暗号資産業界が長らく待ち望んだ包括的な規制枠組みが、米国でようやく動き出した。
2026年5月14日、米上院銀行委員会は「CLARITY法」を賛成多数で可決した。本会議での審議に進むことが決まった形だ。
重要なのは、これが単なる業界の後押しにとどまらない点だ。投票結果は党派色が強く、倫理規定を巡る対立が今後の成立を不透明にしている。
CLARITY法が銀行委員会を通過した舞台裏

CLARITY法とは、米国における暗号資産の規制を明確化するための法案だ。どの暗号資産が商品に該当し、どれが証券に該当するのか、長らく不透明だった境界線を引く狙いがある。
暗号資産取引所や発行体にとって、これは長年の課題だった。証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)の管轄が曖昧なまま、事業者は常に訴訟リスクと隣り合わせで動いてきたからだ。
委員会では13人の共和党議員全員と、民主党のルーベン・ガレゴ議員、アンジェラ・アルソブルックス議員の2人が賛成した。残る民主党議員は全員が反対票を投じている。
スコット委員長が宣言した「超党派」の実態
ティム・スコット委員長は可決後、「歴史的な超党派の採決」と発表した。1年近くに及ぶ誠実な超党派交渉の末に、共和党と民主党が合意に至ったと説明している。
しかし実態は異なる。採決はほぼ党議拘束に沿った結果であり、民主党からは2人しか賛成が出なかった。民主党議員が提出した修正案も採択されなかったことが、この主張と矛盾する。
ジャック・リード上院議員は、共和党側が民主党の懸念を恣意的に退けたと批判した。具体的には、暗号資産が犯罪に悪用されるリスクや、大統領が個人的な利益のために暗号資産プロジェクトを利用する可能性が争点になったという。
法案を巡って紛糾する倫理と国家安全保障の問題

委員会通過の段階で100以上の修正案が提出された。しかし、民主党が重視した項目の多くは最終草案に反映されなかった。
民主党側の反対理由は主に3つある。国際的なマネーロンダリング(資金洗浄)対策基準を満たしていないこと、分散型金融(DeFi)プロトコルを金融規制から外していること、暗号資産ミキサー(取引履歴を混ぜて追跡を困難にするサービス)の抜け道を塞いでいないことだ。
民主党が公開した反対声明では、現行の法案が犯罪者やテロ組織、敵対国に悪用される脆弱性を放置していると警告した。国家安全保障の観点からも問題があるとの立場だ。
大統領の利益相反を巡る火種
議論の中心には、トランプ大統領とその家族が関与する暗号資産事業もある。議会進歩派議員連盟は2025年6月、「大統領とその家族が暗号資産を通じて私腹を肥やし、汚職やホワイトハウスへのアクセス販売を可能にする法案に反対する」と表明した。
この連盟の声明によれば、CLARITY法の草案には大統領の利益相反を防ぐ条項が含まれていない。これは他の進歩派団体も問題視している。
米金融改革団体やデマンド・プログレス・アクションなどの連名書簡では、「強力な倫理規定のない法案は、消費者や投資家への詐欺、金融市場の歪曲と不安定化、競争阻害、長年の投資家保護法の骨抜きを招く」と厳しく批判された。
民主党議員への党内圧力
リベラル系政治メディアのライアン・クーパー氏は、暗号資産業界に賛同した民主党議員は予備選で対抗馬を立てられるべきだと主張した。「暗号資産ロビーに買収されることは許しがたい」との強い言葉も飛び出している。
この発言は一部の意見に過ぎないが、党内の空気感を示す指標ではある。本会議での採決を見据えると、民主党議員が党の方針に反して賛成に回るハードルは決して低くない。
暗号資産業界が期待する市場への影響

こうした政治的な不透明感とは裏腹に、暗号資産業界の反応は総じて楽観的だ。
暗号資産取引プラットフォーム「sFOX」のハビエル・マルティネスCEOは、今回の採決を「米国における暗号資産の規制上のアイデンティティ危機を解決する大きな一歩」と評価した。同氏は「議会は規制の曖昧さを、より明確な法的枠組みに置き換えようとしている。市場は明確さに反応する」と述べている。
クリプト・カウンシル・フォー・イノベーションのジフン・キム氏も、今回の投票で米国はデジタル資産分野での競争力を高めると指摘した。
投資家のカイル・シャッセ氏はX(旧Twitter)で「これは現物ETF以来の、暗号資産にとって最大の規制イベントだ」とコメントしている。
GENIUS法の再現はあるのか
市場関係者が特に注目するのは、2025年7月に成立したGENIUS法(ステーブルコイン規制法)との類似性だ。当時、法案成立から数週間でビットコインは過去最高値を更新した。
コインピックス・キャピタルのアレクサンダー・ロレンゾ氏は「GENIUS法はステーブルコインだけを対象にしていたが、CLARITY法は暗号資産市場全体をカバーする。より大きなインパクトが見込める」と述べている。
もちろん、これは期待値の話であり、確約された未来ではない。規制の明確化が新規資金の流入を促すという理屈は理解できるが、政治的な膠着が長期化すれば市場の失望を買うリスクもある。
ステーブルコイン利回りを巡る銀行と暗号資産の対立

CLARITY法の審議が数カ月遅れた背景には、ステーブルコインの利回りを巡る銀行業界と暗号資産業界の綱引きがあった。
銀行側は、ステーブルコインに利息が付くと預金が大量に流出し、金融システムの安定が損なわれると主張した。一方、暗号資産側は銀行が競争を阻害していると反発した。可決された草案は銀行側に軍配が上がったが、暗号資産プラットフォームが利用実績に応じた報酬を提供することは認められている。
匿名トレーダーの10デルタ氏は、この利回り規制を「表面的なもの」と評した。同氏の分析では、単に保有しているだけで利息を得ることは禁止されたが、ステーブルコインを使って購入や貸付、流動性提供などに参加した際の報酬は明示的に許可されている。実質的な抜け道が残されているというわけだ。
本会議通過に必要な60票の壁

法案が実際に成立するには、本会議で60票の賛成が必要だ。現在、上院の議席数は共和党53、民主党47(無所属含む)であり、少なくとも7人の民主党議員が党の方針に反して賛成に回らなければならない。
スコット委員長は2025年のワイオミング・ブロックチェーンサミットで、12人の民主党議員が市場構造法案に前向きだと発言した。だが、その頃と今では政治情勢が異なる。中間選挙が近づくにつれ、党の結束は強まる方向に働く可能性が高い。
法案成立に楽観的な見方がある一方で、倫理規定を巡る攻防が民主党の造反を難しくしているのも事実だ。特に、大統領の利益相反への懸念はリベラル派の有権者に響きやすく、選挙を意識する議員にとっては無視できないテーマとなる。
倫理問題がキャスティングボートを握る可能性
CLARITY法の技術的な内容、つまり管轄の明確化や消費者保護の枠組み自体には、超党派の支持を得る素地がある。実際、昨年時点では12人もの民主党議員が前向きと見られていた。
問題は、この「超党派合意の可能性」を粉砕しかねない倫理規定の欠如だ。仮に7人の民主党議員を確保できても、倫理面での批判をかわせなければ、党内から「暗号資産ロビーに買収された」とのレッテルを貼られるリスクが残る。
つまり、法律の本質的な中身以上に「誰のための規制か」という政治的なフレーミングが、最終的な投票行動を左右する可能性が高い。ここがGENIUS法との最大の違いであり、CLARITY法の予断を許さない所以だ。
この記事のポイント
- CLARITY法は暗号資産の規制枠組みを明確にする包括法案で、上院銀行委員会を通過した
- 投票は党派色が強く、民主党からの賛成は2名のみ。倫理規定の欠如が大きな争点に
- 業界はGENIUS法成立後のビットコイン高騰の再現を期待するが、本会議では60票が必要
- 大統領の利益相反を巡る批判が、中間選挙を控えた民主党議員の造反を難しくしている

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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