米暗号資産業界の100社超が団結、上院へ「Clarity Act」の早期審議を要請

アメリカの暗号資産業界が、停滞する法整備を動かすためにかつてない規模で団結した。CoinbaseやRipple、Circleといった業界の巨頭を含む100社以上の企業と団体が、米上院銀行委員会に対して「Clarity Act」の早期審議を求める共同書簡を提出したのだ。

この動きは、これまでの「執行による規制」という不透明な状況に終止符を打ち、米国を再びデジタル資産イノベーションの世界的リーダーへと押し戻すことを目的としている。業界が突きつけた要求は、単なるルールの策定ではなく、米国の経済競争力そのものを守るための切実な訴えといえる。

この記事では、なぜ今これほど多くの企業が声を上げたのか、そして彼らが求める「6つの優先課題」が暗号資産の未来をどう変えるのかを詳しく紐解いていく。

100社超の連合が上院に突きつけた「Clarity Act」の審議要請

100社超の連合が上院に突きつけた「Clarity Act」の審議要請

米国の暗号資産市場におけるルール作りが、大きな転換点を迎えようとしている。2026年4月23日、100社を超える暗号資産関連企業や業界団体で構成される連合が、米上院銀行委員会に対し、デジタル資産の連邦枠組みを構築する「Clarity Act」のマークアップ(法案の修正・審議プロセス)を進めるよう強く促した。

CoinbaseやRippleなど主要プレイヤーが勢揃い

今回の共同書簡に名を連ねた顔ぶれは、現在の暗号資産業界を象徴する豪華なものだ。取引所最大手のCoinbase、ステーブルコインUSDCを発行するCircle、クロスボーダー決済のRipple、さらにはKrakenやAnchorage Digital、Galaxy Digitalといった主要企業が並ぶ。

また、企業だけでなく、Andreessen Horowitz(a16z)やParadigmといった有力ベンチャーキャピタル、さらにはConsensysのような開発企業、各州のブロックチェーン協会、そして草の根運動を展開する「Stand With Crypto」の大学支部までもが参加している。これほど広範な支持が集まったのは、現在の米国の規制状況に対する危機感が業界全体で共有されていることの証左だ。

「執行による規制」からの脱却を目指す

書簡の中で連合が最も強く訴えているのは、政府機関による場当たり的な「執行による規制」の終了だ。バイデン政権下では、米証券取引委員会(SEC)や米商品先物取引委員会(CFTC)が、明確なガイドラインを示す代わりに、次々と企業を提訴することで実質的な政策形成を行ってきた経緯がある。

業界側は、こうした訴訟ありきの姿勢では安定したビジネス環境は築けないと主張している。ティム・スコット委員長やエリザベス・ウォーレン議員ら委員会幹部に宛てたメッセージでは、政府機関の独断に頼るのではなく、議会が主導して永続的で予測可能なルールを確立すべきだという確固たる意志が示された。

業界が求める6つの優先課題と規制の透明性

業界が求める6つの優先課題と規制の透明性

連合は、新しい法的な枠組みにおいて議会が対処すべき「6つの優先課題」を提示している。これらは、現在の暗号資産ビジネスが直面している最も大きな障害を取り除くための具体的な提案となっている。

SECとCFTCの管轄権を明確にする

最大の争点の一つは、どの暗号資産が「証券」であり、どれが「商品」であるかという定義だ。現在はSECとCFTCがそれぞれの基準で管轄を主張しており、企業はどちらのルールに従うべきか混乱を極めている。Clarity Actでは、両機関の役割分担を明確に定義し、二重規制や管轄の空白をなくすことが求められている。

特に、決済用ステーブルコインに関連する消費者報酬の保護も優先事項に挙げられた。ステーブルコインが日常的な決済手段として普及するためには、利用者が安心して特典を受け取れる環境が必要であり、それを法的に担保することが不可欠だと連合は考えている。

非カストディアル開発者の保護と開示ルールの簡素化

もう一つの重要なポイントは、開発者の保護だ。特に「非カストディアル(ユーザーが自分で資産を管理する)」ツールを構築するエンジニアが、中央集権的な取引所と同じような厳しい規制の対象にならないよう配慮を求めている。これは、DeFi(分散型金融)のイノベーションを妨げないための防波堤となる。

また、現在の証券法に基づいた情報開示ルールは、暗号資産の特性に合っておらず、非常に複雑でコストがかかる。連合は、デジタル資産に適した、より遵守しやすい簡素な開示ルールの策定を提案している。さらに、各州でバラバラに存在する規制の「パッチワーク」を避け、連邦レベルでの統一基準を設けることも、ビジネスの効率化には欠かせない要素だ。

米国の競争力低下への危機感とグローバル基準の争奪戦

米国の競争力低下への危機感とグローバル基準の争奪戦

共同書簡が強調しているのは、単なる国内の利便性だけではない。米国がもたもたしている間に、世界の他の地域が着実にルール作りを進め、投資を呼び込んでいるという厳しい現実だ。

投資と雇用が海外へ流出するリスク

連合は、包括的な連邦枠組みが存在しないことで、米国内の投資や雇用、開発プロジェクトがオフショア(海外)へ流出するリスクが高まっていると警告している。暗号資産企業にとって、ルールが不明確な米国で事業を続けることは法的なリスクが大きすぎるため、より友好的な規制を持つ国へ拠点を移す動きが加速しているのだ。

Crypto Council for Innovationのチー・フン・キムCEOは、米国のリーダーシップの重要性を説いている。同氏によれば、現在は「グローバルなトップへの競争」の最中であり、米国がこの分野で世界標準を確立しなければ、将来的に他国のルールに従わざるを得なくなるという危機感がある。

EUのMiCAに続く「米国の標準」の必要性

実際に、欧州連合(EU)はすでに包括的な暗号資産規制である「MiCA(市場における暗号資産規制)」を施行しており、世界に先駆けて明確なルールを提供している。他にも、シンガポールやドバイ、英国などが積極的な誘致策を打ち出している状況だ。

米国がこれらの地域に追いつき、追い越すためには、上院銀行委員会が長年の超党派の成果を活かし、Clarity Actのような法案を前進させることが不可欠だ。キムCEOは、法案のマークアップこそが、消費者を保護し、開発者の安全を守る「耐久性のあるルール」への近道であると述べている。

【独自分析】トランプ政権下での法案成立の可能性と市場への影響

【独自分析】トランプ政権下での法案成立の可能性と市場への影響

今回の100社超による要請は、政治的なタイミングも非常に戦略的だといえる。現在のアメリカは、トランプ政権の返り咲きによって、暗号資産に対してより開放的でビジネス重視の姿勢へとシフトしつつあるからだ。

共和党主導の議会で進む法整備

上院銀行委員会のティム・スコット委員長や、暗号資産推進派として知られるシンシア・ルミス議員ら共和党幹部は、以前から明確な規制枠組みの必要性を訴えてきた。今回の業界からの強力な後押しは、彼らが法案を審議にかけるための絶好の「大義名分」となるだろう。

民主党内にもエリザベス・ウォーレン議員のように厳しい規制を求める声はあるが、業界がこれほどまでに「消費者保護」や「開示ルールの簡素化」を具体的に提案している以上、全面的な反対は難しくなっている。超党派での合意形成に向けた土壌は、かつてないほど整っているといえる。

市場の安定化がもたらす機関投資家の流入

もしClarity Actが審議を経て成立すれば、市場に与える影響は計り知れない。最大のメリットは「法的リスクの除去」だ。これまで規制の不透明さを理由に参入を控えていた大規模な機関投資家や伝統的な金融機関が、明確なルールの下で本格的に暗号資産市場へ資金を投じ始めることが予想される。

また、開発者が「いつ訴えられるかわからない」という恐怖から解放されることで、米国発の革新的なWeb3サービスが再び活発に生まれるようになるだろう。これは、暗号資産の価格だけでなく、エコシステム全体の健全な成長に大きく寄与するはずだ。

FTX元CEOの動向、再審請求の取り下げと今後の見通し

FTX元CEOの動向、再審請求の取り下げと今後の見通し

規制の話題とは別に、暗号資産業界の負の歴史を象徴する人物にも動きがあった。崩壊した暗号資産取引所FTXの創設者、サム・バンクマン=フリード(SBF)氏が、新たな裁判を求める請求を一旦取り下げたことが報じられている。

サム・バンクマン=フリード氏の控訴手続きの現状

7つの詐欺および共謀の罪で有罪判決を受け、現在25年の禁錮刑に服しているSBF氏は、当初、自分は公正な審理を受けられなかったとして新しい裁判を要求していた。しかし、CoinDeskの報道によれば、同氏はこの請求を撤回したという。

ただし、これは完全に諦めたわけではないようだ。SBF氏は、現在進行中の直接控訴の結果や、裁判官の交代要請に対する判断を待ってから、再び再審を求める可能性があるとしている。業界が新しいルールを求めて前進しようとする一方で、過去の不正に対する法的な清算もまた、着実に続いている。

この記事のポイント

  • CoinbaseやRippleなど100社以上の企業が、米上院に「Clarity Act」の早期審議を求めた
  • 業界は「執行による規制」を終わらせ、SECとCFTCの役割を明確にすることを望んでいる
  • 非カストディアル開発者の保護や統一された情報開示ルールが優先課題として挙げられた
  • 米国の規制の遅れが、海外への投資と雇用の流出を招いているという強い危機感がある
  • FTXのSBF氏は再審請求を一旦取り下げたが、控訴プロセスは継続している
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