米デジタルドル禁止へ、住宅法案が今夜成立。CBDCを4年間ブロック

議会を通過した超党派の住宅法案が、7月11日深夜(米東部時間)に成立する。この法案には、連邦準備制度理事会(FRB)による中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行を、今後4年間にわたって禁じる条項が組み込まれている。

トランプ大統領は署名を拒否したが、米国憲法の規定により、議会承認済みの法案は大統領の署名がなくとも10日間の猶予期間を経て自動的に成立する。デジタルドルをめぐる長年の議論に、一つの大きな区切りが打たれる形だ。

この措置は、仮想通貨業界が長らく警鐘を鳴らしてきた「政府による金融監視の拡大」への歯止めとして機能する。同時に、民間発行のステーブルコインにとっては、強力な競合相手の出現を当面の間は封じる大きな追い風となる。

住宅法案に紛れたCBDC禁止条項

住宅法案に紛れたCBDC禁止条項

異例の立法プロセスがもたらした産物

今回のCBDC禁止条項は、「住宅価格適正化法案」というまったく性質の異なる法案に付随するかたちで立法化される。共和党議員らは以前から、外国情報監視法(FISA)の更新法案など、さまざまな重要法案にこの条項を組み込もうと試みてきた経緯がある。住宅法案は、その最新の「乗り物」として選ばれたに過ぎない。

CBDCとは、中央銀行が発行するデジタル通貨のことだ。現金のデジタル版とイメージすればわかりやすい。利用者は中央銀行に直接口座を持つことになり、市中銀行を介さずにデジタル決済が可能になる。ところが、裏を返せば、政府がすべての個人取引を追跡できる仕組みにもなり得る。これこそが、共和党議員や暗号資産業界が「監視国家への入り口だ」と強く反発してきた最大の理由だ。

封じられる「デジタルドル」構想

今回の法律により、FRBは自身のデジタルドルを発行することができなくなる。禁止期間は2030年末までの約4年間だ。CoinDeskの記事によると、FRB内部にはそもそもCBDCを積極的に推進する機運は乏しかった。トランプ大統領が指名したケビン・ウォーシュ新FRB議長の就任以前から、前経営陣は「ホワイトハウスと議会の明確な承認なしには進められない」というスタンスを繰り返し表明している。

つまり、この禁止令は「現実には走り出してもいない計画」に法的な封印を施すものだ。しかし、欧州や中国でCBDCの開発と実験が進むなか、米国が明確に「やらない」と宣言する政治的意味は極めて大きい。

トランプ大統領、署名拒否の背景にある政治的駆け引き

トランプ大統領、署名拒否の背景にある政治的駆け引き

「S.A.V.E.アメリカ法」を巡る攻防

トランプ大統領は7月11日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、住宅法案への署名を拒否する意向を表明した。拒否の理由はCBDC条項ではない。選挙における有権者の市民権証明と本人確認を厳格化する「S.A.V.E.アメリカ法」が議会を通過していないことへの抗議だ。

大統領は、この法律の不在が中間選挙で共和党に不利に働くと主張する。現在、下院では民主党が過半数を奪還するとの観測が優勢であり、S.A.V.E.アメリカ法の成立に必要な支持を議会内で集められていない。今回の署名拒否は、選挙戦略上のジェスチャーという側面が色濃い。

拒否権発動ではなく「自動成立」を選択

重要なのは、トランプ大統領が「拒否権(Veto)」を正式に発動したわけではないという点だ。米国憲法は、大統領が議会通過法案を受け取ってから10日間(日曜を除く)の間に署名も拒否権行使もしなかった場合、その法案は自動的に成立すると定めている。

大統領は以前、この住宅法案のために署名式典を予定し、舞台まで設営していた。それだけに、土壇場での署名拒否はワシントン政界に衝撃を与えた。自動成立という選択は、住宅政策への反対というメッセージを発しつつ、自らの拒否権を覆す議会の再可決という面倒な政治闘争を回避する微妙な落としどころと言える。

暗号資産業界にとっての勝因とその意味

暗号資産業界にとっての勝因とその意味

民間ステーブルコインへの巨大な追い風

暗号資産業界にとって、政府発行のデジタル通貨は最大の脅威の一つだった。米ドルに連動する民間のステーブルコイン(USDCやUSDTなど)を発行する企業にとって、国家が公式のデジタルドルを発行すれば、それは圧倒的な競争力を持つ代替手段となるからだ。

ステーブルコインは、暗号資産取引の基軸通貨として、また国際送金の手段として急速に存在感を増している。今回の法的な「保護膜」は少なくとも4年間続く。サークル(USDC発行元)やテザー(USDT発行元)などの発行体にとって、米国市場での事業継続に対する法的な確実性が大きく高まったと言えるだろう。

「監視社会への反対」という成功体験

より大きな視点で見れば、暗号資産コミュニティが掲げてきた政治的スローガンが、実際の法律という形で結実した事例だ。CBDCへの反対論は「政府による過剰な金融監視への拒絶」を中核としており、これはビットコインをはじめとする非中央集権的な暗号資産の理念とも深く共鳴する。

CoinDeskの記事によれば、CBDC反対運動は米国において極めて政治的な成功を収めたと言える。議会内で広範な支持を得られなかったCBDC構想を、無関係に見える住宅法案に結びつけて葬り去るという立法戦術は、業界ロビー団体の影響力の強さを改めて示すものだ。

今後の立法プロセスへの波紋

今後の立法プロセスへの波紋

今回の騒動は、暗号資産業界が待望する他の重要法案の行方にも影を落とす可能性がある。現在、議会で審議中の「デジタル資産市場明確化法(Digital Asset Market Clarity Act)」が今夏中に成立した場合、トランプ大統領が今回と同様に、無関係な政策課題と引き換えに署名を留保するシナリオも考えられるのだ。

暗号資産に友好的とされる共和党が多数を占める議会ですら、大統領の意向という不確定要素を乗り越えなければならない。包括的な規制枠組みの成立を待ち望む業界関係者にとって、今回の自動成立という結末は、安堵すると同時に、立法プロセスのもろさを再認識させる出来事となった。

この記事のポイント

  • 米国で、FRBによるCBDC(中央銀行デジタル通貨)発行を2030年末まで禁止する条項を含む住宅法案が、トランプ大統領の署名なしに自動成立する。
  • 大統領は選挙制度改革を求めて署名を拒否したが、正式な拒否権を発動しなかったため、憲法規定により法案は成立する運びとなった。
  • 暗号資産業界にとって、国家によるデジタルドル競合が当面封じられることは、民間ステーブルコイン事業にとって大きな法的安定材料となる。
  • 一方で、今回の政治的駆け引きは、今後成立が期待される包括的な暗号資産規制法案の行方にも不透明感を投げかけている。
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