米国上院において、長らく停滞していた暗号資産市場構造法案が大きな転換点を迎えている。上院銀行委員会のティム・スコット委員長は、法案の進展を阻んでいた主要な争点について、今週中にも妥協案が提示されるとの見通しを明らかにした。
この法案は、米国における暗号資産の規制枠組みを明確化する極めて重要な意義を持つ。特にステーブルコインの利回り支払いを巡る銀行業界と暗号資産業界の対立が解消されれば、法案成立に向けた道筋が大きく開けることになる。
停滞する暗号資産市場構造法案に「今週中」の進展

2026年3月17日、ワシントンD.C.で開催された暗号資産ロビー団体「デジタル商工会議所(The Digital Chamber)」のイベントにおいて、ティム・スコット上院議員は法案の現状について言及した。同氏によれば、今週中には最初の妥協案が手元に届く予定だという。
ビットコイン(BTC)が73,962ドル前後で推移し、市場が規制の動向を注視する中、この発言は大きな波紋を呼んでいる。スコット氏は、妥協案が予定通り提示されれば、法案はより良好な状態に向かうと自信を示した。上院銀行委員会は1月に法案の採決(マークアップ)を無期限延期していたが、水面下での交渉が実を結びつつあることを示唆している。
下院「CLARITY Act」との整合性
現在上院で議論されているのは、昨年7月に下院を通過した「CLARITY Act」に相当する上院版の市場構造法案だ。CLARITY Act(ステーブルコイン決済の支払いに関する透明性法案)は、ステーブルコインの発行体に厳格な準備金管理を義務付ける一方、規制の明確化を目指している。
上院では、証券取引委員会(SEC)を管轄する銀行委員会と、商品先物取引委員会(CFTC)を管轄する農業委員会の二つが暗号資産規制に関与している。農業委員会はすでに1月に法案を本会議に送付しており、銀行委員会の動向が法案全体の成否を握る状況が続いていた。
ステーブルコインの利回り規制を巡る対立構造

法案交渉が難航している最大の要因は、第三者によるステーブルコインの利回り支払い(イールド・ペイメント)を禁止する条項の是非だ。この問題は、銀行業界と暗号資産取引所などのサービスプロバイダーの間で激しい対立を引き起こしている。
ステーブルコインとは、米ドルなどの法定通貨と価値が連動するように設計された暗号資産を指す。利回り支払いとは、特定のプラットフォームにステーブルコインを預けることで、ユーザーが報酬を得られる仕組みのことだ。この仕組みは、暗号資産取引所が顧客を引きつけるための主要な手段となっている。
銀行業界の懸念と預金流出リスク
銀行業界のロビー団体は、暗号資産取引所による利回り支払いが「GENIUS Act」の抜け穴になっていると主張している。GENIUS Actは、ステーブルコイン発行体自体が利回りを支払うことを禁止している法律だ。
銀行側は、高利回りのステーブルコインに資金が流れることで、従来の銀行預金が流出する「預金逃避(Deposit Flight)」を危惧している。これが進行すれば、銀行システムの安定性が損なわれるとの論理を展開し、第三者による利回り支払いも全面的に禁止すべきだと求めている。
暗号資産業界による反論と競争原理
対する暗号資産業界のロビー団体は、銀行側の主張を「反競争的行為」であると非難している。取引所側は、利回りの提供は正当な商行為であり、これを禁止することはイノベーションを阻害し、消費者の選択肢を奪うことになると反論している。
スコット氏によれば、この利回り問題は「最も公に議論されている課題」であるが、他にも交渉すべき点は多いという。同氏は、過去30日間で大きな進展があったと述べており、業界間の溝を埋める具体的な妥協案が形成されつつあることを強調した。
法案成立に向けた残された課題と交渉の現状

ステーブルコインの利回り以外にも、法案には解決すべき複数の論点が存在する。スコット氏は、倫理規定や分散型金融(DeFi)、そして「誰が規制の対象となり、誰が除外されるか」という適用範囲の問題を挙げた。
DeFi(Decentralized Finance)とは、中央集権的な管理者を介さずにブロックチェーン上で提供される金融サービスを指す。DeFiを既存の金融規制の枠組みにどう当てはめるかは、技術的な難易度も高く、規制当局間でも意見が分かれている。これらの課題は利回り問題に比べれば目立たないが、法案の実効性を左右する重要な要素だ。
上院における二つの委員会の役割分担
米国上院の手続き上の規則により、暗号資産市場構造法案は二つの委員会が監督している。これは、暗号資産が「証券」としての側面と「商品(コモディティ)」としての側面を併せ持つためだ。
SECを監督する銀行委員会と、CFTCを監督する農業委員会の足並みが揃うことが、法案の本会議通過には不可欠となる。農業委員会が先行して法案を送付した一方で、銀行委員会のスコット氏が「勢いは我々の側にある」と述べたことは、両委員会の調整が最終段階に入った可能性を示唆している。
独自分析:米国における暗号資産規制の転換点

今回のスコット委員長の発言は、米国の暗号資産規制が「執行による規制」から「立法による明確化」へと移行する重要なシグナルだ。これまでSECなどの当局は、既存の法律を個別のプロジェクトに適用する形で取り締まりを行ってきたが、これは予測可能性を欠くとして業界から強く批判されてきた。
市場構造法案が成立すれば、どの資産がSECの管轄(証券)で、どの資産がCFTCの管轄(商品)であるかが明確になる。この区分けは、機関投資家が安心して市場に参入するための大前提となるものだ。特にステーブルコインの利回り問題で妥協点が見つかれば、それは伝統的金融と暗号資産が共存するための「米国内でのルール」が確立されることを意味する。
また、銀行業界が「預金流出」を懸念しているという事実は、裏を返せばステーブルコインがすでに無視できない規模の金融インフラとして認識されている証拠でもある。妥協案の内容が、銀行による暗号資産サービスへの参入を容易にするものになるのか、あるいは厳格な分離を維持するものになるのかが、今後の市場の流動性を左右するだろう。米国が明確な法枠組みを構築できれば、停滞する世界の暗号資産規制における「ゴールドスタンダード」となる可能性が高い。
この記事のポイント
- 米上院銀行委員会のスコット委員長が、暗号資産法案の妥協案を今週中に受け取る見通しを示した。
- 最大の争点は、取引所などによるステーブルコインの利回り支払いを禁止するかどうかの規制条項である。
- 銀行業界は預金流出のリスクを懸念し、暗号資産業界は反競争的な規制であると主張して対立している。
- 法案にはDeFiの扱い、倫理規定、規制の適用範囲など、他にも解決すべき重要な課題が残されている。
- 法案が成立すれば、米国における証券(SEC管轄)と商品(CFTC管轄)の境界が明確になり、市場の透明性が高まる。
出典
- Cointelegraph「Key US senator eyes breakthrough for stalled crypto bill this week」(2026年3月18日)

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