台湾が暗号資産包括規制法を可決、ライセンス制と厳罰で監督強化

台湾の立法院は6月30日、暗号資産(仮想通貨)事業を包括的に規制する「仮想資産サービス法」を可決した。これにより台湾は、マネーロンダリング対策のみの登録制から、ライセンス制を柱とする本格的な監督体制に踏み出すことになる。

新法では無許可営業に最高7年の懲役、市場操作には最大10年の懲役と、世界的に見ても極めて厳しい罰則が盛り込まれている。アジア圏で暗号資産の法的枠組み整備が加速するなか、台湾が打ち出した枠組みは近隣諸国の規制にも影響を及ぼす可能性がある。

以下、この記事では新法の概要、事業者に求められる要件、影響範囲、そしてアジア全体の規制動向における意味合いについて詳しくみていく。

台湾が暗号資産の包括規制法を可決、AML登録からライセンス制へ

台湾が暗号資産の包括規制法を可決、AML登録からライセンス制へ

台湾ではこれまで、暗号資産取引所を含む仮想資産サービス事業者(VASP)は、資金洗浄対策(AML)の登録さえ行えば営業が可能だった。実態として、利用者保護や財務の健全性を監督する仕組みは限定的だった。

6月30日に可決された「仮想資産サービス法」は、この状況を根本から変える。VASPは金融監督管理委員会(FSC)から正式なライセンスを取得しなければ、国内での営業を続けられなくなる。

ライセンス制への移行は、単なる参入障壁の引き上げではない。事業者に対しては、サイバーセキュリティ対策の強化、顧客資産と自己資産の分別管理、社内ガバナンスやリスク管理体制の整備もあわせて求められる。要は、伝統的な金融機関に近い水準の運営が義務づけられるということだ。

ライセンス取得のスケジュールと既存事業者への猶予期間

ライセンス取得のスケジュールと既存事業者への猶予期間

VASPに課される新たな基準

新法の下でライセンスを得るには、FSCが定める詳細な要件を満たす必要がある。条文に明記された主要項目は以下の通りだ。

  • サイバー攻撃に備えたセキュリティ体制の確立
  • 顧客の預かり資産と企業の運営資金を明確に分離する分別管理
  • 取締役会を含む内部統制・リスク管理の枠組み強化

これらの要件は、利用者保護を最優先に据えた設計といえる。特に分別管理の義務化は、取引所破綻時に顧客資産が巻き込まれるリスクを減らす狙いがある。2022年に起きたFTXの破綻では、まさにこの分別管理が不十分だったことが被害拡大の一因となった。台湾当局はその教訓を強く意識しているとみられる。

猶予期間と移行の現実味

すでにAML登録を済ませている事業者には、一定の移行期間が設けられた。具体的には、法律施行から12カ月以内にライセンス申請を行い、最長21カ月以内にFSCの完全な承認を得る必要がある。

21カ月という期間は、一見すると余裕があるように映る。だがFSCが要求する新しい基準をゼロから整備するには、システム投資や人材確保を含めて相当のリソースが必要だ。中小規模の取引所のなかには、このハードルを越えられず撤退を選ぶ事業者も出てくると予想される。

ステーブルコイン事業者への二重規制と100%準備金

ステーブルコイン事業者への二重規制と100%準備金

新しい法律で特に注目されるのが、ステーブルコイン事業者に対する規制の厳しさだ。ステーブルコインとは、米ドルや台湾ドルなどの法定通貨に価値を連動させた暗号資産を指す。国際決済銀行(BIS)は先ごろ、ドル連動型ステーブルコインが新興国に為替リスクをもたらすと警告を発したばかりだ。

台湾の新法では、ステーブルコインを発行・運営する事業者は、中央銀行とFSCの両方から承認を得なければならない。しかも発行済みのステーブルコインと同額の準備資産を、常に100%維持することが義務づけられる。

二重承認のハードル

中央銀行と金融当局の二重承認を求める設計は、通貨主権にかかわる問題に対する台湾当局の慎重な姿勢を表している。ステーブルコインが普及すれば、実質的に民間企業が「デジタルドル」や「デジタル台湾ドル」を流通させるのと似た状態になりかねない。中央銀行が通貨政策を運営するうえで、これを野放しにできないという判断が働いたとみられる。

100%準備金の意味

準備金の100%維持は、裏付け資産が不足した状態で発行される「部分準備型」を明確に禁じるものだ。代表的なステーブルコインであるUSDCやUSDTは、外部監査を通じて一定の裏付けがあることを示している。しかし新法のもとでは、監査の頻度や資産の質についてもFSCの厳格なチェックが入る可能性が高い。

この規定が実際に執行されれば、台湾市場で活動するステーブルコイン事業者は、従来以上に透明性の高い運営を迫られる。逆に、基準を満たせる事業者が限られるため、利用者にとってはより信頼性の高いステーブルコインだけが市場に残る形になる。

厳罰化で不正を抑止、最高10年の懲役も

厳罰化で不正を抑止、最高10年の懲役も

今回の立法でもう一つ際立つのが、違反行為に対する罰則の重さだ。ライセンスなしで暗号資産取引所やステーブルコイン事業を営んだ場合、最高7年の懲役と、最大1億台湾ドル(約3億1,400万円相当)の罰金が科される。

市場操作・不正にはさらに重い刑罰

市場の公正性を損なう行為には、さらに厳しい制裁が用意された。相場操縦や詐欺的な行為に対しては、3年以上10年以下の懲役、および1,000万台湾ドルから2億台湾ドル(約3,140万円から約6億2,800万円相当)の罰金が科される。

この量刑は、日本の金融商品取引法における相場操縦の罰則(最高10年の懲役、最大1,000万円以下の罰金)と比較しても遜色なく、むしろ罰金の上限額では台湾のほうが高額になるケースも想定される。海外の事業者が「台湾は規制が緩い」と見なして不正に手を染めるリスクを、法案の段階から強くけん制した形だ。

アジア規制の新たなベンチマークになるか

アジア規制の新たなベンチマークになるか

台湾の今回の動きは、アジア全体で進む暗号資産規制の流れのなかでも、とりわけ踏み込んだ内容といえる。日本は2017年の改正資金決済法でいち早く取引所の登録制を導入し、その後も段階的に規制を強化してきた。韓国は2024年に「仮想資産利用者保護法」を施行し、不正取引の監視と罰則を強化している。

台湾の新法がこれらと異なるのは、AML対応にとどまらず、ライセンス制と厳罰をセットで導入した包括性にある。ステーブルコインに至っては中央銀行の関与を明文化しており、通貨主権を強く意識した設計となっている。

海外事業者への影響

ライセンス制度の発足により、台湾市場に参入しようとする海外の大手取引所も、FSCの審査を通過しなければ営業できなくなる。すでにAML登録だけで活動していた事業者は、法施行後の限られた猶予期間中に追加の対応を迫られる。

CoinDeskの記事によれば、法案はすでに立法院を通過し、今後10日以内に頼清徳総統が署名する見通しだ。署名後、行政院が正式な施行日を定める。事業者にとっては、施行日から逆算して早急に準備を進める必要がある。

日本の事業者が学ぶべきポイント

日本の暗号資産交換業者はすでに金融庁の登録を受けており、顧客資産の分別管理も義務化されている。その意味では、台湾の新法が求める水準と重なる部分は大きい。ただしステーブルコインについては、日本でも法整備の議論が進行中であり、台湾のように中央銀行の役割をどこまで明記するかは焦点のひとつになるだろう。

また、罰則の厳しさという点では、台湾の新法は「見せしめ」的な抑止力を重視している。日本でも無登録営業への罰則は存在するが、台湾ほど高額の罰金が設定されているわけではない。海外展開を視野に入れる事業者は、進出先の罰則リスクも含めたコンプライアンス戦略を練る必要がある。

この記事のポイント

  • 台湾が包括的な「仮想資産サービス法」を可決し、VASPにライセンス制を導入
  • 既存のAML登録事業者には12カ月の申請猶予と最長21カ月の完全承認期間を付与
  • ステーブルコイン事業者には中央銀行とFSCの二重承認、および100%準備金を義務化
  • 無許可営業に最高7年の懲役、市場操作に最高10年の懲役という厳罰を設定
  • アジア全体で規制が強化されるなか、台湾の新法は包括性と厳格さで新たな基準を示した
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