだ。債務の返済や運転資金の確保を目的に、保有量のごく一部(数%程度)を売却する。これにより「非売却」の固定観念を崩し、格付け機関に対して資産の流動性を示す効果が期待できる。市場への影響も比較的軽微で済むだろう。
2. 戦略的リバランス
ビットコイン価格の大幅上昇時に、一部を利益確定し、その資金で自社株買いや他の事業投資を行うケースだ。セイラー氏が口にする「1株あたりのビットコイン保有量を最大化する」という目標にも合致する。自社株買いで発行済み株式数を減らせば、残ったビットコインの1株あたり価値は高まる。
3. 全量売却(可能性は極めて低い)
ビットコインそのものへの信頼を失った場合に限られるが、現時点でその兆候はない。セイラー氏はビットコインの長期的価値を繰り返し強調しており、このシナリオはほぼ想定外とみてよい。
いずれにせよ、同社が一度も売却したことがないため、実際に売却が行われた場合に暗号資産コミュニティがどう反応するかは未知数だ。これまでの買い増し発表が強気シグナルと受け取られてきただけに、売却発表は市場心理に相応の影響を与えるだろう。
市場関係者が注目すべきポイント

Strategy社のビットコイン戦略は、市場全体の需給バランスに直結する。同社はビットコイン総発行量(2,100万BTC)の約4%に相当する量を保有しており、その動向が市場価格に与える影響は極めて大きい。
仮に同社が保有量の10%を市場で売却した場合、約84,000ビットコインが市場に放出される計算だ。これはビットコインの1日の取引量の数%〜十数%に相当し、短期的に大きな売り圧力となる可能性がある。
ただし、現実的にはOTC(相対取引)や分割売却などの手法が取られる公算が高く、市場への直接的な衝撃は限定的に抑えられるだろう。
重要なのは、セイラー氏の発言が「売却は絶対にない」から「状況次第では検討する」へと変化した点だ。このトーンの変化は、機関投資家全体のビットコイン運用姿勢にも波及する可能性がある。ビットコインを財務資産として保有する企業群にとって、Strategy社は模範的存在だからだ。
この記事のポイント
- マイケル・セイラー氏がStrategy社のビットコイン売却の可能性を「あり得ないことではない」と初めて言及した
- 発言の背景には、平均購入単価に近い現在のBTC価格と、信用格付けを意識した財務戦略上の必要性がある
- 実際の売却が行われた場合、戦略的リバランスとして小規模に実施される可能性が高く、全量売却は想定しにくい
- ビットコイン総発行量の約4%を保有する同社の動向は、暗号資産市場全体に広範な影響を与える

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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