Vitalik Buterin氏、Ethereum次期大改修はThe Merge級、3〜4年計画を発表

イーサリアム共同創設者Vitalik Buterin氏が、ネットワークの長期ロードマップ「Lean Ethereum(リーン・イーサリアム)」の詳細を明らかにした。この計画は過去最大級のアップグレードと位置づけられ、イーサリアムの基盤技術のほぼ全てを刷新する内容だ。

X(旧Twitter)への投稿によれば、この改修は単一の大規模アップデートではなく、3年から4年にわたる一連の改良として実行される。Buterin氏はこれを「The Mergeに匹敵する、イーサリアムの第三のメジャーイテレーション(大きな進化段階)」と呼んでいる。

この記事では、今回明らかになった計画の核心、すなわちストレージ構造の変更、量子耐性とプライバシーの優先度引き上げ、そしてイーサリアムのエンジンとも言えるEVMの将来的な置き換え構想について、その意義と影響を紐解いていく。

Lean Ethereumとは何か、「第三のメジャーイテレーション」の実像

Lean Ethereumとは何か、「第三のメジャーイテレーション」の実像

The Mergeに匹敵する規模の非連続的な進化

Buterin氏が言及した「The Merge(ザ・マージ)」は、2022年9月に実施された、イーサリアムの合意形成の仕組みをプルーフ・オブ・ワークからプルーフ・オブ・ステークへと切り替えた歴史的なアップグレードだ。この変更により、ネットワークのエネルギー消費は99%以上削減された。

今回のLean Ethereumは、The Merge以来の大規模なプロトコル刷新と位置づけられている。Buterin氏は「プロトコルのほぼすべての主要部分が置き換えられる」と述べており、単なる機能追加の段階を超えた、ネットワークの再設計に近い取り組みであることを示唆している。

2026年後半以降、段階的に展開される長期計画

このロードマップは、イーサリアム財団の研究者Justin Drake氏が2026年2月に公開した「Strawmap(ストローマップ)」に基づいている。2029年までの7回のネットワークアップグレードを概説したこの草案は、6月下旬にベルリンで開催されたイーサリアム研究者会議を経て更新された。

Buterin氏は、2026年内に予定されているアップグレード「Hegota(ヘゴタ)」が、従来型テーマの最後のハードフォークになるだろうとの見通しを示した。これはつまり、2027年以降に実施されるほぼ全てのアップグレードが、Lean Ethereumの枠組みに組み込まれることを意味する。既存の分散型アプリ(dApps)を破壊することなく、この移行を実現する方針だ。

ストレージ構造の抜本的見直し、手数料は最大10分の1に

ストレージ構造の抜本的見直し、手数料は最大10分の1に

「最も破壊的な変更」になるストレージの二層化

今回の計画で「おそらく最も破壊的な部分」とButerin氏が評するのが、イーサリアムのデータ保存方法の再設計だ。現在、トークンの残高情報や取引所のスマートコントラクトといった「状態データ」は、すべて同一の高コストなシステム上で管理されている。この状態データはネットワークの「台帳」のようなもので、全ノードが保持する必要があるため、肥大化すると高い維持コストがかかる。

新たな計画では、複雑なアプリケーション向けの既存システムを維持しつつ、より簡易なアプリケーション向けの安価な「新しいストレージ層」を追加する。Buterin氏が描く2030年のイーサリアムでは、この新ストレージ層が旧来の層の50倍ものデータを保持する可能性があるという。

大部分のトークンやNFTが恩恵を受ける可能性

Buterin氏は、大半のトークンやNFT(非代替性トークン)、DeFiアプリはこの新しい安価な層で運用できると見ている。複雑な仕組みを持つUniswapの取引所コントラクトのような例外は、当面既存のシステムを使い続けることになるが、アプリ開発者に移行が強制されることはない。

しかし、新システム向けにトークンを再設計することで、取引手数料を10分の1以下に抑えられるとの試算を示しており、移行への強い経済的インセンティブが働く設計になる。手数料の高騰に悩まされてきた小口のユーザーや、発行コストを抑えたいNFTプロジェクトにとって、これは大きなインパクトを持つ変更だ。

量子耐性とプライバシーが「最優先事項」に格上げ

量子耐性とプライバシーが「最優先事項」に格上げ

量子コンピュータの脅威に先手を打つ

Buterin氏は、量子耐性(量子コンピュータによる解読への耐性)の優先度が「大幅に引き上げられた」と明言した。量子コンピュータとは、従来のコンピュータとは全く異なる原理で動作し、現在の暗号技術を破る計算能力を持つとされる次世代のコンピュータだ。これが実用化されれば、ブロックチェーンを守る暗号が危険にさらされる可能性がある。

ロードマップでは、その脅威が現実になる前に、脆弱なコンポーネントを全て置き換えることを目標としている。特に緊急性が高いとされたのが、レイヤー2ネットワークが低手数料を維持するために依存する一時データ保存領域「blob(ブロブ)」の量子安全な設計だ。この作業はすでに数ヶ月前から進行中で、開発が急がれている。

「後付け」から「第一級の目標」へと昇格したプライバシー

プライバシーも同様に、大きな位置づけの変化を遂げた。Buterin氏は「プライバシーはもはや後付けの課題ではない、第一級の目標だ」と述べ、現在では新機能は最初から「プライバシー取引がどう機能するか」を中心に設計されていると説明する。

この考え方は、Buterin氏が主導してきた「Kohaku(コハク)」ウォレットフレームワークなどの取り組みをさらに推し進めるものだ。Strawmapが掲げる五つの「北極星(最上位)目標」には、長期的に安全な量子耐性ネットワークと、サードパーティではなくベースレイヤーに直接組み込まれたETHのプライベート送金が含まれている。

議論を呼ぶ「イーサリアムエンジン」の置き換え構想

議論を呼ぶ「イーサリアムエンジン」の置き換え構想

EVMからRISC-VやleanISAへの移行案

Buterin氏は、イーサリアム上のすべてのアプリケーションを動作させるソフトウェア環境「EVM(イーサリアム仮想マシン)」の長期的な置き換えについても改めて言及した。EVMとは、簡単に言えば、開発者がスマートコントラクトを実行するための「標準化されたコンピュータ」のようなもので、イーサリアムの心臓部にあたる。

その代替候補として最も有望視されているのが、RISC-V(リスクファイブ)とleanISA(リーンアイエスエー)という二つの異なる計算アーキテクチャだ。これらは、現在のEVMよりも効率的で、取引が正しいことを数学的に証明するコストを大幅に下げられると期待されている。これは、ゼロ知識証明と呼ばれる技術を用いてプライバシーを高める上でも重要な要素だ。

しかしButerin氏自身、その実現は「まだ遠い先の話だ」と認めている。この構想は2025年4月に初めて提起されて以来、論争の的となってきた。Arbitrumのコア開発チームであるOffchain Labsの研究者らは、WebAssembly(WASM)の方がより優れた選択肢だと主張しているが、今回Buterin氏が挙げた候補にWASMの名前はなかった。

既存アプリを壊さない「翻訳層」を介した段階的移行

Buterin氏が理想とする最終形は、ネットワークが完全に新しいエンジン上で動作し、現在のEVMは「翻訳層」として残存する形だ。これにより、既存のアプリケーションはコードを書き換えることなく、そのまま動作し続けることができる。

移行は段階的に行われる。まずは内部的で限定的な用途に新しい形式を導入し、次に開発者がその形式でアプリを書けるようにし、最後の段階でEVMを退役させるという手順だ。この手法は、The Mergeでも取られた「機能を壊さずにエンジンを交換する」アプローチを踏襲している。

タイムラインとイーサリアム財団再編の影響

タイムラインとイーサリアム財団再編の影響

処理能力は段階的に向上、GlamsterdamとHegotaの行方

Buterin氏は、今後約5年間、イーサリアムの処理能力(キャパシティ)は着実に向上し続けるとの見通しを示した。具体的には、「Glamsterdam(グラムステルダム)」アップグレードで、1ブロックあたりの取引処理枠を拡大するガスリミットの大幅な引き上げが予定されている。Glamsterdamは当初2026年前半の実施が見込まれていたが、まだ稼働しておらず、その後にHegotaが続くスケジュールだ。

「より小さな船」としてのイーサリアム財団

この発表は、イーサリアム財団が全従業員の約20%にあたる54名を削減する大規模な組織再編を完了してから、およそ1週間半後に行われた。Buterin氏は締めくくりとして「Ethereum is CROPS(イーサリアムはCROPSだ)」と記した。これは、検閲耐性(Censorship resistance)、オープンソース(open source)、プライバシー(Privacy)、セキュリティ(Security)という、財団が重点を置くべきと彼が提唱してきた四つの特性の頭文字をとったものだ。

研究者の離脱が報じられる中、大規模なリストラと長期ロードマップの公表が同時期に行われたことは、コミュニティに「引き締まった体制で長期的な技術開発に集中する」という強いメッセージを送る形となった。

この記事のポイント

  • Vitalik Buterin氏が発表した「Lean Ethereum」構想は、3〜4年かけてイーサリアムの基盤をほぼ総入れ替えするThe Merge級の大規模計画である。
  • ストレージ構造の二層化により、多くのトークン取引手数料が10分の1以下になる可能性があり、ユーザーと開発者の双方に大きな恩恵が期待される。
  • 量子コンピュータへの耐性と取引プライバシーが、後付けの課題からロードマップの最優先目標へと格上げされた。
  • EVMをRISC-Vなどに置き換える長期的構想は議論を呼んでいるが、既存アプリを壊さない段階的な移行が検討されている。
  • 大規模な組織再編を経たイーサリアム財団は、「より小さな船」として長期的な技術開発にリソースを集中させる姿勢を明確にした。
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