英国銀行の暗号資産制限に苦情1万件超。ハブ構想と実態の矛盾

英国の銀行が暗号資産取引に課す制限に対し、消費者からの苦情が90日間で1万件を超えた。Stand With Cryptoの調査では、Lloyds Banking Groupへの苦情が最多だった。暗号資産ハブを目指す英国の政策と、銀行窓口の実態との矛盾が浮き彫りになっている。

英国で銀行の暗号資産制限に苦情1万件超、政府のハブ構想と矛盾

英国で銀行の暗号資産制限に苦情1万件超、政府のハブ構想と矛盾

英国は暗号資産の世界的なハブを目指すと表明している。しかし国内の主要銀行が暗号資産取引に課す制限が、その野心と正面から衝突している実態が明らかになった。

暗号資産のアドボカシー団体Stand With Crypto(SWC)の調査によると、2026年5月から8月の90日間に、銀行の暗号資産取引制限に関する苦情が1万92件寄せられた。提出者は9,800人で、英国全650選挙区をカバーしている。

英国政府が暗号資産産業への支援を初めて表明したのは2023年のことだ。当時はリシ・スナク氏が保守党政権の財務相で、後に首相に就任した。この方針は労働党政権下でも再確認されており、財務省の経済担当秘書官ルーシー・リグビー氏が1年以内に改めて表明している。

ところが銀行の現場では、暗号資産へのアクセスを制限する動きが続いている。SWCは、銀行による画一的な禁止や硬直的な制限、不明確なポリシーが規制された取引所へのアクセスを妨げ、英国の暗号資産ハブ構想を損なう可能性があると指摘する。

Coinbaseの欧州政策責任者であるKatie Harries氏は「国がイノベーターを招き入れようとしながら、銀行が消費者を締め出すことを許していては、信頼を得られない」と述べた。同氏はさらに「これは英国のデジタル資産セクターの成長を確実に減速させ、関連投資にも影響を及ぼす」と警告している。

銀行別の苦情内訳、Lloydsが最多もデータには留意点

銀行別の苦情内訳、Lloydsが最多もデータには留意点

SWCの調査では銀行別の苦情件数も明らかになった。最も多かったのはLloyds Banking Groupで、2,297件と全体の23%を占めた。Lloyds Banking GroupにはHalifaxとBank of Scotlandが含まれる。

次いでBarclaysが1,569件、NatWest Groupが1,278件だった。ただし、これらの数字にはいくつかの留意点がある。

SWCのデータは、オンラインツールを使って自発的に苦情を提出した個人からの報告を集計したものだ。銀行顧客全体を代表する調査ではなく、各銀行の当座預金口座の市場シェアに応じた調整も行われていない。

したがって、苦情件数が多い銀行が必ずしも苦情率が高いとは言えない。大手銀行は口座数が多いため、苦情の絶対数も多くなりやすい構造がある。

Harries氏は英国暗号資産事業者評議会の調査結果にも言及した。それによると、FCA(金融行動監視機構)に登録された暗号資産取引所への送金試行の40%が、過去12カ月間にブロックされるか遅延していたという。

「ほとんどの取引所が顧客の摩擦が増加したと回答し、70%が銀行の状況は1年前より敵対的だと答えた」とHarries氏は述べている。

銀行の公表ポリシーと実態の乖離、明確な情報提供が課題

銀行の公表ポリシーと実態の乖離、明確な情報提供が課題

SWCの調査でとりわけ注目されるのは、銀行が公表している制限と、顧客が実際に経験していることの間に乖離がある点だ。

Lloydsは、SWCが8月28日時点で銀行のウェブサイトを確認したところ、暗号資産関連の送金を制限するポリシーを公表していなかった。それにもかかわらず、同グループは最多の苦情を受けている。

一方、アプリで暗号資産の購入を許可しているデジタル銀行のRevolutも、苦情を受けた機関に含まれていた。

明示的な制限を設けている銀行もある。Barclaysは暗号資産の送金を1取引あたり2,500ポンド(約3,340ドル)、30日間で10,000ポンドに制限している。NatWestとSantanderも取引・月間の制限を公表している。

Chase、Starling、TSB、Metro Bank、Virgin Moneyは暗号資産取引を全面的に禁止していると確認された。

苦情の内訳を見ると、公表された制限がある銀行が61%を占め、公表された制限がない銀行が28%、全面禁止の銀行が約10%だった。

SWCは、この違いが金融機関に求められる明確な情報提供の要件に疑問を投げかけると主張する。暗号資産取引に確実にアクセスできる銀行を求めて乗り換えようとする顧客は、どの銀行が実際に期待通りの対応をするのか判断しにくい状況にある。

銀行が暗号資産の送金を精査するのには、詐欺やマネーロンダリングのリスクという正当な理由がある。しかしSWCは、画一的な制限は比例的なリスク管理を超えており、金融犯罪対策は個々の顧客と取引を評価すべきという期待と矛盾すると指摘する。

SWCの提言、画一的制限から個別対応へ

SWCの提言、画一的制限から個別対応へ

SWCは銀行に対し、制限の明確な説明を公表し、ブロックされた送金に対して顧客が異議を申し立てられる実効的な手段を提供するよう提案している。

Harries氏は「銀行が業界全体に画一的な制限を課すことを許すべきではない。個別対応をとるべきで、セクター全体を締め付けるべきではない」と述べた。

英国では現在、政府とFCAが暗号資産ビジネスを誘致するための包括的な規制枠組みを準備している。2026年9月には、暗号資産規制の申請受付が2027年2月の期限付きで開始された。

規制の枠組みが整う一方で、銀行の制限によって消費者が規制された取引所にさえアクセスできない状況が続けば、制度の実効性は損なわれる。SWCの調査は、政策と現場のギャップを埋める必要性を浮き彫りにした形だ。

英国が暗号資産ハブとしての地位を確立するには、規制の整備だけでなく、銀行と消費者の接点における摩擦をどう解消するかが課題となる。画一的な制限から個別評価への転換が進むかどうかが、今後の焦点となる。

この記事のポイント

  • 英国で銀行の暗号資産制限に関する苦情が90日間で1万件超
  • Lloyds Banking Groupが最多の2,297件、Barclaysが1,569件
  • 銀行の公表ポリシーと実際の顧客体験に乖離が見られる
  • SWCは画一的制限から個別対応への転換を提言
  • 英国の暗号資産ハブ構想と銀行の現場対応の矛盾が鮮明に
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