ドナルド・トランプ米大統領のファミリートラストが、暗号資産(仮想通貨)関連の株式を積極的に購入していたことが、政府倫理局の届出によって明らかになった。政権が暗号資産業界への大規模な規制緩和を推し進める中、大統領個人の資産運用と公共政策が複雑に交錯する構図が、改めて強い批判にさらされている。
2026年5月14日に公開された財務開示書類「フォーム278-T」によれば、トランプ家のトラストは1月から3月の間に3,600件を超える金融取引を実行した。その取引総額は推定で2億2,000万ドルから7億5,000万ドルにのぼり、アップルやマイクロソフトといった伝統的な優良株に混じり、コインベースやビットコインマイニング企業の株式が含まれていたことが判明している。
この記事では、トランプ家が取得した暗号資産関連株の詳細、急変した政権の規制姿勢、そして議会や倫理監視団体から噴出する利益相反への懸念について、専門家の視点を交えながらわかりやすく解説する。
開示書類が示す「暗号資産関連株」の全容

CryptoSlateの記事によると、今回の届出で最も注目を集めたのは、複数の暗号資産関連企業への投資である。トランプ家のトラストは単一の企業だけでなく、取引所、マイニング、金融仲介、決済といった業界の異なるセクターに分散して資金を投じていた。
コインベース株を9回にわたり取得
開示書類によれば、米国最大の暗号資産取引所であるコインベースの株式は、同期間中に9回の取引を通じて購入されている。最も大きな取引は10万ドル超から25万ドル以下の規模だったと推定されている。金額自体は、同時期に行われたエヌビディアなどの巨大ハイテク株取引に比べれば小規模だが、その政治的意味合いははるかに大きいと指摘されている。
コインベースは長らく、米証券取引委員会(SEC)と「未登録の証券取引所運営」をめぐる法廷闘争の渦中にあった企業だ。政権が後にこの訴訟を取り下げる決定を下したことから、投資と政策のタイミングに疑念の目が向けられている。
ビットコインマイナーからフィンテックまで幅広く網羅
トラストの投資対象はコインベースだけに留まらない。届出では、ビットコイン採掘企業であるMARAホールディングスやクリーンスパークの株式も報告されている。MARAは、事業活動を通じて大量のビットコインを保有する「ビットコイン treasury 企業」の代表格であり、その株価はビットコイン価格に強く連動する傾向がある。
さらに、個人投資家向け取引アプリのロビンフッドや、学生ローン借り換えなどで知られるソーファイ・テクノロジーズ、ツイッター創業者ジャック・ドーシー氏が率いる決済企業ブロックに対する投資も明らかになっている。これらの企業は、伝統的な金融と暗号資産の橋渡し役として、政権の政策変更から直接的な恩恵を受けるポジションにある。
「ビットコイン指標銘柄」ストラテジー株の売買
届出はまた、マイクロストラテジーから社名変更したストラテジーのクラスA株式について、8件の取引があったことを示している。ストラテジーは企業としては異例の巨額なビットコインを財務資産として保有しており、その株価は事実上、ビットコインの価格変動に連動する上場投資手段と見なされている。
書類では、2月に最大10万ドル規模の購入があった一方、1月には最大5万ドルの売却も行われたことが確認されている。現時点では、これらの取引が大統領本人の直接的な指示によるものか、あるいは信託を管理するブローカーの裁量によるものかは不明だ。
暗号資産の敵から「最大の支援者」への劇的な転換

今回の発覚がこれほどまでに政治的な波紋を広げている背景には、トランプ氏の暗号資産に対する立場が、過去数年間で劇的に変化したという事情がある。
CryptoSlateの記事が伝えるように、トランプ氏は2024年の大統領選挙キャンペーン以前、ビットコインやその他のデジタル資産を「投機的でリスクが高い」と繰り返し批判していた。しかし、キャンペーンが本格化するにつれて業界からの支持と献金を受け入れ、「暗号資産戦争を終わらせる」候補として自らを売り込むようになった。この変節は、詐欺的だったり危険だったりする資産に対する見解の変更というより、選挙戦略上の計算だったとの見方が強い。
政権による「執行から支援へ」の大転換
政権発足後、変化はスローガンから具体的な政策へと急速に移行した。最も象徴的な動きが、SECのポール・アトキンス委員長の下での規制方針の転換である。前政権下でSECは、未登録証券の提供を理由に多くの暗号資産プロジェクトを提訴する「執行による規制」を強力に推し進めていたが、新政権はこの方針を大幅に後退させた。
具体的には、SECは暗号資産専門のタスクフォースを設置し、新たなルール策定に向けた議論を開始。それと同時に、業界の法的風景を形作ってきた複数の注目訴訟から撤退したのだ。その中には、今回ポートフォリオに含まれていたコインベースに対する訴訟の却下も含まれている。前SEC体制下では、コインベースは未登録の証券取引所、ブローカー、清算機関として運営されていると非難されていただけに、この却下は業界全体にとっての大勝利と受け止められた。
司法省から準備金政策まで、広がる規制緩和
政策転換の波はSECだけに留まらない。司法省は全国的な暗号資産執行チームを解散し、商品先物取引委員会は業界の成長を促すための規制緩和措置を進めた。さらに、トランプ大統領は大統領令を通じて、米国デジタル資産備蓄と戦略的ビットコイン準備金の創設を指示した。これは、政府が押収した暗号資産を市場で売却せずに保有し続けることを意味し、ビットコインに連邦準備政策の中での正式な役割を与えるものだ。
一連の動きは、ワシントンにおける暗号資産業界の地位を根底から変えた。軽減された執行リスク、友好的な規制当局、そして国家準備金としての位置づけは、ほんの数年前までは想像もできなかった環境である。
激しさを増す利益相反への批判と監視

大統領個人の金融利害と政権の政策課題がここまで明確に重なり合うと、利益相反を疑う声が高まるのは避けられない。
議会民主党はすでに、トランプ氏が公職を利用して個人的な金融利益を追求していると非難しており、2025年上半期だけで暗号資産販売から推定8億ドルの収入を得ていたとする報告書をまとめている。さらに、これらの暗号資産保有額は最大で116億ドルに上ると試算され、国家の安全保障や外国企業による利益誘導のリスクも指摘されていた。
ウォーレン上院議員がWLFI調査をSECに要請
新たな火種となったのは、暗号資産への批判的な姿勢で知られるエリザベス・ウォーレン上院議員が、SECに対してワールド・リバティ・ファイナンシャル(WLFI)の調査を要求したことだ。WLFIはトランプ氏と彼の息子たちが設立した暗号資産事業で、ウォーレン議員はこの企業による疑わしい借入取引を問題視している。
CryptoSlateの記事が伝えるWLFIの取引スキームは複雑だ。WLFIは、自社のWLFIトークン約4億4,000万ドル相当を分散型融資プロトコル「ドロマイト」に担保として差し入れ、ステーブルコインを借り入れた。しかし、外部の一般投資家は自身のWLFI保有分を売却できない状態が続いており、インサイダーだけが利益を得ているとの批判が起きている。さらに、この借入によってドロマイトから大量のステーブルコイン流動性が流出し、一部の預金者は資金を引き出せない事態に陥ったという。
ウォーレン議員の要求書は、現時点では違法行為の認定ではなく調査の呼びかけに過ぎない。しかし、政権の規制方針に敏感にならざるを得ないSECの新指導部にとって、この要求は無視できない政治的圧力となりつつある。
「政策」と「個人資産」の境界線の曖昧さ
倫理監視団体が最も問題視するのは、トランプ氏の金融利害と彼の政策権限の間に明確な分離がないことだ。開示された保有資産は、暗号資産だけでなく、防衛、半導体、銀行、エネルギーなど、連邦政府の決定によって大きな影響を受ける業界に広がっている。例えば、エヌビディアやボーイングは、輸出規制や外交交渉の影響を直接受ける立場にあり、両社の幹部は今週、トランプ氏の中国訪問に同行したばかりだ。
暗号資産はその中でも、政権が規制の枠組みそのものを積極的に書き換えている分野であり、批判はより先鋭化している。トランプ氏はすでに、ステーブルコインに連邦レベルの枠組みを設ける「ジーニアス法」に署名し、現在はより広範な市場構造法案と目される「クラリティ法案」の審議が進んでいる。これらの法律は、証券取引委員会(SEC)から商品先物取引委員会(CFTC)へと主要な監督権限を移し、業界のコンプライアンス負担を大幅に軽減する内容を含むため、業界団体は長年にわたり求めていた規制の明確化として歓迎している。
一方で、消費者団体や民主党議員は「このアプローチは投資家保護を弱め、従来の金融機関と比較してデジタル資産企業のコンプライアンス負担を不当に軽くする恐れがある」と警鐘を鳴らしている。トランプ家による暗号資産株の購入は、こうした疑念に具体的な根拠を与えてしまった格好だ。
この記事のポイント
- トランプ家のファミリートラストが、コインベース、MARA、ストラテジーなど複数の暗号資産関連株を2026年第1四半期に購入していたことが判明した。
- 政権は同時期に、SECによる訴訟取り下げや国家ビットコイン準備金の創設など、暗号資産業界への大規模な規制緩和と支援策を急速に進めている。
- 過去に暗号資産を批判していたトランプ氏の変節と、政策と個人資産運用のタイミングの重なりが、利益相反と国家安全保障上の深刻な懸念を引き起こしている。
- エリザベス・ウォーレン上院議員がトランプ家のWLFI事業に関する調査をSECに要求するなど、議会からの監視と圧力が強まっている。

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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