ヴィタリック氏、イーサリアムの「ブロック構築」中央集権化を防ぐ新提案を公開

イーサリアムの共同創設者であるヴィタリック・ブテリン氏は3月2日、ネットワークの核心部における中央集権化のリスクを軽減するための新たなロードマップを公開した。

今回の提案は、トランザクションをブロックにまとめる「ブロック構築(Block Building)」のプロセスが、少数の有力な主体に独占されることを防ぐことに焦点を当てている。

イーサリアムは次期アップグレード「Glamsterdam(グラムステルダム)」で構造的な変革を予定しているが、ブテリン氏はそれだけでは不十分であるとの認識を示した。

イーサリアムが直面する「ブロック構築」の中央集権化リスク

イーサリアムが直面する「ブロック構築」の中央集権化リスク

イーサリアムのネットワークでは現在、ユーザーが送信した取引(トランザクション)を誰がどのような順序でブロックに組み込むかという点が、公平性の観点から大きな課題となっている。

現在のイーサリアムは、2026年3月時点で約2,000ドル前後で推移しているが、価格の安定性以上にプロトコルの堅牢性が重視されている。

次期アップグレード「Glamsterdam」では、PBS(Proposer-Builder Separation:提案者と構築者の分離)が正式に導入される予定だ。

PBSとは、ブロックを生成するバリデーター(提案者)と、トランザクションを効率的に並べる専門業者(構築者)の役割を分ける仕組みを指す。

バリデーターはネットワークの維持を行う参加者であり、構築者は収益を最大化するように取引を順序付ける役割を担う。

しかし、ブテリン氏は自身のブログ投稿で、単に構築者の市場を作るだけでは問題は解決しないと指摘している。

特定の少数のビルド(構築者)が市場を支配した場合、彼らが特定の取引を意図的に排除する「検閲」を行ったり、ユーザーから不当な利益を搾取したりするリスクが残るためだ。

PBS導入後も残る課題

PBSは本来、バリデーターがMEV(最大抽出可能価値)から得られる利益を公平に分配するために考案された。

MEVとは、マイナーやバリデーターがブロック内の取引順序を操作することで得られる追加利益のことだ。

しかし、構築作業が高機能なサーバーと高度なアルゴリズムを必要とするため、結果として少数の専門業者に権力が集中する傾向がある。

ブテリン氏は、この「構築者の独占」がイーサリアムの分散型という理念を脅かしていると警鐘を鳴らしている。

検閲耐性を強化する「FOCIL」の導入

検閲耐性を強化する「FOCIL」の導入

中央集権化した構築者による取引の拒否を防ぐため、ブテリン氏が提案した主要な策の一つが「FOCIL(Fork-Choice Inclusion Lists)」である。

FOCILは、特定の構築者が特定のユーザーの取引を意図的に無視できないようにするための、いわば「強制的な持ち込みリスト」として機能する。

この仕組みでは、ネットワーク参加者の中からランダムに選ばれた小規模なグループが、次のブロックに必ず含めるべき取引のリストを作成する。

もしブロック構築者がこのリストに含まれる取引を排除してブロックを作った場合、そのブロックはネットワークによって無効と見なされ、拒否される仕組みだ。

つまり、FOCILは「レストランのシェフ(構築者)が特定の客を拒否しようとしても、オーナー(リスト作成者)が提出した必須注文リストは必ず調理しなければならない」というルールを課すようなものである。

分散化されたバックストップとしての機能

FOCILの重要な点は、リストの作成者がランダムかつ分散的に選ばれることにある。

これにより、たとえ市場シェア100%を誇る巨大な構築者が現れたとしても、彼らが単独で特定のユーザーをネットワークから締め出すことは不可能になる。

この提案は、イーサリアムの「検閲耐性」をプロトコルレベルで保証するための強力なバックストップ(安全装置)となるとの見方が強い。

「有害なMEV」を排除するトランザクション暗号化

「有害なMEV」を排除するトランザクション暗号化

ブテリン氏がもう一つの焦点として挙げたのが、「有害なMEV(Toxic MEV)」の撲滅である。

有害なMEVの代表例には、フロントランニングやサンドイッチ攻撃が含まれる。

フロントランニングとは、他人の大きな買い注文を検知し、その直前に自分も買いを入れることで価格を吊り上げ、利益を得る行為だ。

サンドイッチ攻撃は、ユーザーの注文を自分の注文で「挟む」ことで、ユーザーに最悪の価格で約定させ、その差額を搾取する手法を指す。

これらは、未確定の取引が公開されている「メンプール」と呼ばれる待機場所で、悪意のある業者が内容を覗き見できるために発生する。

暗号化による不可視化の仕組み

この問題に対する解決策として、ブテリン氏は「トランザクションの暗号化」を提案している。

ユーザーが送信した取引の内容を、ブロックに組み込まれて確定する直前まで誰にも見えないように暗号化する技術だ。

中身が見えなければ、構築者やボットはフロントランニングを行うための判断材料を失うことになる。

これは「中身が見えない封筒に注文書を入れて提出し、全員の封筒が集まってから一斉に開封する」ような仕組みであり、情報の透明性が逆手に取られるリスクを排除する。

ネットワーク層の保護と分散型構築の未来

ネットワーク層の保護と分散型構築の未来

ブテリン氏は、ブロックチェーン上のデータだけでなく、データが伝播する「ネットワーク層」の脆弱性についても言及した。

取引がブロックに到達する前の段階で、通信経路上の仲介者がデータを観察し、情報を先取りするリスクが存在するためだ。

これに対抗するため、匿名ルーティングシステムの導入が防衛線として重要になるとの考えを示している。

匿名ルーティングとは、インターネット上の通信経路を複雑化し、誰がどこにデータを送っているかを特定困難にする技術である。

完全なグローバル調整からの脱却

長期的には、すべての取引を一つの巨大な束として処理する現在の方式から、より分散されたブロック構築への移行も視野に入れている。

イーサリアム上の活動の多くは、必ずしも厳密な全世界共通の順序付けを必要としない場合がある。

一部の処理を並列化したり、局所的に処理したりするデザインを採用することで、中央集権的なボトルネック(障害点)を減らすことができるという。

これにより、イーサリアムがスケール(規模拡大)しても、特定のインフラ事業者に依存しない構造が維持されることになる。

独自分析:分散化の焦点はバリデーターからインフラへ

独自分析:分散化の焦点はバリデーターからインフラへ

今回のブテリン氏の提案は、イーサリアムにおける「分散化」の定義が新たなフェーズに入ったことを示唆している。

かつて、分散化の議論は「誰がノードを運営し、誰がバリデーターになるか」という点に集中していた。

しかし、PoS(プルーフ・オブ・ステーク)への移行を経てバリデーター数が十分に確保された今、真の脅威は「誰が取引の順序を決めているか」という目に見えにくいインフラ層に移っている。

たとえ100万人のバリデーターが存在しても、ブロックの中身を作る構築者が2〜3社に集約されてしまえば、それは実質的な中央集権化に他ならない。

ブテリン氏が提示したFOCILや暗号化技術は、この「インフラの独占」に対する強力な牽制球となるだろう。

ユーザーにとっては、MEVによる隠れたコスト(スリッページや不当な価格)が削減されるという直接的なメリットがある。

一方で、これらの技術実装には複雑なプロトコルの変更が必要であり、ネットワークの遅延(レイテンシ)にどう影響するかが今後の議論の焦点となるはずだ。

この記事のポイント

  • ヴィタリック・ブテリン氏がブロック構築の中央集権化を防ぐ新提案を公開した。
  • 「FOCIL」の導入により、少数の構築者による取引の検閲を構造的に不可能にする。
  • トランザクションの暗号化によって、ユーザーの利益を奪う「有害なMEV」を排除する。
  • イーサリアムの分散化の焦点は、バリデーターの数から「構築プロセスの公平性」へとシフトしている。

出典

  • CoinDesk「Vitalik Buterin unveils plan to curb Ethereum block builder centralization」(2026年3月2日)
  • Vitalik Buterin’s Blog「Possible futures of the Ethereum protocol, part 2: The Surge」(2026年3月2日)
共有:

コメントする

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)