フランスの銀行最大手クレディ・アグリコルが、ユーロ連動型ステーブルコイン「EURXT」を正式に発表した。欧州連合(EU)の暗号資産規制MiCAに準拠し、資産管理子会社カセイス銀行がイーサリアム上で発行する。
すでにソシエテ・ジェネラルやサークルが先行する市場に、新たな巨大プレーヤーが参入した格好だ。37行が参加する銀行連合「キバリス」も独自コインの投入を準備しており、ユーロステーブルコイン市場は本格的な覇権争いの段階に入った。
EURXTの初回発行量は2000万トークン。カセイス銀行に保有するユーロ準備金で1対1の裏付けが取られている。すでにトークン化されたアムンディMMF(短期金融市場ファンド)の購入代金決済にも使用されており、実用段階にあることが強調されている点が注目だ。
EURXTの仕組みと裏付け構造

EURXT(EURO eXchange Token)は、1トークンが1ユーロと常に等価になるよう設計されたステーブルコインだ。発行体はクレディ・アグリコル傘下で資産管理・証券サービスを手がけるカセイス銀行で、同銀行が保有する法定通貨のユーロ準備金が全トークンを裏付ける。
いわゆる「法定通貨担保型」のステーブルコインであり、発行残高と同額のユーロが銀行口座で保管される仕組みだ。ユーザーが1EURXTを発行すれば1ユーロが預け入れられ、1EURXTを償還すれば1ユーロが引き出される。この単純な構造が価格の安定を支えている。
MiCA完全準拠が意味するもの
EURXTは2025年に全面施行されたEUの暗号資産市場規制(MiCA / Markets in Crypto-Assets)に準拠している。MiCAはステーブルコイン発行体に対し、十分な準備金の保持や運用ルールの開示、当局への認可取得などを義務づける包括的な規制枠組みだ。
簡単にいえば、銀行が発行するステーブルコインであっても「好き勝手に運用してよい」わけではなく、顧客資産の分別管理や定期的な監査報告が求められる。EURXTがMiCA準拠を明言しているのは、規制下で安心して使えるユーロ建てデジタル通貨という立ち位置を明確にする狙いがある。
イーサリアム上での発行と実用例
EURXTはイーサリアムブロックチェーン上で発行されている。イーサリアムはステーブルコイン発行で最も実績のあるネットワークであり、USDCやUSDTも大量に流通している。ERC-20規格に準拠しているとみられ、既存のDeFi(分散型金融)プロトコルやウォレットとの互換性も高い。
発表時点で、EURXTはすでに欧州最大級の資産運用会社アムンディが提供するトークン化MMF(短期金融市場ファンド)の購入決済に利用された。単なる構想段階ではなく、実際の金融取引で機能していることを示す事例だ。
欧州ステーブルコイン市場の競争構図

ユーロ建てステーブルコイン市場は、MiCA施行を契機に急速に拡大している。調査会社DECTAのデータによると、過去12カ月で時価総額は2倍以上に膨らんだ。ただし、米ドル建てステーブルコイン市場と比較すると、その規模はわずか0.5%にすぎない。
それでも欧州の主要金融機関が相次いで参入する背景には、デジタルユーロの議論が進む中で「民間発行のユーロステーブルコイン」の需要が高まるとの読みがある。EURXTはその最前線に立つ製品のひとつだ。
先行するソシエテ・ジェネラルのEURCVとサークルのEURC
EURXTの直接の競合となるのが、同じフランスの銀行ソシエテ・ジェネラルが発行するEURCV(EUR CoinVertible)と、USDCで知られるサークル社のEURCだ。
EURCVは2023年に登場し、すでに複数の機関投資家向け取引で使用実績がある。EURCはサークルのグローバルな流動性ネットワークを背景に、複数のブロックチェーンで発行されている。いずれもMiCA準拠を進めており、規制対応で横並びの状態だ。
クレディ・アグリコルは総資産でフランス第2位の銀行であり、ブランド力と顧客基盤ではEURCVを上回る。カセイス銀行の資産管理インフラを活用できる点も、長期的な競争優位につながる可能性がある。
37行連合「キバリス」の脅威
さらに注目すべき動きとして、欧州の37銀行が結集した「キバリス(Qivalis)」が2026年後半にも独自のユーロステーブルコインを投入する計画だ。参加行にはドイツ銀行やウニクレディトなど大手が名を連ねると報じられている。
キバリスの構想は、複数銀行が共同で単一のステーブルコインを発行・運営するというものだ。成功すれば、単独行が発行するコインより広範な決済ネットワークを構築でき、ユーロ圏全体をカバーするデファクトスタンダードになる可能性を秘める。
EURXTやEURCVにとっては、キバリスが本格稼働する前に市場シェアを固めておきたいタイミングといえる。2026年は各陣営の先行逃げ切りが勝負の年になる。
銀行発行ステーブルコインがもたらす変化

銀行がステーブルコインを発行することの最大の意味は、既存の金融システムとブロックチェーン経済の接続点が増える点にある。テザーやサークルのような暗号資産ネイティブ企業とは異なり、銀行は預金保険や規制遵守の実績、既存の法人顧客ネットワークを持つ。
EURXTのような銀行発行ステーブルコインが普及すれば、企業は取引銀行を通じて直接ステーブルコインを発行・償還でき、クロスボーダー決済やトークン化資産の取引が格段に効率化する。機関投資家の参入障壁も下がるため、暗号資産市場全体の流動性拡大にも寄与するだろう。
米ドル建て市場との格差と成長余地
前述のとおり、ユーロ建てステーブルコインの時価総額はドル建て市場の0.5%にすぎない。ドル建て市場がUSDTとUSDCの2強で1900億ドル超の規模を持つ一方、ユーロ建てはようやく数十億ユーロ台に乗った段階だ。
この格差は裏を返せば成長余地の大きさを示している。欧州中央銀行(ECB)がデジタルユーロの導入を検討する中、銀行発行ステーブルコインが「つなぎ」として機能する可能性もあり、今後の市場拡大ペースは加速する可能性がある。
規制がもたらす参入障壁と信頼性
MiCAはステーブルコイン発行体に厳格な要件を課す一方で、規制をクリアした事業者にはEU全域での単一ライセンスで事業展開を認める「パスポート制度」を提供する。つまり、フランスで認可を得たEURXTは、追加の許認可なしでドイツやイタリアでも提供できる可能性がある。
この仕組みは、規制対応力の高い大手銀行に有利に働く。無許可で発行される「規制回避型」のステーブルコインがEU市場から締め出される一方、EURXTのような準拠型コインはむしろ競争優位を確立しやすい構造だ。
この記事のポイント
- クレディ・アグリコルがMiCA準拠のユーロステーブルコインEURXTをイーサリアム上で発行
- 初回2000万トークン発行、カセイス銀行のユーロ準備金で全額裏付け
- ソシエテ・ジェネラルのEURCVやサークルのEURCと競合、37行連合キバリスも参入予定
- ユーロ建て市場はドル建て比0.5%の規模だが、規制整備を追い風に急拡大の可能性
- 銀行発行ステーブルコインの普及は、機関投資家の暗号資産市場参入を加速させる

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
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