Western Unionが米ドルステーブルコイン「USDPT」を来月発行、国際決済網をSWIFTからブロックチェーンへ

国際送金大手のWestern Unionが、米ドル連動型のステーブルコイン「USDPT」を来月にも発行する計画を明らかにした。発表の場は2026年4月27日の第1四半期決算説明会だ。同社CEOのデビン・マグラナハン氏が構想の全容を語った。

この動きは175年の歴史を持つ決済企業が、既存の国際銀行間通信協会(SWIFT)網に依存しない新たな決済インフラを獲得することを意味する。単なる裏方のシステム更新に留まらず、最終的には暗号資産ウォレットからの現金化拠点や、ステーブルコイン専用カードの発行も視野に入っている。国際送金と暗号資産の融合が、大手既存企業の参入によって一気に加速する可能性が出てきた。

なお、Western Unionが発行するUSDPTは、連邦認可を受けた暗号資産銀行アンカレッジ・デジタルとの協業で発行され、ブロックチェーンはSolanaが採用されるという。以下、この発表がなぜ歴史的な意味を持つのか、具体的な計画の段階、そして他の競合動向も含めて詳しく見ていく。

Western Unionの新機軸、まずは「見えない」ところから始まる暗号資産戦略

Western Unionの新機軸、まずは「見えない」ところから始まる暗号資産戦略

今回の発表で最も注目すべきは、USDPTが当初、一般消費者向けサービスとして登場するわけではないという点だ。マグラナハンCEOは決算説明会で「我々はUSDPTをまず、消費者向けとしてローンチするわけではない。現在利用している国際銀行間決済ネットワーク『SWIFT』に代わるものとして導入する」と明確に述べている。

SWIFTとは、世界中の銀行が国際送金の指示をやり取りするためのメッセージネットワークだ。今や国際金融の大動脈だが、一つの問題がある。それは決済が銀行の営業日ベースでしか行われず、国や中継銀行の数によっては着金に2〜3日かかることも珍しくない点だ。

「裏方」としてのステーブルコインが解決する二つの課題

CEOの説明によれば、Western Unionのビジネスは今なおレガシーな銀行システムに依存している。具体的には、世界各国の送金代理人との間で決済する際に、稼働日と営業時間の制約を受ける上、決済が滞ることで多額の資本がシステム内に拘束されるという非効率を抱えてきた。

USDPTのようなステーブルコインを自社と代理人間の決済手段として採用すれば、理論上は週末や祝日を問わず、24時間365日のリアルタイム決済が可能になる。それだけでなく、決済待ちの遊休資本を大幅に圧縮できる。マグラナハン氏は「リアルタイムでの決済が可能になり、システム内に拘束される資本を削減できる」とその意義を強調している。

つまり、最初のステップは大胆な顧客向け新商品の発表というより、徹底的に現実的な内部コスト削減施策だ。だが、世界最大級の送金ネットワークを持つ企業が動けば、その影響は計り知れない。

二段階目の布石、暗号資産ウォレットを「現金化」する拠点網

二段階目の布石、暗号資産ウォレットを「現金化」する拠点網

内部決済の次に来るのは、デジタル資産と現実世界の接続だ。同社はUSDPTの導入と並行して、「デジタル資産ネットワーク(DAN)」という構想を進めている。

暗号資産ウォレットがWestern Unionの窓口になる日

デジタル資産ネットワーク(DAN)とは何か。簡単に言えば、MetaMaskやPhantomといった様々な暗号資産ウォレットの運営企業が、ユーザーに資金の出金先としてWestern Unionを提供できるようにする仕組みだ。ユーザーはウォレット上でデジタル資産を現地通貨に換え、最寄りのWestern Union拠点で受け取れるようになる。

Western Unionは世界200カ国以上に50万を超える拠点を持つ。このリアルな店舗網は、暗号資産にアクセスできても、最終的に現金が必要な層にとって極めて強力な「出口」となる。決算説明会によると、このネットワークに接続を希望する提携先のパイプラインは、すでに世界中で数千万規模の暗号資産ウォレットに相当するという。

消費者向け製品「Stable Card」、インフレ市場を狙う現実的な需要

消費者向け製品「Stable Card」、インフレ市場を狙う現実的な需要

そして三つ目の柱が、年内の展開を予定している「Stable Card」だ。これは利用者が日常の買い物でステーブルコイン建ての残高を使えるようにするカードで、既存の国際カード決済網を通じて利用できる。

ドルへのアクセスを「お守り」から「お財布」に

マグラナハンCEOは、このカードが特に有効な市場として「インフレに敏感な市場」を挙げている。年間数十パーセントの通貨価値下落に直面する新興国の人々にとって、米ドルは価値の目減りを防ぐための「避難先」だ。しかし、従来は銀行口座や両替商を通じて現物のドル紙幣を入手する必要があった。

Stable Cardはこれに対し、デジタル化されたドル(つまりUSDPTなどのステーブルコイン)を保持し、日常の支払いにも直接使えるユーティリティを提供する。資産保全の手段としてドルを「貯める」だけでなく、「使う」体験までシームレスに繋げようという発想である。CEOは当初、数十カ国での展開を視野に準備を進めていることを明らかにした。

送金業界に吹き荒れるブロックチェーン旋風、再編の行方

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Western Unionのこうした動きは、突如として出てきた奇抜なアイデアではない。むしろ、フィンテック企業や暗号資産ネイティブの決済事業者がブロックチェーンを武器に国境を越える送金市場を侵食しつつあることへの、現実的な危機感からの対応と見るのが自然だ。

競合が示した現実解、MoneyGramとStripeの例

分かりやすい例として、Western Unionと同様に国際送金事業を展開するMoneyGramがある。同社はサークル社が発行するUSDC(米ドル連動のステーブルコイン)を活用する方向にかじを切った。また、世界最大級の決済代行企業であるStripeも、決済に特化したブロックチェーン「Tempo」とともに独自のステーブルコイン基盤の構築を進めている。

つまり、既存のプレイヤーにとってブロックチェーンは、もはや検討段階の技術ではない。自社ネットワークの根幹を改革しなければ、コストとスピードで勝負にならない時代が到来しつつあるのだ。175年の歴史を持つWestern Unionが、それを最も雄弁に物語っている。

5兆ドル市場という巨大な予測値

この流れを裏付けるように、Juniper Researchの調査は、企業間(B2B)の国際的なステーブルコイン決済額が2035年までに5兆ドルに達すると予測している。2026年の推計は134億ドル程度であるため、この市場はわずか10年弱で文字通り桁違いの拡大を遂げる計算だ。

同リサーチによると、2035年の全ステーブルコイン取引額の85%は、この国際B2B決済が占めるという。投機目的の資産から、実需に根ざした決済手段へ。ステーブルコインの主戦場が大きく塗り替わろうとしている。この巨大な流れに、USDPTは名乗りを上げた格好だ。

この記事のポイント

  • Western Unionが米ドル連動型ステーブルコイン「USDPT」をSolana基盤で来月にも発行する計画を正式発表した
  • 第一段階では一般消費者向けではなく、自社の代理店間決済でSWIFTに代わる手段として利用し、24時間365日リアルタイムの資本効率改善を狙う
  • 今後の構想として、暗号資産ウォレットの資産を現地通貨で引き出せる「デジタル資産ネットワーク」や、特定市場向けの「Stable Card」展開が控えている
  • 背後には競合のブロックチェーン化と、2035年に5兆ドル規模に達するとされる国際B2Bステーブルコイン決済市場の成長予測がある
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