The Open Network(TON)が、トークン名を「Gram」に変更するリブランド計画を発表した。
これはかつてテレグラムがSEC(米国証券取引委員会)との法廷闘争で断念を余儀なくされた、プロジェクト初期の名称への回帰を意味する。発表を受け、TONの価格は急反応。約1.95ドル付近から15%以上急騰し、一時2.25ドルを突破した。
一見すると単なる名称変更に思えるこの動きは、テレグラムが主導する「Make TON Great Again」と銘打たれた大型ロードマップの集大成だ。10億人規模のユーザーを抱えるメッセンジャーアプリが、Web3の「スーパーアプリ」へと進化を遂げるための象徴的な一手となる。
「Gram」名称復活、コミュニティ投票で8割が賛成

TONの共同創設者であり、テレグラムのCEOでもあるPavel Durov氏は自身のテレグラムチャンネルで「Gramは最初のホワイトペーパーに記されたTONの通貨のオリジナル名称だ。我々は原点に戻り、新たな章を始める」と宣言した。
今回のリブランドは、単なる看板の掛け替えではない。Durov氏によれば、この移行には約3週間を要する見込みだが、ユーザーにとって技術的な負担は一切ない。ウォレットの残高やアドレス、スマートコントラクト(あらかじめ設定されたルール通りに自動実行されるプログラム)の位置に変更は生じず、トークンの交換や移行手続きも不要だ。
The Open Networkはこの提案に関するコミュニティ投票を開始し、結果は圧倒的だった。投票に参加した権利行使額のうち、約80%にあたる180万TONが賛成に投じられている。
名称変更は、テレグラムが2020年にSECとの和解で断念せざるを得なかった過去を塗り替える行為でもある。当時、テレグラムは17億ドル規模のICO(Initial Coin Offering / 新規トークン公開)を実施しようとしていたが、SECが証券法違反で提訴。結果としてプロジェクトは公的なローンチを断念し、「Gram」の名は封印された経緯がある。
巨大プロジェクトを止めた「SECの壁」、5年越しの決着

2018年、テレグラムは「TON(Telegram Open Network)」構想を発表し、暗号資産業界に衝撃を与えた。当時から月間数億人のアクティブユーザーを抱えるメッセンジャーアプリが、独自のブロックチェーンと決済システムを内包するという計画は、Web3の大衆化を決定づけるものと目された。
しかし、米国SECはこの資金調達を未登録証券の販売とみなした。2020年、テレグラムは法廷闘争の末にプロジェクトを公式に放棄。TONの開発は、その後コミュニティ主導の「The Open Network」へと引き継がれる形で細々と存続した。
今回のリブランドは、法規制に屈したかつての「負の遺産」に正面から向き合い、コミュニティの手で改めてその名称を勝ち取った格好だ。Cointelegraphの記事では、この動きを「テレグラムがTON Foundationからネットワークの主導権を握り返した流れを象徴する」と指摘している。
「Make TON Great Again」ロードマップの最終ピース

Durov氏が掲げる「Make TON Great Again」計画は、2026年初頭から段階的に進められてきた。今回のリブランドは、その第4段階であり最終ピースと位置づけられている。
Catchain 2.0でサブ秒の最終性を実現
最初のフェーズとして4月に導入されたのが、Catchain 2.0へのアップグレードだ。ブロックチェーンにおける「最終性」とは、一度記録された取引が覆らないと保証されるまでの時間を指す。従来は数秒から数十秒かかっていたこの確定プロセスが、サブ秒(1秒未満)に短縮されたことで、決済体験はクレジットカードのタッチ決済に匹敵する速度となった。
手数料とノード構造の再編
第2段階では取引手数料の大幅な引き下げが実施され、小口決済のハードルが下がった。これに続く第3段階で、テレグラムはTON Foundationからネットワーク最大のバリデーター(取引検証者)の地位を獲得。ブロックチェーンの実権が、テレグラム本社へと回帰した。
The Open Networkは公式声明で「これらの変革はネットワークにとってのマイルストーンであり、トークンの公共的な認知を刷新する自然なタイミングだ」と述べている。
1ドル台から急騰、6月の高値圏からは依然75%安

TONの価格はこの発表に即座に反応し、月曜日の取引終盤にかけて1.95ドル付近から2.25ドル超へと15%以上急騰した。しかし、火曜日朝には2.07ドル付近まで反落している。投機的な買いが一巡した後の利益確定売りが出たとみられる。
中長期的な視点では、TONは依然として厳しい景色の中にある。CoinGeckoのデータによれば、2024年6月に記録した過去最高値8.25ドルから現在も約75%下落した水準だ。コミュニティ主導からテレグラム主導への移行、そして今回のリブランドが、下落トレンドを反転させる本格的な起爆剤となるかが焦点となる。
10億人スーパーアプリ構想、決済とAIの覇権争いへ

今回のリブランドは、名称変更という表面的なイベント以上の戦略的意味を持つ。Durov氏が描く最終構想は、テレグラムを単なるメッセンジャーから、決済、ミニアプリ、デジタル所有権、AIエージェントを統合した「Web3スーパーアプリ」へと進化させることだ。
すでにテレグラムは「TON Pay」構想を通じて、暗号資産をアプリ内決済の標準レイヤーとして機能させる計画を進めている。これが実現すれば、10億人のユーザーが追加のウォレットアプリや複雑な秘密鍵管理を意識することなく、日常的な送金や支払いをブロックチェーン上で行えるようになる。
アジア発のスーパーアプリ(WeChatやGrabなど)がメッセージ機能を起点に決済と金融サービスを統合していったのと同様の道筋を、テレグラムは暗号資産ネイティブで進もうとしている。今回の「Gram」への回帰は、2018年のホワイトペーパーで描かれた未完のビジョンに、5年越しに再び火を灯す狼煙であると言える。
この記事のポイント
- TONがトークン名をオリジナルの「Gram」にリブランドすると発表し、価格が15%以上急騰した
- 名称は2018年のホワイトペーパーに由来し、2020年のSECとの闘いで断念した過去がある
- Pavel Durov氏が主導する「Make TON Great Again」計画の第4段階であり、テレグラムの主導権確立の集大成
- 技術的な移行手続きは不要で、ユーザーの残高やアドレスに変更は一切生じない
- 最終的な目標は、10億人を抱えるテレグラムを決済・AI・デジタル所有権を包含するWeb3スーパーアプリに進化させること

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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