ビットコインが約7万6,000ドル台まで急落した。5月18日の夜、トランプ前大統領によるイランへの軍事的脅迫が伝わると、市場は一気にリスク回避モードに傾いた。原油価格の高騰とインフレ長期化への懸念が、買われ始めていた暗号資産市場の熱を再び冷ましている。
ビットコインは今週初め、現物ETFへの堅調な資金流入と米国の規制法案「Clarity Act」への期待感から、一時8万2,000ドル付近まで回復していた。今回の急落でその上昇分はほぼ帳消しとなり、市場心理を測る「Fear & Greed Index(恐怖と強欲指数)」も、週初の「中立」圏である40〜50台から、再び「恐怖」領域の27へと急低下している。
トランプ氏「何も残らない」、原油急騰

日曜日の夜、トランプ前米大統領は自身のSNS「Truth Social」にイランへの強い警告を投稿した。和平合意のこれ以上の遅れは「彼らに何も残らない結果になるかもしれない、だからとにかく急げ」という内容で、米国による軍事行動の可能性を示唆したものだ。この投稿が報じられると、中東の地政学的リスクがにわかに再燃し、原油先物市場は急伸した。
ブレント原油先物は前日比1.78%高の1バレル111.2ドル、WTI原油先物は2.2%高の107.7ドルで取引を終えた。原油高は物価上昇の源の一つ、つまりインフレを押し上げる要因である。これが市場にとって最大の火種となった。
インフレ長期化、利上げ観測が再燃
今回の原油急騰が嫌気された理由は、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策への影響だ。暗号資産取引所BTSEのCOO、ジェフ・メイ氏はThe Blockの取材に対し、「トレーダーたちは、高い原油価格とインフレが長期化し、FRBがその対策として金利を引き上げる可能性を懸念している」と指摘した。
実際に、この原油主導のインフレ懸念はすでに国債市場を直撃している。CNBCの報道によれば、政府債は大規模な売りに見舞われており、その利回りは12カ月ぶりの高水準まで急上昇した。国債利回りの上昇は、一言でいえば「お金の貸し出しコストの上昇」を意味する。安全資産である米国債の利回りが上がれば、リスクの高い暗号資産のような資産から資金が流出しやすくなる。
ETFから1,400億円流出、利上げ警戒

インフレ長期化が現実味を帯びる中、暗号資産市場の資金の出入りを示すETFの動きにも変化が現れた。ビットコイン現物ETFの資金フローは、このインフレ懸念と地政学的リスクの高まりによって急速に悪化している。
SoSoValueの集計データによると、直近の1週間(5月17日まで)で、ビットコインETFからは約10億ドル(約1,400億円)もの資金が純流出した。これは6週間続いていた資金流入の流れが断ち切られたことを意味する。
Presto Researchのアソシエイトリサーチャー、ミン・ジュン氏はこの現象を「FRBの利下げ期待が遠のく中、機関投資家が短期的なリスクを減らし、ポジションを現金や防御的な資産に切り替えている動きを反映している可能性が高い」と分析している。
安全資産とされる米国債の利回りが上昇する局面では、発行元のないビットコインのようなリスク資産は相対的に魅力が薄れる。今回の資金流出は、まさにそうしたマクロ環境の変化に対する機関投資家の敏感な反応と言える。
ビットコイン「健全な調整」の声、今後の焦点

7万6,000ドル台への急落はネガティブなニュースに映るが、一部のアナリストはこれを「健全な調整」と捉えている。市場が一方向に過熱せず、過剰なレバレッジ(借入による投資倍率)を解消するプロセスだと見る向きもある。
アナリストは強気、次の焦点は議会とFRB議長
Bitrue Research Instituteのリサーチ責任者、アンドリ・ファウザン・アジーマ氏はThe Blockの取材に対し、「今回の下落は、より大きな上昇トレンドの中での健全な消化局面に見える」との見解を示した。その上で、トレーダーが注目すべき次の焦点として、FRBの新しい議長に就任したケビン・ウォーシュ氏のインフレや金利政策に関する発言を挙げている。
「地政学とETFの資金フローは依然として不確定要素だが、構造的には強気に見ている。ビットコインは弱気のチャートパターンを突破し、ネットワークの基礎的条件も盤石だ」とアジーマ氏は指摘。下値のサポートラインとして7万4,000ドルを意識しつつ「反発を想定したポジションを取っている」と語った。
この見方は、短期的なノイズに惑わされず、ビットコインのブロックチェーンとしての基盤は何も変わっていないという事実に立脚している。ネットワークの安全性や分散性といった本質的価値が損なわれたわけではない、というわけだ。
鍵を握るClarity Actとインフレ指標
Presto Researchのミン・ジュン氏は、今後のビットコインが「より広範なマクロ市場との高い相関関係を維持する可能性が高い」と予測する。具体的には、米国のインフレ指標と国債利回りの動向が最大の注目点となる。同時に、暗号資産の法的地位を明確化する「Clarity Act」に意味のある進展があれば、それが市場心理の改善につながる可能性もあるという。
端的に言えば、ビットコインの次の方向性は、ウクライナや中東の戦争といった地政学リスクの行方よりも、米国の物価統計と連邦議会の法整備という、より制度的・経済的な要因によって決まる公算が大きい。短期的な値動きに一喜一憂するよりも、これらのマクロ指標の変化を追うことが重要になる。
この記事のポイント
- トランプ前大統領のイラン脅迫を受け地政学リスクが再燃、ビットコインは7万6,000ドル台へ急落した
- 原油高騰によるインフレ長期化とFRBの利上げ観測が投資家のリスク回避姿勢を強めている
- ビットコイン現物ETFからは約10億ドルの資金が純流出、6週間ぶりに流入の流れが途絶えた
- アナリストは今回の下落を「健全な調整」と見ており、7万4,000ドルのサポートとFRB議長・Clarity Actの動向が次の焦点となる

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