米地銀連合がZKsyncで預金トークン化網「Cari Network」構築、ステーブルコインに対抗

米国の地方銀行グループが、イーサリアム(ETH)のレイヤー2ソリューションであるZKsyncを活用した預金トークン化プラットフォーム「Cari Network」の開発を進めている。既存の銀行規制の枠組みを維持しながら、ブロックチェーン技術による即時決済の実現を目指す動きだ。

このプロジェクトには、ハンティントン・バンクシェアーズ、ファースト・ホライゾン、M&Tバンク、キーコープ、オールド・ナショナル・バンコープの5行が参加している。2026年の本格稼働を目標に、デジタル預金の発行、送金、償還のテストが実施される予定だ。

非銀行企業が発行するステーブルコインが台頭する中、伝統的な金融機関が自らのインフラを近代化し、顧客資金を銀行システム内に留めようとする戦略的な転換点となる可能性がある。規制当局の監視下にある銀行が直接デジタル通貨を扱うことで、信頼性と利便性の両立を図る狙いがある。

Cari Networkの概要と参加銀行の狙い

Cari Networkの概要と参加銀行の狙い

Cari Networkは、顧客の預金をデジタル形式の「トークン」に変換し、銀行間で即時に移動させるためのネットワークだ。記事によれば、このネットワークは銀行システムの外に資金を出すことなく、ブロックチェーン上の高速な決済レールを利用することを可能にする。

暗号資産市場ではビットコイン(BTC)が73,619ドル台、イーサリアム(ETH)が2,328ドル台で推移するなど、デジタル資産への関心が持続している。こうした中、地方銀行はステーブルコインなどの新興決済手段に預金が流出することを警戒しており、自らデジタル決済の主導権を握る必要があると判断した格好だ。

ステーブルコインとの決定的な違い

Cari Networkが発行するトークンと、テザー(USDT)やサークル(USDC)などのステーブルコインには大きな違いがある。ステーブルコインは通常、非銀行企業によって発行される「負債」だが、Cariのトークンは依然として各銀行のバランスシート上の「預金」として扱われる。

つまり、これらのトークン化された預金は、既存の銀行規制を遵守し、連邦預金保険公社(FDIC)の保護対象となる可能性がある。利用者にとっては、仮想通貨の利便性を享受しながら、伝統的な銀行が提供する安全性と法的保護を維持できるというメリットがある。

中堅銀行連合によるインフラ近代化

今回のプロジェクトを後押ししているのは、米国中堅銀行連合(MBCA)だ。地方銀行や中堅銀行は、JPモルガン・チェースのような巨大銀行に比べてテクノロジー投資の規模で劣る傾向にあるが、連合を組むことで最新のブロックチェーン基盤を共有し、競争力を高める戦略をとっている。

Cariのジーン・ラドウィグCEOは、銀行はデジタルマネーの次の段階に反応するのではなく、自ら主導すべきだと強調している。24時間365日の即時決済という、ステーブルコインが既に実現している利便性を、規制された銀行システム内で提供することが急務となっている。

技術基盤にZKsyncと「Prividium」を採用した理由

技術基盤にZKsyncと「Prividium」を採用した理由

Cari Networkの技術的な核となるのが、Matter Labsが開発する「Prividium」だ。これはZKsyncの技術をベースにした、許可型のプライベート・ブロックチェーンである。不特定多数が参加するパブリックチェーンとは異なり、承認された銀行のみが参加できる仕組みだ。

ZKsyncは「ZKロールアップ(Zero Knowledge Rollup)」という技術を使用している。これは、多数の取引をまとめて処理し、その正当性を「ゼロ知識証明(ZKP)」という数学的な手法で証明するものだ。これにより、高い処理能力と低コストな手数料を実現している。

プライバシーと規制準拠の両立

銀行業務において最大の課題となるのが、顧客のプライバシー保護と監査可能性の両立だ。ゼロ知識証明とは、特定の情報を明かさずに、その情報が正しいことだけを証明する技術だ。例えるなら、「生年月日を見せずに、成人であることを証明する」ような仕組みである。

Matter Labsのアレックス・グルチョフスキーCEOによれば、Prividiumを利用することで、銀行は取引の詳細な内容を公開することなく、規制当局が必要な時に監査を行える環境を構築できる。つまり、ブロックチェーンの透明性と、金融機関に求められる守秘義務を同時に満たすことができるということだ。

サイロ化したデータベースからの脱却

従来の銀行システムは、各銀行が個別のデータベースを持ち、それらを繋ぎ合わせることで送金を行っている。これに対し、ブロックチェーンは「共有されたプログラム可能なインフラ」として機能する。グルチョフスキー氏は、これを計算機がスタンドアロンのPCからネットワーク化されたクラウドへ移行した歴史になぞらえている。

預金がトークン化され、共通のインフラ上で動くようになれば、銀行間の資金移動に伴うタイムラグやコストが大幅に削減される。これは単なる決済の高速化にとどまらず、スマートコントラクト(自動実行される契約)を用いた高度な金融サービスの土台となる。

ステーブルコイン市場への影響と競争環境

ステーブルコイン市場への影響と競争環境

Cari Networkの登場は、現在ステーブルコインが支配しているデジタル決済市場に一石を投じることになる。特に、B2B(企業間)決済や大口の資金移動において、銀行発行のトークンは強力な選択肢となる可能性がある。

ステーブルコイン発行体は、受け取った現金を米国債などで運用して利益を得ている。これに対し、銀行が預金をトークン化すれば、その資金は引き続き銀行の貸出原資として活用できる。銀行にとっては、預金基盤を維持しながらデジタル化に対応できるため、ビジネスモデル上の親和性が極めて高い。

規制の壁と「逆襲」のシナリオ

これまで暗号資産業界は「既存の金融システムを置き換える」ことを標榜してきたが、現実は伝統的な金融機関がその技術を取り込み、自らのシステムを強化する「逆襲」のシナリオが進んでいる。ドイツ銀行なども同様にパブリックかつ許可型のレイヤー2構築を検討しており、世界的な潮流となっている。

ステーブルコインに対しては、マネーロンダリング対策(AML)や顧客確認(KYC)の不備を指摘する声が根強い。一方、Cari Networkに参加する銀行は既に厳格な規制をクリアしており、コンプライアンスの面で圧倒的な優位性を持つ。規制当局にとっても、身元の確かな銀行が運営するネットワークの方が管理しやすいのは明白だ。

2026年の稼働に向けた課題

ただし、2026年の稼働までには課題も残されている。異なる銀行間で発行されたトークンの相互運用性や、預金保険の適用範囲に関する法的な整理が必要だ。また、パブリックチェーンとの接続性をどの程度持たせるかも、利便性を左右する重要な要素となる。

記事によれば、参加銀行は今後、トークンの発行から転送、そして法定通貨への払い戻しに至る一連のプロセスを厳格にテストする予定だ。これが成功すれば、米国内の他の地方銀行も追随する可能性が高く、銀行預金のデジタル化が一気に加速する可能性がある。

独自の分析:銀行による「walled garden」の構築とその先

独自の分析:銀行による「walled garden」の構築とその先

Cari Networkの試みは、ブロックチェーンの技術を使いながらも、その本質である「オープン性」を制限した「クローズドなエコシステム」の構築と言える。これは金融の安定性を守るためには合理的な選択だが、暗号資産が持つ「誰でも参加できる」というイノベーションの源泉を損なう側面もある。

しかし、注目すべきは、銀行が自らの「サイロ(孤立したシステム)」を壊し、他行と共通の台帳を共有し始めた点だ。これは、かつて銀行ごとに異なっていた通信プロトコルが、インターネットという共通言語に集約されていった過程に似ている。最初は許可された参加者のみの「イントラネット」として始まるが、技術の成熟とともにパブリックなエコシステムとの境界線は曖昧になっていくだろう。

筆者の見解では、将来的には「銀行トークン」と「ステーブルコイン」は共存し、用途によって使い分けられるようになると考える。高額な企業間決済や給与振込には信頼性の高い銀行トークンが使われ、分散型金融(DeFi)やグローバルな小口決済にはステーブルコインが使われるという棲み分けだ。Cari Networkの成功は、ブロックチェーンが「特殊な資産のための技術」から「社会の基盤インフラ」へと脱皮する重要なステップとなるだろう。

この記事のポイント

  • 米地方銀行5行が、預金をトークン化する「Cari Network」を開発中。
  • 技術基盤にはZKsyncのプライベート版「Prividium」を採用し、プライバシーと規制準拠を両立。
  • ステーブルコインに対抗し、銀行規制とFDIC保険の枠内で即時決済の実現を目指す。
  • 2026年の本格稼働を予定しており、銀行システムの近代化に向けた大きな一歩となる。
  • 伝統的金融がブロックチェーン技術を「逆輸入」し、デジタル決済の主導権奪還を図る動き。

出典

  • CoinDesk「U.S. regional banks building tokenized deposit network on ZKsync to rival stablecoins」(2026年3月17日)
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