トランプ大統領、Clarity Act成立を強く要求。グレアム議員死去を受け

米国議会が独立記念日の休会を終え、暗号資産(仮想通貨)規制の包括法案「Clarity Act」の行方を巡る攻防が最終局面を迎えている。トランプ大統領は休会明けの13日、盟友グレアム上院議員の急逝を受け、同法案の可決を「グレアム議員への弔い」として求める異例の声明を発表した。

議会に残された審議期間はわずか数週間。連邦レベルで初の暗号資産包括規制となりうる本法案は、長年の業界の要望に応える形で策定が進められてきた。しかし今、大統領や政権高官、議員自身が暗号資産から利益を得ることを制限する「倫理規定」の盛り込みを巡り、与野党間の亀裂が最終合意を阻んでいる。

Clarity Actの概要とその重要性

Clarity Actの概要とその重要性

Clarity Act(クラリティ法)とは、米国における暗号資産の取り扱いを連邦法として初めて包括的に定める超党派の法案だ。現状、米国では証券取引委員会(SEC)や商品先物取引委員会(CFTC)など複数の規制機関が個別に対応しており、企業や投資家にとってどの法律が適用されるのか極めて分かりにくい状況が続いてきた。

この「規制の不透明さ」は、多くの暗号資産関連企業が海外、特に明確なルールを整備しつつある欧州やアジアの市場へ流出する一因となっている。法案が成立すれば、どの暗号資産が「証券」でどれが「コモディティ(商品)」かといった分類や、取引所の登録義務、消費者保護の枠組みに明確な線引きがなされる。

下院は昨年、独自のバージョンを既に通過させている。上院でも過去数カ月の間に主要な委員会がそれぞれの修正版を承認しており、今週中にも最終調整を経た新たな法案テキストが公表される見通しだ。それが上院本会議で採決され、再び下院に送られるという手順を踏む。

盟友の死がもたらした政治的モメンタム

盟友の死がもたらした政治的モメンタム

7月13日、トランプ大統領は自身のSNS「Truth Social」への投稿で、週末に急逝したリンジー・グレアム上院議員に言及しつつ、Clarity Actの早期成立を強く迫った。大統領は「グレアム上院議員を讃えるため、米上院はClarity Actを可決すべきだ」と述べ、さらに中国を強く意識した表現で「この主要な金融の『出来事』とAIの両方で、中国に勝たせてはならない」と訴えた。

グレアム議員は、暗号資産法制の最前線で交渉を主導していた人物ではない。しかし、過去にステーブルコイン規制法案に賛成票を投じ、IRS(米国内国歳入庁)の暗号資産税務報告規則を撤廃する決議案を支持するなど、業界に好意的な側面があった。同時に、2023年にはエリザベス・ウォーレン上院議員と共に、暗号資産分野へのマネーロンダリング対策を強化する法案を共同提案した経歴も持つ。これは業界から強い反発を受けたが、超党派での立法作業に関与した実績として無視できない。

暗号資産に精通するワイオミング州選出のシンシア・ルミス上院議員は13日、「大統領に完全に同意する。グレアム議員はデジタル資産を含むあらゆる分野で米国のリーダーシップを確固たるものにすることに情熱を燃やしていた」とSNSで応じ、大統領の呼びかけを後押しした。

足かせとなる「倫理規定」の有無

足かせとなる「倫理規定」の有無

法案の内容とは別に、その通過を複雑にしているのが「倫理規定」の扱いだ。具体的には、大統領、副大統領、連邦議会議員、高級行政官、そしてその配偶者や家族が、在任中に暗号資産関連の事業から利益を得ることを制限する条項を法案に盛り込むか否かが、数カ月にわたる与野党協議の最大の争点となっている。

事情に詳しい情報筋によれば、現時点で提出が予定されている法案テキストに同規定は含まれていないという。これに対し、民主党のクリス・マーフィー上院議員は先週、反腐敗連合「トランスペアレンシー・インターナショナルUS」の主導で民主党議員向けの説明会を開催。会合では専門家から「大統領や高官、家族が暗号資産事業から利益を得ることを禁じる文言を明記すべき」との強い要請があったという。

この動きを主導するウォーレン議員は13日、上院のシューマー院内総務とトゥーン院内幹事に宛てた書簡で、現在の法案を「重大な欠陥がある」と痛烈に批判した。彼女は「上院本会議に送られる暗号資産法案は、大統領や副大統領、高官、議員とその家族が暗号資産業界から利益を得ることを防がなければならない。それ以下であれば、国民を犠牲にした大統領とその一族への露骨な利益供与だ」と主張している。

ホワイトハウスの焦りと残された時間

ホワイトハウスの焦りと残された時間

トランプ大統領だけでなく、政権中枢からも早期成立を求める声が上がっている。ホワイトハウスの暗号資産担当トップアドバイザーを務めるパトリック・ウィット氏はSNSで「この法案に注がれた途方もない労力と、既に失われた時間を思い起こしてほしい。これ以上の遅延は許されない」と述べ、議会への強い催促を行った。

議会の夏の会期は限られており、8月の夏季休会までに上院、そして下院での再調整を完了させなければ、法案の行方は11月の中間選挙後に持ち越される可能性が高い。選挙の年ともなれば、超党派の合意形成は現在よりはるかに困難になる。残された時間的猶予は、まさに風前の灯火だ。

編集部による独自分析と展望

編集部による独自分析と展望

倫理規定の欠如は「致命的な瑕疵」か、それとも「次善の策」か

最大の焦点は、倫理規定を欠いたまま法案が成立しうるのかという点だ。ウォーレン議員のように、規定の欠如を「露骨な利益供与」と断じる急進派の存在は無視できない。超党派での合意が必須の上院では、民主党側の相当数の造反を招けば、法案そのものが過半数の支持を得られずに頓挫するシナリオも想定される。

一方で、倫理規定の導入に強硬に反対する共和党の一部や、そもそも急ぎ過ぎた規制の導入を危惧するリバタリアン的な立場の議員からは、「まずは包括的な規制の枠組みを作り、個別の倫理問題は別の法律で扱うべき」との声も根強い。グレアム議員の死をきっかけとした「弔い合戦」の空気が、こうした反対論をどこまで抑え込めるかが最初のヤマ場となる。

業界への影響と「中国リスク」への本気度

Clarity Actの成立は、国内の暗号資産ビジネスに待望の法的安定をもたらす。取引所やプロトコル開発企業が米国内での事業計画を立てやすくなり、機関投資家の参入にも弾みがつくだろう。しかし、その遅延や法案の骨抜きは、米国市場の競争力をさらに削ぐことになる。トランプ氏が繰り返し口にする「中国に負けるな」というレトリックは、ある種の選挙向けのスローガンにとどまらず、現実の産業競争を反映したものだ。

問題は、規制の「質」と「速度」のバランスである。拙速な妥協の産物として穴だらけの規制が生まれれば、結局は再修正のための時間とコストを業界に強いる。議会には綱渡りの采配が求められる。

この記事のポイント

  • トランプ大統領は、急逝したグレアム上院議員への追悼を名目に、Clarity Actの早期可決を強く要求している。
  • Clarity Actは連邦レベルで初めての包括的な暗号資産規制であり、業界の法的な不確実性を一掃する可能性がある一方、成立には残された時間が少ない。
  • 議会の最大の対立軸は、大統領や議員、その家族が暗号資産から利益を得ることを制限する「倫理規定」の有無であり、民主党が規定の盛り込みを強硬に主張している。
  • 倫理規定を巡る対立が解けない場合、法案は夏季休会や選挙戦への突入により事実上廃案となるリスクがあり、超党派の合意形成が喫緊の課題となっている。
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