機関投資家向けのトークン化された資産が、実際の取引所で担保として機能し始めた。Calais Digital AssetsがUBSのトークン化マネーマーケットファンド「uMINT」を、暗号資産取引所Bybitの運用担保として利用開始したのだ。これは単なる発行マイルストーンではない。従来は遊休状態だった現金同等物が、利回りを稼ぎながら取引余力を支えるという、資本効率の実証実験である。
仕組みの中核はDigiFT、ByCustody、Bybitの三者連携にある。投資ファンドのCalaisは、DigiFTを通じて取得したuMINTをカストディアンのByCustodyに預けたまま、Bybit上の証拠金として認識させている。これにより、担保に出した資産もマネーマーケットの利回りを獲得し続けることが可能になった。
ただし、この華々しい導入の裏には重要な未解決事項がある。担保評価の掛け目や清算ルールなど、市場のストレス時に問われる運用条件の詳細は未公表だ。本記事では、この先進的な取り組みの構造と、普及に向けた真の課題を解説する。
uMINT担保の仕組み、三者連携で実現する「遊ばせない」取引

シンガポールに拠点を置くクオンツファンドのCalais Digital Assetsは、UBSが発行するトークン化ファンド「uMINT」をアクティブな取引担保として利用している。単にファンドを購入して保有するのではなく、取引所の信用力を支える担保(証拠金)として機能させている点が新しい。
この構造は「オフエクスチェンジ決済担保(OES)」と呼ばれる。伝統的な証拠金取引では、トレーダーは現金やステーブルコインを取引所に預け入れる。その間、それらの資産は運用に回せず、機会損失が生じる。Calaisのモデルは、この常識を覆すものだ。
具体的な関係者の役割は以下の通りだ。
- DigiFT:uMINTへの規制準拠したアクセスと流通を提供するディストリビューター
- ByCustody:Calaisが保有するuMINTを保管するカストディアン
- Bybit:ByCustodyに保管されたuMINTを、自社取引所の担保として承認する取引所
この三者が合意することで、Calaisは資産を動かさずに、その価値を取引所で活用できるようになる。資産は安全な保管場所にありながら、同時に信用供与の役割も果たすわけだ。
これは、トークン化資産の議論を「どれだけ発行されたか」から「市場でどう使えるか」へと進める重要な一歩だ。実際のトレーディング業務において、遊休状態の証拠金を置き換えられるほど実用的なのか。この問いへの答えが、今回の取り組みで試されている。
なぜ今この仕組みが注目されるのか、資本効率をめぐる競争

伝統的な証拠金の仕組みでは、トレーダーは資金を塩漬けにするしかなかった。だが、Calaisの手法が普及すれば、担保自体が収益を生み出す。これは機関投資家にとって、年間で見れば看過できないコスト削減、あるいは収益向上につながる。
uMINT導入までの系譜
今回のCalaisの発表は、突然現れたものではない。2024年11月、UBSはイーサリアムの分散型台帳技術を基盤とする初のトークン化投資ファンドとしてuMINTを発表した。これは高品質な短期金融商品で運用される、保守的な現金管理手段として設計されている。
続く2025年10月には、Bybit、DigiFT、UBSの三社が、uMINTを機関投資家向け担保として利用可能にする基本合意を発表していた。今回のCalaisの事例は、その「可能性」が実際の取引現場で動き出したことを示す具体的な証拠なのである。
小規模だが生きた証拠、数字が示す現状
とはいえ、uMINTはまだ黎明期にある。RWA.xyzのデータによると、2026年6月21日時点で、uMINTの総資産価値は約18.7百万ドル(約26億円)。発行済みトークン数は176,116個で、保有者アドレスは29件に留まる。
この数字は「初期段階だが、実在している」という評価が妥当だ。数十億ドル規模の市場には遠い。しかし重要なのは、小規模ながらも「稼働する取引システムに組み込まれた」という事実である。ここが、単なる発行発表とは一線を画す。
このモデルが業界標準になれば、取引所は流動性や手数料の安さだけでなく、「どのような高品質資産を担保として認めているか」でも競争することになる。カストディアンやディストリビューターも、単なるバックオフィス業務から、取引フロントの不可欠な一部へと役割が変わるだろう。
構造が明かす、本当の試練は「有事」の運用ルール

この仕組みが本当に普及するかは、平時ではなく、市場が荒れたときにルールが機能するかどうかにかかっている。そして、現時点でその詳細は公表されていない。
未公表の掛け目と清算リスク
最大の不透明要素は、担保の掛け目(ヘアカット)だ。BybitがuMINTを担保として受け入れる際、その評価額を何パーセントに設定しているのか。また、その評価はどの情報源に基づき、どの程度の頻度で更新されるのか。これらの「担保管理の実務」が明確でなければ、巨大な資金を預けることは難しい。
さらに、清算の順序(ウォーターフォール)も重要だ。相場急変時にCalaisのポジションで損失が発生した場合、担保はどのような順序で、誰の権限で清算されるのか。マネーマーケットファンドの償還と、取引所の瞬時のリスク管理が衝突した場合、どう解決されるのかという問いに、まだ答えはない。
分散化が生む法的リスク
三者連携は機能の分離という強みを持つ一方で、破綻リスクの連鎖という複雑さも生む。DigiFTの資料によれば、この商品とサービスは認可された仲介業者を通じてのみ提供される。機関投資家向けの、非常に限定的な枠組みだ。
しかし、カストディアン、取引所、ディストリビューターのいずれかが経営破綻した場合、担保資産の法的な管理権は誰に帰属するのか。分散型の管理体制は、単一の取引所に全てを預けるリスクを減らす一方で、倒産隔離などの法的確実性について、より高度な検証を必要とする。
これらの運用条件が明確になり、透明性が確保されなければ、このモデルの採用はプロフェッショナルな一部の投資家に留まるだろう。Calaisの事例は「技術的に可能」であることを証明した。次のステップは「金融的に信頼できる」ことを証明することだ。
この記事のポイント
- CalaisがUBSのトークン化ファンドuMINTをBybitの担保として実用化し、遊休資産に利回りをもたらす資本効率を実証した
- 三者連携が鍵で、従来の単なるトークン発行から、カストディや取引所を含む実取引ワークフローへ議論が進んだ
- 資産規模は約18.7百万ドルと限定的であり、市場はまだ超初期段階にある
- 普及の壁は、担保の掛け目や清算ルール、有事の法的処理といった未公表の運用条件にある

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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