暗号資産のインフラストラクチャーを提供するZerohashが、欧州連合(EU)の新たな暗号資産規制「MiCA」の枠組みにおいて、重要なマイルストーンを達成した。オランダ中央銀行から電子マネー機関(EMI)ライセンスを取得し、MiCAライセンスとEMIの両方を保有する初の企業となったのだ。
この動きは、欧州の金融規制がステーブルコインを従来の電子マネーと同様の枠組みで扱う方針を明確にしたことを反映している。暗号資産と伝統的金融の融合が、制度面から急速に進みつつある証左だ。
この記事では、Zerohashのライセンス取得の背景にある規制の変化、同社の戦略的狙い、そして欧州市場におけるステーブルコインの今後について解説する。
二重ライセンスの先駆者、Zerohashの欧州戦略

MiCAライセンスに加え、EMIを取得した意味
Zerohash Europeは、5月18日の発表で、オランダ中央銀行(DNB)から電子マネー機関(EMI)ライセンスを取得したと明らかにした。EMIとは、法定通貨と一対一で価値が連動する電子マネー(プリペイドカードの残高や電子ウォレット内の資金など)の発行や送金などのサービスを提供できる資格だ。
同社はすでに2025年10月、オランダ金融市場庁(AFM)からEU全域で共通の暗号資産規制「MiCA」に基づく認可を得ていた。今回のEMIライセンス追加により、Zerohashは暗号資産と伝統的な電子マネー、その両方のサービスを単一の規制の傘の下で合法的に提供できる立場を確立した。
MiCAライセンス単体では、暗号資産交換業者やカストディ事業者としてEU域内で「パスポート」のように活動できる。しかし欧州銀行監督局(EBA)は、特定のステーブルコイン取引、特に「Eマネートークン」の流れには、既存の電子マネー指令に基づく追加の監督が必要だと判断していた。Zerohashはこの要請に応えた形だ。
規制当局が「ノーアクションレター」で示した線引き
背景にあるのは、EBAが2025年6月に発行した「ノーアクションレター」と、2026年2月の追加の明確化だ。これは、当局が即座に処罰(アクション)は取らないが、将来的には規制対象となる行為を前もって示す文書である。
EBAはこの文書で、「ステーブルコインを原動力とする金融フロー」を支援する企業はEMIライセンスを取得すべきだと明言した。つまり、USDCやEURCといった主要なステーブルコインを使って決済や送金サービスを提供する場合、それは事実上の「電子マネー」の発行・流通と見なされる、という解釈だ。
The Blockの記事によれば、これはステーブルコインを伝統的な金融システムにより深く統合しようとするEBAの試みとされている。規制のグレーゾーンをなくし、利用者保護と金融の安定を確保する意図だ。Zerohashの二重ライセンス取得は、この新たな規制の流れに完全に適合した最初の事例となった。
欧州で加速するZerohashの事業拡大

Interactive Brokersとの提携とアムステルダム拠点の強化
Zerohash Europeのマネージングディレクター、ロエランド・ゴールドバーグ氏は公式発表で「欧州にはステーブルコインの応用に関する巨大な市場がある」と述べている。この発表は、同社の欧州での勢いが加速する中で出されたものだ。
実際にZerohashはここ数カ月でアムステルダムの拠点を拡大し、大手オンラインブローカーであるInteractive Brokersの欧州法人を含むパートナー企業にサービスを提供し始めている。EMIライセンスの取得により、こうしたパートナーシップをさらに拡大し、銀行やペイメントプロバイダーと直接連携することが可能になる。
銀行やフィンテックと直接つながる「二重構造」の強み
Zerohashが今回の発表で特に強調したのは、銀行、証券会社、フィンテック企業、ペイメントプロバイダー、そして欧州市場で事業を展開するエンタープライズプラットフォームと直接協業できるようになった点だ。
EMIライセンスがない場合、暗号資産企業は顧客の法定通貨を直接取り扱うことが難しく、取引所を経由するなど複雑な工程が必要だった。しかし、Zerohashの新しい立場は「暗号資産の裏側にある資金の流れ」そのものを自社で完結できることを意味する。
これは具体的に言うと、あるフィンテック企業が自社アプリ内でユーザーにUSDC建ての支払い機能を提供したい場合、Zerohashが裏方として、そのユーザーのユーロ入金からUSDCへの交換、送金、さらにはその後の法定通貨への換金までを一貫して扱える、ということだ。規制の壁を越え、サービス提供のスピードと柔軟性を大きく高める。
資金調達と企業価値、揺れる買収話

シリーズD-2で評価額10億ドル、次の一手
Zerohashは2017年の創業以来、順調に資金調達を重ねてきた。直近では2025年9月、Interactive Brokersがリード投資家を務めたシリーズD-2ラウンドで約1億400万ドル(当時のレートで約150億円)を調達し、評価額は10億ドルに達している。これにより、ユニコーン企業の仲間入りを果たした。
世界の従業員数は約200人で、ニューヨーク、シカゴ、ノースカロライナ、そしてアムステルダムにオフィスを構える。同社はまた、米国通貨監督庁(OCC)にも「ナショナル・トラスト・バンク」の認可を申請しており、米国市場でも同様の規制対応を進めている。
マスターカードによる買収交渉の決裂と新たな資金調達
興味深いのは、Zerohashが大手決済ネットワークのマスターカードから買収の打診を受けていたという事実だ。Fortune誌の報道によると、その買収額は20億ドル規模に上るとされていたが、この交渉は最終的に決裂した。
The Blockの記事によれば、買収話が立ち消えとなった後、Zerohashは現在15億ドルの評価額でさらに2億5000万ドルの資金調達を協議中だと報じられている。規制対応を強みに変え、独自路線での成長を加速させる戦略は、投資家からも高く評価されているようだ。
欧州の暗号資産市場に与える影響

MiCAの「完全施行」を前にした布石
MiCAは2026年7月に全面的に施行される予定だ。この規制は、トークンの発行や取引、カストディ(保管)など、暗号資産に関するほぼすべての活動を対象としている。
Zerohashの二重ライセンス取得は、他社にとっての一つの「模範解答」となり得る。特に、ステーブルコインを事業の中核に据える企業や、既存のフィンテック企業が暗号資産領域に参入する際には、同様の対応が求められる可能性が高い。
「規制された仲介者」モデルの確立か
暗号資産の世界では長らく、「規制」と「イノベーション」はトレードオフの関係にあると考えられてきた。しかしZerohashの動きは、規制を積極的に取り込むことで、むしろ信頼性を獲得し、大手金融機関とのパイプを太くするという新たなパラダイムを示している。
とりわけ、銀行や既存のブローカーが暗号資産サービスを顧客に提供するには、間に立つインフラ事業者が盤石な規制基盤を持っていることが不可欠だ。Zerohashはそうした「規制された仲介者」としての地位を、欧州で誰よりも早く固めたことになる。
この動きが欧州の暗号資産市場に与える影響は小さくない。Zerohashのような存在が増えれば、銀行口座を持たない人々がステーブルコインで送金し、それを法定通貨に換えて日常の買い物をする、というユースケースが格段に実現しやすくなる。規制が整備されることで、技術が現実の社会インフラとして機能し始める、その入り口に立っていると言えるだろう。
この記事のポイント
- Zerohashがオランダ中央銀行からEMIライセンスを取得し、MiCAライセンスとの二重保有を実現した最初の企業となった
- 欧州銀行監督局(EBA)がステーブルコイン関連サービスにEMIライセンスを事実上要求したことを受けた対応である
- これにより、銀行やブローカーと直接連携し、暗号資産と法定通貨の流れをシームレスに提供できるようになる
- 買収交渉の決裂後も評価額は上昇しており、規制対応を成長のエンジンとする戦略が評価されている

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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