米下院委員会がビットコイン準備金法案を可決、トランプ大統領令の恒久法化へ前進

米下院金融サービス委員会は9月17日、トランプ大統領が進めるビットコイン準備金政策を法律として固定する法案を可決した。採決は28対21だった。

法案名は「2026年米国準備金近代化法(H.R. 8957)」。財務省内に戦略的ビットコイン準備金とデジタル資産備蓄を新設し、政府が民事・刑事没収で取得したビットコインを対象とする。

大統領令は政権交代で覆る可能性があるが、法律化されれば議会の承認なしに政策を変更できなくなる。米国におけるビットコインの位置づけを左右する重要な一歩だ。

法案の概要と採決の結果

法案の概要と採決の結果

28対21の採決が示すもの

法案は5月21日にニコラス・ベギッチ下院議員(共和党)が提出し、約4カ月の審議を経て委員会を通過した。金融サービス委員会での採決は28対21。共和党が多数を占める委員会構成を反映し、賛成が上回った形だ。

法案は「2026年米国準備金近代化法(American Reserve Modernization Act of 2026)」という名称で、通称はARMA。財務省内に戦略的ビットコイン準備金と、それとは別のデジタル資産備蓄を設けることが柱になる。

対象となるのは、民事および刑事没収を通じて連邦政府が取得したビットコインとその他のデジタル資産。新規に市場で買い付ける仕組みではなく、まずは政府がすでに保有する資産を制度的に位置づける内容だ。

提出者ベギッチ議員の問題意識

ベギッチ議員は採決に先立ち、政府がビットコインを断片化され一貫性のない管理下に放置することは許されないと述べた。深刻なサイバーセキュリティリスクを招き、連邦政府が実際に何を所有しているのかを適切に説明できていないと指摘している。

この発言は、政府全体でデジタル資産の管理体制が統一されていない現状への問題提起だ。省庁ごとに別々のウォレットや記録方式が使われ、全体像が見えにくいことが法案提出の背景にある。

戦略的ビットコイン準備金とは何か

戦略的ビットコイン準備金とは何か

戦略的ビットコイン準備金とは、政府がビットコインを国家の準備資産として保有する仕組みを指す。金や外貨の準備金と同じ発想で、米国政府がビットコインを長期保有することを制度的に位置づける。

トランプ大統領は大統領令でこの準備金を設置する方針を示していた。今回の法案は、その行政措置を法律に格上げする取り組みになる。

政府はどれだけビットコインを持っているのか

ブロックチェーン分析のアーカム・インテリジェンスによれば、米国政府は執筆時点で32万4,527ビットコインを保有していると推定される。金額にすると約247億ドル相当だ。この数字は刑事事件や民事訴訟で押収した資産の累積であり、市場で購入したものではない。

政府保有のビットコインはこれまで、事件の解決や裁判所の命令に応じて随時売却されてきた。売却のタイミング次第で市場に下落圧力がかかることもあり、保有方針の一貫性が課題だった。

大統領令と法律では何が違うのか

大統領令は行政権の範囲で出される命令であり、次の大統領が簡単に撤回できる。一方、法律は議会の多数決で成立し、変更には再び立法手続きが必要になる。ビットコイン準備金を法律で固定することは、政策の持続性を大きく高める。

ただし法律化したとしても、将来の議会が改正すれば変更は可能だ。あくまで政治的なハードルが上がるという意味であり、絶対に覆せないわけではない。

法案が定める主要ルール

法案が定める主要ルール

ARMAは準備金の設置だけでなく、管理と透明性に関する細かなルールを定めている。政府によるデジタル資産の扱い方を包括的に規律する内容だ。

透明性を高める報告義務

法案はすべての連邦政府機関に対し、現在保有・管理するデジタル資産の完全な会計報告を求める。加えて、四半期ごとの「プルーフ・オブ・リザーブ」報告と第三者監査の実施を義務づける。

プルーフ・オブ・リザーブとは、準備金の裏付けを暗号学的に証明する仕組みだ。金融機関が顧客から預かった資産を実際に保有していることを示すために使われる。政府が同じ仕組みを採用すれば、国民は政府の保有状況を継続的に検証できる。

州の参加を認める規定

特徴的な規定のひとつが、州政府が自らのビットコインを連邦準備制度(FRB)に預けることを認める点だ。連邦政府の準備金に州も参加できる仕組みを整えることで、州レベルのビットコイン保有を後押しする狙いがあるとみられる。

これまで複数の州が独自にビットコイン準備金の導入を検討してきた。連邦制度との接続が明確になれば、州ごとのばらつきを減らす効果も期待できる。

自己管理権の明文化

法案は民間のビットコイン所有と自己管理権も明確に肯定している。自己管理権とは、取引所などの第三者に預けず、自分で秘密鍵を管理する権利のことだ。秘密鍵を管理できることは、デジタル時代における金融主権・プライバシー・個人の自由の基本原則と位置づけている。

これは準備金の話とは別の論点に見えるが、米国の政策として個人のビットコイン保有を制限しないことを立法趣旨に含める意味がある。政府が準備金を持つ一方で、国民の利用を締め付けるような方向性ではないことを示す。

専門家はどう評価しているか

専門家はどう評価しているか

今回の委員会通過について、ビットコイン政策の専門家からは歴史的な前進と捉える声が出ている。

ビットコイン政策研究所の見解

ビットコイン政策研究所(Bitcoin Policy Institute)のコナー・ブラウン事務局長は9月17日、Xへの投稿で「ビットコイン政策にとって真に歴史的な一歩」と評価した。

同研究所はビットコインの公共政策上の意義を研究するシンクタンクで、政府による準備金保有を支持する立場で知られる。今回の法案についても、政策の持続性を高めるものとして歓迎している。

資産運用会社Striveの評価

資産運用会社ストライブ(Strive)のマット・コールCEOは5月、ARMAを「ワシントンから出てくる最も重要な暗号資産法制」と呼んだ。

コール氏はビットコインを企業や政府のバランスシートに組み入れる動きを提唱してきた人物だ。委員会通過はその路線が議会で現実味を帯びてきた証拠と受け止められている。

成立までの道のりと課題

成立までの道のりと課題

委員会の承認は重要な節目だが、法案成立までにはまだ複数の関門が残っている。今後は下院本会議での採決、上院での審議と採決、そして大統領署名という3段階を経る必要がある。

残る立法プロセスの壁

下院は共和党が多数を握るため、本会議を通過する可能性は比較的高い。一方、上院は議席差が小さく、法案の行方は不透明だ。暗号資産規制を巡る党派対立は根深く、民主党側の抵抗が予想される。

さらに大統領選挙を控えた時期の議会運営は日程が流動的になる。重要法案が選挙戦のあおりを受けて審議が遅れるケースも少なくない。

市場と政策への含意

法律化の最大の意味は、政府が保有するビットコインを最低20年間は売却できない点にある。この規定により、政府の売却が短期的な下落圧力になるリスクが制度として封じられる。

また、米国が国家レベルでビットコインを準備資産と認めることは、他国や機関投資家の判断にも影響を与えうる。一方で、法案は没収資産を準備金に振り向ける枠組みであり、新規購入の財源を伴うものではない。市場への直接的な買い支え効果は限定的とみるのが妥当だ。

予算中立の取得戦略を調査する規定も盛り込まれており、将来の追加取得の可能性は残されている。ただし、その具体化には別の立法措置や予算措置が必要になる見通しだ。

この記事のポイント

  • 米下院金融サービス委員会が戦略的ビットコイン準備金を法律で定める法案を28対21で可決した
  • 没収で政府が得たビットコインを最低20年間保有し、四半期ごとの準備金証明と第三者監査を義務づける
  • 州がFRBにビットコインを預ける制度や、個人の自己管理権の明文化も含まれる
  • 成立には下院本会議と上院の通過が必要で、上院では党派対立が激しく不透明
  • 政府保有ビットコインの売却リスクを制度として抑える点が市場にとって重要な意味を持つ
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