暗号資産(仮想通貨)取引所FTXの破綻をめぐり、同社の主要な法務顧問を務めていた法律事務所が、元顧客らに対する54 millionドル(約5,400万ドル)の和解金支払いに合意した。2022年のFTX崩壊から3年半、巨額詐欺事件の法的決着がいまだ続いていることを示す新たな動きだ。
この和解は、FTXの資金流用を助けたとして提起された集団訴訟(クラスアクション)に対するものだ。同時に、破綻した取引所の資産を債権者に分配する「FTX Recovery Trust」の資産管理手法にも批判の目が向けられており、FTX破綻の余波は単なる刑事裁判の枠を超えて広がっている。
今回の和解は、法的助言を行った専門家の責任範囲を問うものであり、暗号資産業界に関わるすべての法律事務所やコンサルタントにとって無視できない前例となる。本記事では、和解の詳細と、今なおくすぶるFTX関連の火種について解説する。
Fenwick & Westの5,400万ドル和解合意の詳細

シリコンバレーに拠点を置く大手法律事務所Fenwick & West LLPは、2026年5月23日、FTXの元顧客らが提起した集団訴訟において、54 millionドルを支払うことで原告団と和解することに合意した。この和解案はまだ裁判所の承認を得ておらず、今後、米国の判事による審査が行われる。
この訴訟は2023年に提起されたものだ。原告側は、Fenwick & Westが単なる法律事務所としての助言を超え、FTXによる顧客資金の不正流用を積極的に「促進した」と主張してきた。具体的には、取引所FTXとその姉妹企業である暗号資産ヘッジファンド「Alameda Research」との間での資金混同(顧客の資産と自社の資産を意図的に混ぜること)を隠蔽するため、複雑な法人格や法的ストラクチャー(仕組み)の構築を助言したとされる。
この「資金混同」はFTX破綻の核心的な問題だ。通常、顧客から預かった資産と取引所自身の運転資金は厳格に分別管理されなければならない。FTXはこれを守らず、顧客の資金をAlameda Researchのハイリスクな取引に流用していた。Fenwick & Westは、この実態を見えにくくする法的な「抜け道」や「隠れ蓑」を設計した疑いを持たれているわけだ。
原告が指摘する「詐欺の促進」とは具体的に何か
裁判資料によると、原告側の主張は極めて具体的だ。Fenwick & WestはFTXに対し、米国の各州で義務付けられている「送金業者ライセンス(MTL / Money Transmitter License)」の取得を回避するための法的助言を行ったとされている。
送金業者ライセンスとは、銀行口座を介さずに送金や決済を行う事業者に対し、州政府が消費者保護やマネーロンダリング(資金洗浄)防止のために課す許可証のことだ。このライセンスを取得していれば、当然ながら厳格な資産分別管理と定期的な監査が求められる。原告側の論理は、「Fenwick & Westが規制の網をかいくぐる手助けをしたからこそ、FTXは監視の目を逃れて巨額の不正を働けた」というものだ。
つまり、この訴訟は「法律事務所が単に顧客の依頼に従っただけでは済まされない」という法理を問うている。Fenwick & Westは当初、訴訟の棄却を求めていたが、2026年2月に方針を転換し、和解による早期解決を選択したことになる。
5,400万ドルは高いか安いか
今回の和解金54 millionドルは、FTX破綻が引き起こした総額数十億ドル規模の損失額と比較すれば、決して大きな額ではない。しかし、法律事務所への業務提訴という観点では巨額であり、実務に与える影響は小さくない。
事実、Fenwick & Westは今回の集団訴訟とは別に、FTX破綻における役割をめぐって525 millionドル(約5億2,500万ドル)の損害賠償を求める別の訴訟にも直面している。5,400万ドルの和解は、同社が抱えるFTX関連の法的リスクの、いわば「序章」に過ぎない可能性が高い。
FTX破綻が残したもう一つの火種、Recovery Trustへの批判

FTX事件の負の遺産は、単に関係者の責任追及だけにとどまらない。被害者である元顧客や債権者への弁済プロセスそのものにも、強い不満の声が上がっている。
破綻したFTXの資産を管理し、債権者へ分配する役割を担っているのが「FTX Recovery Trust」だ。この信託は2026年3月、債権者に対して約22億ドル(約2,200億円)の第一次分配を実施した。次回の弁済は5月29日に予定されている。
しかし、被害者たちの間では、Recovery Trustの資産運用と売却判断に批判が集まっている。批判の核心は、「焦った安値売却」だ。FTXが保有していた投資先の株式やトークンといった資産を、本来の価値が顕在化する前に急いで現金化してしまっている、というのだ。
AI企業Cursor株の「痛すぎる売却」事例
この批判を象徴するのが、AIスタートアップ企業「Cursor」の株式に関する意思決定だ。Cointelegraphの記事によると、FTX Recovery Trustは2023年4月、Cursorの株式5%を約20万ドル(約2,000万円)で売却した。
生成AIブームの追い風を受け、わずか3年後の2026年4月、その5%株の価値は約30億ドル(約3,000億円)にまで急騰した。わずか20万ドルで手放した資産が30億ドルの価値になったことになる。被害者からすれば、本来であれば自分たちの弁済原資に加えられたはずの巨額の利益を、Recovery Trustが拙速な売却で逃したように映るのも無理はない。
Recovery Trustが抱えるジレンマ
もっとも、Recovery Trustの行動を単純に「失敗」と断じることはできない。倒産管財人や信託の最大の使命は、残された資産を「安全かつ可能な限り早く」債権者に返すことだ。将来の値上がりを期待して未上場のハイリスク資産を持ち続けることは、その損失リスクを被害者に負わせ続けることを意味する。
破綻処理の世界では、将来の価格変動を予測することは求められていない。Cursor株のケースは結果論として悔やまれるが、破綻処理の専門家は往々にして「評価の難しい資産は早期に現金化してでも、確実な分配を優先する」という判断を下す。被害者の「売り急ぎ」という感情と、法的手続きにおける「忠実義務」の間には、埋めがたい溝が存在しているのだ。
暗号資産業界への教訓

一連のFTX関連訴訟と債権者弁済の混乱は、暗号資産業界全体に重い教訓を残している。
第一に、法務・会計・コンサルティングといった「ゲートキーパー」の法的責任が急速に明確化されつつある点だ。Fenwick & Westの和解は、顧客の不正を見逃す、あるいは巧妙化を手助けしたとみなされた場合、その専門家も巨額の損害賠償リスクを負うことを示した。
第二に、破綻処理の難しさだ。分散型金融(DeFi)やトークン化された未上場株式など、暗号資産関連企業が保有する資産は伝統的な金融資産に比べて価格変動が極めて大きい。こうした資産の「公正な清算」がいかに困難か、FTX Recovery Trustの事例はまざまざと見せつけている。
そして第三に、被害者の視点である。詐欺的プロジェクトの犠牲になった投資家にとって、刑事裁判の結果だけでなく、「どれだけ戻ってくるか」が最大の関心事だ。しかし、たとえ被害者救済を謳う機関であっても、その資産管理判断が常に被害者の期待と一致するとは限らない。この構造的な期待ギャップは、今後の大規模な暗号資産破綻案件でも繰り返されることになるだろう。
この記事のポイント
- FTXの主要法律事務所Fenwick & Westが、資金流用を助けた集団訴訟で54 millionドルの和解に合意。裁判所の承認待ち。
- 同事務所はFTXの規制逃れを助けた疑いで、別途525 millionドルの訴訟にも直面している。
- 破綻したFTXの債権者分配を担うRecovery Trustにも批判が集中。AI企業の株式を20万ドルで売却後、3年後に30億ドルの価値になるなど、拙速な売却判断が問題視されている。
- 一連の動きは、暗号資産プロジェクトに関わる法律事務所やコンサルタントの「ゲートキーパー責任」が強化される流れを示している。

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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