トークン化証券のインフラを手がける米tZEROが、株式上場の計画を明らかにした。SPAC(特別買収目的会社)との合併を使い、NYSE Americanへの上場を目指す。
合併相手はFG Imperii Acquisition Corp.で、取引完了は2027年初めの見込みだ。同社は2014年からブロックチェーン上の証券取引に取り組んできた老舗であり、NYSEの親会社ICEも出資している。
この記事では、案件の中身、tZEROという会社の素顔、上場までに残る課題を順に整理する。トークン化を支える裏方企業が、公開市場でどう評価されるかを占う案件になりそうだ。
tZERO、評価額3億5,000万ドルのSPAC合併で上場へ

案件の中身を整理する
tZEROは、ブランクチェック会社のFG Imperii Acquisition Corp.(ティッカーFGII)と合併する。両社が11月2日にCoinDeskへ共有した声明で明らかになった。
案件におけるtZEROの評価額は3億5,000万ドルだ。これは新たな資金が入る前の企業価値で、いわゆるプレマネー評価額にあたる。
取引を通じて、SPACの信託口座から最大2億3,100万ドルの現金を受け取れる可能性がある。ただし、株主による償還や諸経費を差し引く前の数字である。
合併後の会社は、NYSE Americanに「TZRO」のティッカーで上場する予定だ。NYSE Americanはニューヨーク証券取引所グループが運営する市場で、中小型の成長企業が多く上場している。
取引の完了には株主と規制当局の承認が必要になる。CEOのアラン・コネフスキー氏は合併後も続投する見通しだ。既存株主は、合併後の会社でも持ち分を維持する。
完全希薄化ベースで資本の約62%を持つ投資家は、すでに支持契約に署名した。完全希薄化ベースとは、ストックオプションなど将来株式に変わりうる権利も、すべて株に換算して数える方法のことだ。
SPAC上場の仕組みと「償還」
SPACは、自らは事業を持たない会社だ。上場して集めた資金で、未上場企業と合併することだけを目的にしている。「空箱の会社」と呼ばれることもある。
たとえるなら、先に器だけを上場させておき、あとから中身の企業を入れるようなものだ。通常のIPO(新規株式公開)に比べ、上場までの手間や時間を減らしやすいとされる。
SPACが集めた資金は、合併が決まるまで信託口座で保管される。SPACの株主は、合併に納得できなければ出資金の払い戻しを請求できる。これが「償還」だ。
償還を選ぶ株主が多いほど、合併企業に入る現金は少なくなる。2億3,100万ドルという数字が「最大」とされているのは、この仕組みがあるからだ。
2014年から歩むトークン化証券の老舗

規制下で証券取引の機能を一通りそろえる
そもそもトークン化とは何か。株や債券などの権利を、ブロックチェーン上のデジタルな記録(トークン)で表す仕組みのことだ。紙の株券を電子チケットに置き換えるイメージに近い。
tZEROは2014年から、この分野に取り組んできた。いまの機関投資家によるトークン化ブームより何年も早い。もともとは米オンライン小売大手Overstock.comの事業として始まった経緯がある。
同社は規制下にある子会社を通じて、デジタル証券の取引と仲介を提供している。カストディ(資産の保管)や名義書換代理のサービスも手がける。
名義書換代理人(トランスファーエージェント)は、誰が何株持っているかという株主名簿を管理する役割だ。売買から保管、名簿管理までを一社でまかなえる点が、同社の強みになっている。
ICEが出資、NYSEの新基盤にも参加
ニューヨーク証券取引所(NYSE)の親会社であるインターコンチネンタル取引所(ICE)は、tZEROの出資者の1社だ。
ICEは、NYSEが開発するブロックチェーンベースの証券取引プラットフォームで、tZEROをデザインパートナーの1社に選んだ。デザインパートナーとは、設計段階から意見を出し、一緒に仕組みを形づくる協力企業のことだ。
伝統的な金融の中枢が、実務面でtZEROの知見を頼りにしている構図である。上場先がICE傘下のNYSE Americanという点も、両社の距離の近さを感じさせる。
上場の狙いは「裏方」としての拡大

ウォール街で広がるトークン化の波
銀行や資産運用会社の間では、株式・債券・ファンドをブロックチェーン上に載せる動きが広がっている。決済の高速化や、取引時間の拡大を狙った取り組みだ。
米シティは、トークン化証券の市場規模が2030年までに5.5兆ドルに達しうると試算している。市場が育つほど、資産の発行・取引・決済を支える基盤への需要も高まる。
競合のSecuritizeは、すでにティッカー「SECZ」で取引される上場企業だ。トークン化インフラの有力企業が相次いで公開市場に出てくる流れの中に、今回の計画は位置づけられる。
自社ブランドで売りたい金融機関を裏側で支える
コネフスキーCEOはCoinDeskに対し、国内外の金融機関が自社ブランドでトークン化商品を提供したがっていると語った。顧客との関係も、自分たちで握りたいと考えているという。
tZEROは、そうした商品の裏側で端から端までのインフラを担う。今回の取引は資本へのアクセスを広げ、「Infrastructure-as-a-Service(IaaS)」モデルを拡大するためのものだと同氏は説明した。
IaaSとは、必要な基盤を自前で持たず、サービスとして借りる仕組みだ。スーパーのプライベートブランド商品を、実は別のメーカーが作っている構図に近い。
つまり、表に立つのは銀行や運用会社で、tZEROは見えない工場として動くということだ。顧客を奪い合わない立場なので、大手金融機関と組みやすいとの見方がある。
上場までの課題と今後の見どころ

調達額は最大値、償還次第で目減りも
2億3,100万ドルは、あくまで上限の数字だ。SPACの合併では多くの株主が償還を選び、実際の調達額が当初の想定を大きく下回る例が少なくない。
tZERO側では、資本の約62%を持つ投資家がすでに支持を表明している。自社株主の承認については、一定の見通しが立っているとみられる。
一方で、SPAC株主が償還を選ぶかどうかは別の話だ。合併直前の市場環境や、トークン化分野への投資家の熱量に左右される。いくら手元に残るかが、成長資金の規模を決める。
100件超の特許は武器にも火種にも
tZEROは、トークン化や証券インフラに関するブロックチェーン関連特許を100件以上保有している。10年超の蓄積が形になった資産だ。
ただ、この知的財産は争いの種にもなっている。tZEROは競合のSecuritizeと、特許を巡って法的に対立している最中だ。
訴訟の行方は、上場後の企業価値にも響きうる。有利に進めば他社へのライセンス収入につながるとの見方がある。逆に長期化すれば、訴訟費用が利益を圧迫するおそれもある。
評価額の小ささをどう読むか
3億5,000万ドルという評価額は、シティが描く5.5兆ドルの市場と比べると、ごく小さな数字だ。10年超の実績とICEとの関係を踏まえれば、控えめな評価とも受け取れる。
背景には、裏方型ビジネス特有の事情があるとみられる。インフラ企業は、顧客側の商品が普及するまで売上が伸びにくい。投資家は将来の成長と、それまでの資金繰りを天秤にかけている可能性がある。
CoinDeskの記事では、発行体が関与する形のトークン化株式について、トークンそのものが株式となり、支配権や権利が完全に保たれると解説している。
この「発行体公認型」を実現するには、正式な株主名簿の管理が欠かせない。名義書換代理の機能を規制下で持つtZEROは、まさにその要の位置にいる。この点は評価額に十分織り込まれていないとの見方もできる。
上場すれば、財務情報の定期的な開示が義務になる。外から見えにくかったトークン化インフラ事業の採算が、数字で確かめられるようになる。業界全体にとっても、その意味は小さくない。
この記事のポイント
- tZEROはSPACのFG Imperiiと合併し、NYSE Americanに「TZRO」で上場する計画だ
- 評価額は3億5,000万ドルで、信託口座から最大2億3,100万ドルを得る可能性がある
- 2014年創業のトークン化証券の老舗で、ICEが出資しNYSEの新基盤にも参加している
- 金融機関の自社ブランド商品を裏側で支えるIaaSモデルの拡大が上場の狙いである
- SPAC株主の償還とSecuritizeとの特許紛争が、今後の大きな不確定要素になる

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
分かりやすい解説で、ブロックチェーン革命の潮流を一般に広めることを目指す。初心者から上級者まで、最新情報を求めるすべての人に役立つ情報発信を心がけている。
