米国の暗号資産政策が、また一つ大きな転換点を迎えた。共和党のビル・カシディ上院議員とシンシア・ルミス上院議員の2人が、ビットコインマイニングの国内回帰を強力に推進する「Mined in America Act(米国採掘法)」を提出したのだ。
この法案は単にマイニング産業を支援するだけのものではない。ドナルド・トランプ大統領が打ち出した「ビットコイン戦略的備蓄」を法的に確立し、さらに中国製ハードウェアへの依存を断ち切るという、国家安全保障に直結する内容を含んでいる。
ビットコインが単なる投資対象から、国家の経済戦略における重要なピースへと格上げされようとしている。今回の法案がどのような背景で生まれ、業界にどのような影響を与えるのか、その詳細を紐解いていこう。
「Mined in America Act」が目指すマイニングの自国保護

今回提出された「Mined in America Act」の核心は、ビットコインマイニングのサプライチェーン全体を米国内に取り戻すことにある。法案を提出したカシディ議員は、デジタル資産のマイニングが米国経済の大きな一部であるとし、それを国内で行うべきだと強調している。
具体的には、マイニング施設やマイニングプール(複数の採掘者が協力して計算を行う仕組み)を対象とした、任意の「Mined in America」認証制度を創設する。この認証を受けるためには、いくつかの厳しい条件をクリアしなければならない。
最も重要な条件の一つが、いわゆる「敵対国」に関連する企業が製造したマイニング機器を段階的に廃止することだ。ここで言う敵対国とは、主に中国を指している。代わりに、米国製のマイニングハードウェアの使用を促進し、国内の製造業を支援する仕組みを整えるという。
現在、ビットコインの価格は約98,400ドル台で推移しており、マイニングの収益性は非常に高い水準にある。このような状況下で、マイニング産業を国家の管理下に置き、安全性を高める狙いがあるようだ。
マイニング(採掘)とは、ビットコインの取引を承認する作業のことで、膨大な計算能力を必要とする。この計算能力の指標をハッシュレートと呼ぶが、米国はこのハッシュレートにおいて世界シェアの約38%を占めるトップの座に君臨している。2位のロシアに2倍以上の差をつけているものの、その「中身」には大きな課題が残されているのだ。
中国製ハードウェアへの依存という「アキレス腱」

米国のマイニング業界が抱える最大のリスクは、採掘に不可欠なハードウェアのほとんどを中国企業に依存している点だ。サトシ・アクション・ファンドのデニス・ポーターCEOによると、ビットコインマイニング機器のなんと97%が、ビットメイン(Bitmain)とマイクロBT(MicroBT)という2つの中国メーカーによって製造されている。
この状況は、米国にとって安全保障上の大きな懸念材料となっている。もし中国政府がこれらの企業に対して、機器の供給停止やバックドア(不正アクセスのための裏口)の設置を命じれば、米国のマイニングインフラは一瞬にして危機に陥る可能性があるからだ。
実際に、2024年末から2025年初頭にかけて、米国の税関・国境警備局(CBP)がビットメイン製のASIC(マイニング専用機)数千台の輸入を一時停止するという事件が発生した。この際、機器が「違法に輸入された無線周波数デバイス」と誤認されたことが原因だったが、ルクソール・テクノロジーなどのマイニング企業は数ヶ月にわたる事業の停滞を余儀なくされた。
「Mined in America Act」は、こうした依存関係を打破するために、国立標準技術研究所(NIST)や製造業拡張パートナーシップ(MEP)の協力を仰ぐことも規定している。これらの機関が米国の製造業者を支援し、より安全でエネルギー効率の高いマイニング機器の開発を後押しする計画だ。
トランプ政権の「ビットコイン戦略的備蓄」を法制化へ

この法案のもう一つの柱が、トランプ大統領が署名した「ビットコイン戦略的備蓄」の設立に関する大統領令を、正式な法律として成文化することだ。大統領令は政権が変われば撤回される可能性があるが、法律として成立すれば、その継続性は格段に高まる。
戦略的備蓄とは、国が金(ゴールド)や石油を蓄えるように、ビットコインを国家資産として保有することを指す。ルミス議員は以前から、米国が保有する金を売却してビットコインを購入し、100万BTC(発行上限の約5%)を20年間にわたって保有する構想を掲げてきた。
法案では、国内で採掘されたビットコインをこの戦略的備蓄に優先的に組み込む「パイプライン」を作ることも検討されている。つまり、「米国で製造された機械を使い、米国のエネルギーで採掘されたビットコインを、米国の国家資産として蓄える」という完全な自国完結モデルを目指しているのだ。
このような動きは、ビットコインを単なるデジタル通貨としてではなく、米ドルの覇権を補完、あるいは守るための「戦略的コモディティ(商品)」として扱っていることを示唆している。暗号資産が国家のバランスシート(資産負債表)に載る時代が、現実味を帯びてきている。
独自の分析:マイニングが国家の「盾」になる理由

今回の法案は、ビットコインマイニングが持つ「エネルギー制御」と「技術的主権」という二つの側面を突いている。筆者の見解では、これは単なる産業保護ではなく、21世紀型の「デジタル国防」の形だと言える。
第一に、マイニングは電力網の調整弁として機能する。マイニング施設は電力需要が逼迫した際に即座に稼働を停止できるため、再生可能エネルギーの不安定さを補う役割を果たす。法案が「グリッド(電力網)を強化するエネルギーインフラ」に言及しているのは、マイニングを国内に留めることがエネルギー政策上のメリットになるからだ。
第二に、半導体製造の自国回帰だ。ASICの開発には最先端の微細化技術が必要であり、これは軍事転用可能なチップ技術とも密接に関連している。マイニング機器の製造を国内で行うことは、米国の半導体競争力を維持することと同義だ。
「Mined in America」というブランドは、将来的に「クリーンで安全なビットコイン」という付加価値を生むかもしれない。紛争ダイヤモンドを避けるように、投資家が「独裁国家の電力や技術を使わずに採掘されたビットコイン」を好んで選ぶようになれば、米国のマイニング産業は莫大なプレミアムを手にすることになるだろう。
この記事のポイント
- 米上院で「Mined in America Act」が提出され、ビットコインマイニングの国内回帰を目指す動きが本格化した。
- 中国製マイニング機器への97%という過度な依存を解消し、国家安全保障上のリスクを低減させる狙いがある。
- トランプ大統領が進める「ビットコイン戦略的備蓄」を法制化し、国家資産としてのビットコイン保有を強固にする。
- 国内で採掘されたビットコインを優先的に備蓄に組み込む、自国完結型のサイクル構築を目指している。
- マイニングは単なる収益手段ではなく、電力網の安定化や半導体技術の維持という国家戦略の一翼を担う。

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
分かりやすい解説で、ブロックチェーン革命の潮流を一般に広めることを目指す。初心者から上級者まで、最新情報を求めるすべての人に役立つ情報発信を心がけている。
